2025年に中小企業の半数が廃業するかもしれない?!という問題をご存知でしょうか。
経営者の高齢化と後継者不足による廃業が懸念されており、中小企業庁の試算では約22兆円のGDPと約650万人の雇用が失われる恐れがあるとして、事業承継対策は国をあげてのムーブメントになっています。
政府も大廃業対策のため、事業承継税制の緩和や補助金の創設などを施策し、何とか事業承継の後押しを試みていますが、ファミリービジネス(同族経営)における事業承継の準備は遅れがちと言わざるを得ません。その理由の一つとして、多くの企業が事業承継対策について大きな勘違いをしているという問題があります。
事業承継対策の大きな勘違い
それは「事業承継対策=相続税対策」という勘違いです。
相続税だけ安くすれば全てが解決するのか?
財産さえ次世代に承継できれば解決するのか?
そんなわけはありませんね。
事業承継対策を考えるにあたって、まずはその引き継ぐファミリービジネス自体の価値を上げ、誰もが「継ぎたくなる、買いたくなる」会社にする施策が第一優先です。
例えば、
・ファミリービジネスのビジネスモデル自体が今後激しく変化する経営環境に対してミスマッチを起こしていないか?
・競争力や市場シェアは高まっているか?
・今後も好条件で資金調達できる財務基盤はつくれているか?
・次世代が働きたいと思える職場環境は整っているか?
・将来に渡って一族の成長の礎となるビジネスモデルの基盤はできているか?
・主体性やリーダーシップをもった人材が育つ環境はできているか?
・新たなチャレンジができる風土はあるか?
・本業以外のストックフローは確立されているか?
・創業者の意思、経営理念は組織に浸透しているか?
・次期経営者を組織や一族が支援する体制ができているか。
など挙げればきりがありません。
上記のような取り組みを「磨き上げ」と言い、中小企業庁の「経営者のための事業承継マニュアル」においても強く指摘されています。
会社の「磨き上げ」は時間もかかるし成果も見えにくい。だからこそ現役経営者が取り組むべきだと考えます。節税はその後でも可能ですし同時並行で施策することも可能です。
さらにファミリービジネスにおいて事業承継時は、従来からある一族間の均衡や秩序が大きく動揺する時期でもあります。従来の利害関係の均衡状態が崩れることにより、ファミリービジネスの経営状態が極端に弱くなる可能性も高くなるため、早めの準備が必要です。
なぜ「事業承継対策=相続税対策」という勘違いが起こるのか?
それは、勘違いを引き起こしやすい2つの構造上の問題が存在することが要因として考えられます。
1.株価対策やそれに付随する節税については効果が分かりやすく取り組みやすい事。
2.経営者を取り巻くアドバイザーが株価対策や節税のスキーム営業を行う事が多い。
中小企業庁の調査によると、事業承継を考えた中規模企業が具体的に活用した手段の上位3位は下記のようになっています。(複数回答可のアンケート)
1位:顧問税理士等への照会 59.7%
2位:本・書籍 37.2%
3位:経営コンサルタント・金融機関のセミナー 32%
※中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月、㈱野村総合研究所)
事業承継を考える場合、ほとんどの経営者がまずは顧問税理士へ相談するようです。
しかし税理士とは税務のプロであり、そういった専門職(プロフェッショナル)ほど、その専門分野の中で答えを出そうとするため、節税がメインの提案になって当然です。
事業承継対策とは極めて広い包括的な視野と長い年月が必要であり、「経営」「所有」「家族」の観点から最適解を探さなければなりません。もちろん、局所的に専門家を頼りにすることは必要ですが、各々の専門家が別企業であり利害関係がある中、専門家に最適解を求めるのは難しいと言わざるを得ません。
経営者を取り巻くアドバイザーの代表例
経営者を取り巻くアドバイザーの収益構造は、アドバイス自体からの収益よりも、そのアドバイスを実行するために必要な商品提供からの収益の方が高額となっている場合が多いです。そのため、アドバイス内容も、自社商品に誘導するような内容であったり、自社の提携先の紹介といった提案がほとんどです。
アドバイザーも利益を得なければ活動できないのですが、利益追求する反面、顧客との利益相反になっている事も多々ありますので注意が必要です。
顧問税理士
相続に強い顧問税理士であれば、提案内容は暦年贈与の活用・生命保険の活用・不動産の活用・組織再編など、相続税を下げる節税提案が多くなります。ただし顧問税理士には注意が必要で、税理士の数と年間の相続税申告における被相続人数を割った税理士一人当たりの被相続人は約2人です。一般的に年間10人以上の相続税申告案件に携わっていると相続税に強い税理士と言われています。
つまりほとんどの税理士は相続税申告にすらほぼ関与した事がない、あったとしても事例は僅か、というのが実態です。
コンサル会社
事業承継対策を専門にしている税理士法人が母体となっているコンサルファームは主にスキームの提案を行います。そのスキームが全体最適を考えた際に有効であればもちろん良いのですが、既存スキームを使いまわすケースが散見され、その内容理解が難しいことから経営者自身が比較検討できずに言われるがまま提案にのってしまう例が後を絶ちません。
スキーム提案は報酬が高額になる、また実行支援は別報酬になることも多いため、複数社から提案を受けるなどして慎重に検討しましょう。
銀行
銀行単体としては主に融資の動く提案を行います。ホールディングスを作った後の株式の買い取りなどです。融資が動く提案以外では提携先のコンサル会社を紹介、節税に繋がる生命保険や証券の提案などになります。
信託会社、保険会社、不動産会社、その他各士業など
主に節税や遺産分割などに活用できるとされる自社商品の販売が主な提案です。
事業承継対策は現状分析・計画作り・磨き上げ・対話からスタートしましょう
前述のとおり、アドバイザーはその問題解決領域が事業承継においては局所的で、さらには利益相反する可能性がある以上、全体最適かつ自社利益を追求したアドバイスを求めることは構造上困難なところがあります。
それを踏まえ、経営者自身も主導的に考え、その上全体最適を共に考えてくれる、利害関係が一致するアドバイザーを見つけることが事業承継を成功させる必須条件です。
まずは現状分析でファミリービジネスにとっての課題を洗い出し、将来にわたって実現したい理念やビジョンを含めた計画の策定と実行を繰り返して会社を磨き上げ、組織の仲間やファミリーとしっかり対話を行いましょう。そして思いを共感してもらい、それらを引き継ぐ人材を育てる環境を準備する必要があります。
そして株価対策をはじめとした節税対策のような「支出を減らす」対策だけではなく、資産を「増やす」対策も必要です。そのためには一族の金融リテラシーを上げることと、ビジネスと一族の全体最適を考えたウェルスマネジメントが必須となります。
次世代に引き継ぐべき財産は財的資本と人的資本と知的資本の3種類ありますが、3つの資本がバランスよく継承されてこそファミリーの反映と成長は実現されます。しっかりと準備をしていきましょう。(提供:THE OWNER)