仕事は「自分の頭で考えなさい」「考えなしに動くな」とよく言われる。だが、常に考え続けるのが良いというわけではない。
ビジネスは考えずに行動すべき局面と、深い思慮が求められる要素に2分できる。今回は行動と考動のハイブリッド型でビジネスに取り組むべき理由を解説する。
「行動」と「考動」の違いとは?
「行動」と「考動」という言葉がある。両方とも「こうどう」と読む点では同じだ。だが次のような意味の違いがある。
・行動(act without thinking):実際に活動すること
・考動(act while thinking):自ら考え、明確な意志と目的に基づいて動く
一見すると「同じ活動を興すというなら思考を付帯させたものの方が優れているのでは?」と思われがちだろう。日本で企業に就職して先輩社員に質問をすると、「自分で考えてやれ」と叱られてしまう、というのは現代でも残っている慣習ではないだろか。
「考動」が必要な場面
考動とは、考えて行動するというプロセスを指す。「考える」には戦略策定や、結果の分析など思慮深さを感じさせる。実際、ほとんどのビジネスは戦略で勝負が決まる世界だ。市場規模がなければ、ライバルもいないが顧客もいないことになるし、コストリターンを考慮しなければ、取り組みの途中で資金が尽きて撤退を余儀なくされる。
ビジネスの目的を「利益の捻出」に置く前提ならば、考えながらビジネスの活動に取り組むのは、経営者が持つべき必携の思考といえるだろう。
「行動」が有益な場面
だが、しっかりと考えずに行動することもビジネスでは求められる。
たとえば、データが一切ない領域で勝負する場合などがこれにあたる。未知の領域は文字通り、未知なのだからやる前にいくら考えても答えが出ることはない。「経営者の適正」などがまさにその好例であろう。ビジネスとしては稼げても、己の大義と人生をかけて取り組む価値があるかないかはやってみないと分からない。
筆者はまさに過去にそのような経験を持っている。米国の大学で会計学を専攻し、キャリアアップを重ねて最後には外資系企業で国際経営企画職に就いた。自分が目指していた目標にたどり着いた時に分かったことは「自分はこの分野の適性がない」という事実だった。
年収は想定以上に得られたし、仕事の内容もダイナミックでやりがいが無いとは言えない。だが、心のそこから一生続けていきたいか?と問われれば答えはNOであった。これはキャリア選定をする際に、どれだけ考えても決して答えが出ない類の解である。
「やってみなくては語れない」という世界は少なくないのだ。
考えるほどダメになるケース
考えることは良いことと思われがちだが、そうではない。
ビジネスには楽しい局面と、忍耐が要求される局面がある。時には気が進まない、楽しさを感じられない、だがやらなければいけない仕事もあるだろう。そんな時に深く思考すると、人はその思考の出口を「やらないで済む方法を捻出する」という、もっとも避けるべき結果を導き出してしまう。
単純な話、経営者が体力をつけるためにスポーツジムに通うという時に「今日はいくか?いかないか?」と考え始めると、いかない理由を導き出してしまう。「雨が降っている」「あまり根を詰めると良くない」といったもっともらしい理由が出てきて、結局筋トレという大局的に目指すべき人生目標を、その日に休むという大義名分に上書きされてしまうのだ。
こうした時は「考動」ではなく「行動」をするべきである。つまりは考えずに「とにかくジムに行く」と決めたことを思考停止して取り組むという姿勢だ。人間のやる気はやった後に湧いてくるものなので、どうしても気乗りしなくてもやってみると「せっかく来たし、最後までやっていこう」と目的を完遂できるのである。
考動も行動もビジネスには必要
結論的には、両方の要素が必要であるわけだ。
ビジネスは多面的な要素が重なり合っている。各レイヤーで求められる要素は異なるので、考えるべきフェーズでは考動するべきであり、動いてデータを収集したり適正を見極めたりルーティングを守ったりするフェーズでは動くことを目的化しても良い。
そのレイヤーを見極め、適切な振る舞いとスタンスを切り替えるスキルが、経営者には求められているのであるのだ。(提供:THE OWNER)
文・黒坂 岳央(水菓子肥後庵代表 フルーツビジネスジャーナリスト)