近年、全国で急速に空き家が増加し社会問題として深刻化しています。空き家のまま放置される物件が増えることでさまざまな問題やリスクが起こるため、早急な対策が求められています。多くの物件オーナー様にとっても看過できない問題ではないでしょうか。そこで利用したいのが、自治体のオープンデータを活用した「空き家・空き地バンク」です。どのようなシステムなのか、その仕組みとメリットを見てみましょう。

空き家問題の現状

オープンデータ
(画像=Cherries/Shutterstock.com)

最初に空き家の現状を確認しておきましょう。総務省が公表した「平成30年住宅・土地統計調査」によると全国の空き家は848万8,600件。前回調査(平成25年住宅・土地統計調査)では約820万戸だったことから、5年間で約30万戸増えていることになります。これはここ数年だけの傾向ではなく空き家数はこの50年にわたって年々増え続けています。

空き家が増えると、雑草などによる景観の悪化やゴミの不法投棄、犯罪者の侵入など地域社会をおびやかす問題のほか、地震による倒壊などの危険も発生します。これらは、周辺住宅の価値をも下げる原因になりかねません。
また自治体にとっては、空き家のままでは住民税を徴収できないだけでなく住宅政策も進まなくなります。

「オープンデータ」とは何か

この状況を打開するため、オープンデータを活用する動きがあります。
オープンデータとは一言でいうと「誰でもが利用可能なデータ」のこと。「機械で判読できるデータ形式で、二次利用が可能」というルールで公開されたデータを指します。ルールの範囲内であれば誰でも自由に複製や加工、頒布ができるため、さまざまな社会問題の解決に活用されつつあります。

元々オープンデータが注目された理由として東日本大震災が挙げられます。社会インフラの情報がオープンソースとして今ほど公開されていなかった当時、迅速な被害状況と復旧に向けての情報共有に時間がかかったという事情がありました。このことから広く国民に利するデータを公開する動きとなり現在に至ります。

地方自治体の「オープンデータ推進ガイドライン」におけるデータの公開方法は、以下のとおりです。
・地方公共団体が運営するWebサイトで公開する
・政府各省や民間団体が運営するWebサイトに掲載する
・分野を横断して検索できるデータカタログサイトを構築する

オープンデータの利用事例「全国版空き家・空き地バンク」

実際にオープンデータはどのような形で空き家問題に利用されているのでしょうか。オープンデータを活用した空き家対策の代表的な事業に、「空き家・空き地バンク」があります。

空き家・空き地バンクでは、まず各市区町村が物件を募集し、売却または賃貸を希望する空き家・空き地所有者がエントリーします。市区町村がその情報をオープンデータとしてWebサイトなどで公開し、利用希望者が市区町村に申し込みます。市区町村は仲介のみを行い、実務は連携する宅地建物取引業者が担当する仕組みです(※自治体によって多少異なる場合があります)。

空き家・空き地バンクで契約が成立した空き家をリフォームして賃貸する場合、自治体によってはリフォーム費用に補助金が出るところもあります。
例えば、千葉県南房総市には空き家改修費用について200万円を上限として3分の2を補助する「空き家利用促進奨励金」があります。居住者には住民票の移動が求められるため、地域の活性化にもつながります。自治体にとっても、メリットがある制度といえるでしょう。

国土交通省は空き家・空き地バンクをさらに拡充すべく、「全国版空き家空き地バンク」を開始しました。全国に点在する空き家・空き地の情報を簡単に検索できる仕組みで、2019年2月時点の参加自治体は全国で603に上ります。のべ9,000件の情報が掲載され、すでに1,900件以上が成約に至っています(全国版運営は、公募によって選定された株式会社LIFULLとアットホーム株式会社)。

これによって、地元で物件を探す場合は自治体のサイトを、全国で探す場合は「全国版空き家空き地バンク」を利用するという、使い分けができるようになりました。

空き家・空き地問題に対する政府の対策

政府は上記「空き家・空き地バンク」だけにとどまらない空き家・空き地問題の対策を始めています。2020年度の税制改革大綱において、保有期間5年以上の500万円以下の低未利用地を売却した場合、100万円の特別控除が利用できるようになりました。100万円以下の土地を売った場合は、非課税ということになります。

この制度では家屋を含めて売却した土地も対象になるため、購入者がリフォームしてセカンドハウスにしたり、更地にして駐車場にしたりするなど、さまざまな用途に活用されることが期待できます。

オープンデータ活用をさまざまな問題解決へ

空き家・空き地問題だけでなく、オープンデータはさまざまな分野で活用され始めています。

例えば2020年1月23日、NTTドコモと三菱総合研究所がオープンデータを活用した協業サービスの提供について発表しました。これは自治体が保有するデータを活用し介護予防事業へ応用、高齢住民の健康寿命を延ばすことで自治体が負担する医療費や介護費を抑制することを目的としたサービスです。

このようにオープンデータは、今後もさまざまな分野で利活用されると考えられます。
実際に空き家・空き地バンクなどオープンデータを活用する取り組みや政府施策によって、問題解決へ少しずつ動き出しているといえるでしょう。
不動産所有者や物件オーナー、不動産投資家が空き家・空き地問題にオープンデータを活用することはもちろん、新しいビジネスや経営戦略、改善の手立てとしてもオープンデータは大きな可能性を秘めているといえるでしょう。(提供:ビルオーナーズアイ


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