税理士や会計士をはじめ、中小企業のM&Aを助けてくれる専門家は多く存在する。その中でも、「弁護士」の役割や業務内容をご存じだろうか。本記事では弁護士に依頼するメリットに加えて、役割や料金体系、選び方のポイントまでを幅広く解説していく。

M&Aにおける弁護士の役割とは?

M&A
(画像=PIXTA)

M&Aはさまざまな経営課題の解決に役立つが、各工程を進めていくうちに新たなリスクに直面するケースは珍しくない。たとえば、企業文化の統合がうまくいかなかったり、想像以上に税金が発生したりなど、M&Aによって生じるリスクは数多く存在する。

そのようなリスクを抑えるために、M&Aでは専門家に相談をするケースが一般的だ。ただし、1人の専門家がサポートできる範囲には限りがあるため、仲介会社などでは弁護士や税理士、専門のコンサルタントなどがチームを組み、多角的にサポートする形が主流となっている。

では、M&Aをサポートしてくれる各専門家は、具体的にどのような役割を担っているのだろうか。

M&Aをサポートする主な専門家役割
・弁護士トラブルに発展しがちな各契約や、M&Aによって生じる法的規制・法的問題の面でアドバイスをする。
・税理士売却益に対して課せられる税金など、主に税務の面でアドバイスをする。
・会計士財務デューデリジェンスなど、企業の財務に関する面をサポートする。
・コンサルタント(アドバイザー)M&A計画の策定から成約まで、幅広い工程をサポートする。

上記の中でも「弁護士」は、M&Aにおいて発生しがちな法的トラブルへの対策をサポートしてくれる。買い手・売り手の間で交わされる契約関係はもちろん、法務デューデリジェンスやM&A後の事業の進め方についてもアドバイスをしてくれるため、弁護士に相談をするだけで当事者の安心感はぐっと高まるはずだ。

M&Aをきっかけとして海外に進出するケースなど、いかにも法的トラブルが発生しそうなM&Aを予定している場合には、真っ先に弁護士への相談を検討しておきたい。

M&Aではどんな業務を依頼できる?弁護士の主な業務内容

M&Aにおいて弁護士をうまく活用するには、弁護士の役割をしっかりと理解しておくことが重要だ。そこで以下では、実際に弁護士へ依頼できる業務内容を細かくまとめた。

予定しているM&Aをイメージし、「どんなことを相談するべきか?」を検討しながら、弁護士の各業務をチェックしていこう。

1.法的構成を意識した最適な手法の選択

株式譲渡や合併をはじめ、M&Aの手法は多岐にわたる。詳しくは割愛するが、M&Aは手法によってメリット・デメリットが大きく異なり、法的構成(法律に関わる要素)も変わってくるため、各シーンに最適な手法は慎重に選ばなくてはならない。

そこで当事者を専門的な視点でサポートしてくれる存在が、本記事で解説している「弁護士」だ。弁護士は各手法の法的構成を熟知しているため、よりスムーズな形でM&Aを進める手法を提案してくれる。

2.法的トラブルを見越したスケジュールの作成

法的トラブルを見越したスケジュールの作成も、M&Aにおける弁護士の重要な業務だ。さまざまな法律が複雑に絡み合うM&Aでは、想定外のトラブルに巻き込まれてしまうケースが珍しくない。

そのような法的トラブルが発生した場合、当初のスケジュールから大きく遅れることで、新たな弊害が生じることもあるだろう。こういった事態を防ぐには、トラブルを想定したうえで無理のないスケジュールを組み、進捗管理にも力を入れる必要がある。

M&Aに携わる多くの弁護士は、スケジュールの作成から進捗管理までを広くサポートしてくれるため、進捗遅れによる弊害をしっかりと防いでくれるはずだ。

3.相手企業への代理交渉

一般的なM&Aにおいて、「交渉」は必ず必要になる工程。自社にとって譲れないポイントを明確にし、相手企業の意見もしっかりと受け入れたうえで、お互いに妥協できるラインを探さなくてはならない。

M&Aをサポートしている弁護士は、この交渉にも積極的に力を貸してくれる。法的な観点から代理交渉をしてくれるだけではなく、交渉項目の抽出を行ってくれる点も覚えておきたいポイントだ。

弁護士はさまざまな場面での交渉に慣れているため、依頼人にとっては非常に心強い存在になるだろう。

4.正確な契約書の作成

担当しているM&Aの状況を理解し、常に正確な契約書を作成してくれる点も弁護士ならではの強みだ。弁護士は不備のない契約書を作成してくれるため、依頼人は安心して契約の場に臨める。

大きな資金が動くM&Aにおいて、契約関係の不備は深刻なトラブルにつながりかねない。さらに、M&Aでは数多くの契約書類が必要になるため、手間を防ぐ意味合いでも契約書の作成は専門家に任せたいところだろう。

5.必要な専門家の招へい

前述でも解説した通り、M&Aは1人の専門家だけで進めるものではない。専門家ごとに得意分野は異なるため、普段からM&Aをサポートしている弁護士は、基本的にほかの専門家とのネットワークを有している。

そのような弁護士にM&Aを相談すれば、必要なタイミングで別の専門家を招へいしてもらうことが可能だ。財務関係は会計士、税務関係は税理士のように各専門家のサポートを受けられれば、より理想的な形でM&Aを進められるだろう。

M&Aを弁護士に相談・依頼する4つのメリット

M&Aを弁護士に相談・依頼するメリットとしては、主に以下の4点が挙げられる。以下の点に魅力を感じる経営者は、弁護士への相談を積極的に検討しておきたい。

1.あらゆる法的トラブルを防止・解決してくれる

あらゆる法的トラブルに対処してくれる点は、弁護士に相談・依頼をする最大のメリットだ。多くの資金や資産が動くM&Aには、法律面におけるさまざまなルールが設けられているため、M&Aの実施後に思わぬ法的トラブルに見舞われる可能性は決して低くない。

たとえば、M&A実施後に重大な法令違反が発覚すると、契約自体が無効になるどころか、刑事・民事を含む裁判に発展することもある。その結果、多額の賠償金が発生する状況になれば、中小企業の経営は一気に傾いてしまうだろう。

法律のプロフェッショナルである弁護士は、このような法的トラブルを未然に防ぎ、万が一トラブルに見舞われた場合も迅速に対応してくれる。法的トラブルは深刻な事態につながるケースが多いため、M&Aを計画している企業にとって法的リスクを抑えられる意味合いは想像以上に大きい。

2.交渉を有利に進められる可能性がある

弁護士は法律のプロであるとともに、交渉のプロフェッショナルでもある。特にM&Aの経験が豊富な弁護士は、法律面や過去の前例から各ケースに最適な交渉項目を抽出してくれるため、場合によっては相手企業との交渉を有利に進められるだろう。

買い手・売り手のどちらの立場であっても、「交渉」は非常に重要な工程だ。売買金額をはじめ、会社の将来性や従業員の扱いも交渉によって決まってくるため、交渉がM&Aの成否を左右するといっても過言ではない。

3.M&Aがスムーズに進み、かつ経営者の手を空けられる

前述でも解説した通り、弁護士にM&Aを相談・依頼するとさまざまな業務を任せられる。相談先によってはスケジュールの策定から関わってくれるため、成約までにかかる時間を大きく削減できるだろう。

また、書類作成や分析のように細々とした業務を任せられる点も、弁護士に依頼をする大きなメリットだ。幅広い業務を任せることで経営者の手を空けられるため、経営者は本業やそれ以外の業務に力を入れられる。

4.相談先によってはM&A実施後にもサポートを受けられる

さまざまな法律が絡み合うM&Aでは、実施後に法務リスクが顕在化することもある。どれだけ入念にデューデリジェンスを実施しても、すべての法務リスクを完璧に防ぎきることは難しいのだ。

そのため、M&Aを成約させるまでのサポートに加えて、実施後のアフターフォローをサービスに含めている弁護士は珍しくない。そのような相談先を選べば、M&A実施後に起こりがちなさまざまな法的トラブルに対して、迅速に対処ができるようになる。

コストはどれくらい?弁護士にM&Aを依頼した場合の料金体系と相場

ここまで解説した通り、M&Aにおける弁護士は非常に心強い存在だ。しかし、専門家に相談・依頼をするとなると、多くの経営者は「依頼コスト」に対して不安を感じるだろう。

弁護士にM&Aを依頼する場合のコストは、実は相談先によって大きく異なっている。たとえば、相談するだけなら無料、成約しなければ報酬は発生しないなど、専門家ごとに採用している料金体系が大きく異なるためだ。

そこで以下では、依頼時に発生する可能性があるコストと、各コストの一般的な相場をまとめた。「相談先によっては発生しないコストがある点」と「あくまでも相場の金額である点」を理解したうえでチェックしていこう。

発生するコストの種類相場概要
相談料無料~数万円依頼内容を相談する際に発生するコスト。無料相談を受け付けている弁護士も存在する。
着手金無料~数百万円M&Aの相手企業を探す際に発生するコスト。成約しなくても返金されないコストではあるが、近年では着手金が発生しない相談先も珍しくない。
顧問契約料月額数万円~「リテイナーフィー」とも呼ばれる、月額報酬のこと。毎月支払うケースが一般的ではあるものの、業務内容に応じてその都度支払うケースも見られる。
契約書作成料
デューデリジェンス費用
50万円~相談先によって、料金体系が大きく変わってくるコスト。最低金額が設定されている事務所もあれば、「1時間ごとの料金」が設定された事務所も存在する。また、依頼内容によっては追加請求が発生する可能性もある。
成功報酬譲渡金額によって異なるM&Aが成約した場合に発生するコスト。金額については弁護士と依頼者の協議によって決められる場合もあるが、基本的には「レーマン方式」によって算出されるケースが多い。

上記の中で最も高いコストになるのは、譲渡金額によって計算される「成功報酬」だ。中小規模のM&Aであっても、成功報酬だけで1,000万円を超えるケースは珍しくないので、以下ではこの成功報酬の決め方を詳しく見ていこう。

成功報酬の計算に用いられる「レーマン方式」とは?

レーマン方式とは、報酬基準額に応じた料率テーブルをあらかじめ用意し、「報酬基準額×料率」で成功報酬を計算する方式のことだ。具体的な数値は相談先によって多少異なるが、一般的には以下のような料率テーブルが用意されている。

報酬基準額料率
5億円以下の部分5.0%
5億円超~10億円以下の部分4.0%
10億円超~50億円以下の部分3.0%
50億円超~100億円以下の部分2.0%
100億円超の部分1.0%

仮に報酬基準額を1億円とすると、弁護士への成功報酬は「1億円×5.0%=500万円」の式で算出される。計算式としてはシンプルだが、以下のように「報酬基準額の決め方」が複数存在する点には注意しておきたい。

報酬基準額の決め方概要
株式価値基準株式の売買額を報酬基準額にする決め方。
オーナー受取額基準株式の売買額に、役員借入金などを加算した金額を報酬基準額にする決め方。
企業価値基準株式の売買額に、有利子負債を加算した金額を報酬基準額にする決め方。
移動総資産基準株式の売買額に、すべての負債を加算した金額を報酬基準額にする決め方。

たとえば、「株式価値基準」と「移動総資産基準」とでは、報酬基準額に数億円の違いが生じるケースも珍しくない。特に銀行借入金などの負債が多い場合には、報酬基準額の決め方によって成功報酬にも大きな違いが出てくるため要注意だ。

ここまでをまとめると、弁護士にM&Aを依頼した場合に発生するコストは、株式の売買額によって大きく変わってくる。規模が小さければ数百万円で済む可能性もあるが、売買額が数億円にのぼるようなケースでは、中小企業のM&Aであっても数千万円のコストが発生する。

そのほかのコストも軽視できるわけではないが、中でも成功報酬は大きな負担になりやすいため、各相談先の料金体系は細かく確認をしておこう。

M&Aに強い弁護士の選び方とは?弁護士探しの3つのポイント

ほかの専門家と同じように、弁護士にも得意分野・苦手分野がある。すべての弁護士がM&Aに詳しいとは限らないため、少しでもM&Aの成功率を高めたい場合には、弁護士選びにも力を入れることが重要だ。

これから弁護士を探す経営者は、以下のポイントをしっかりと押さえて相談先を選んでいこう。

1.弁護士個人のM&Aの実績が豊富

これまでこなしてきた「M&Aの実績」は、弁護士選びのわかりやすい判断基準だ。特に、同じ業界や会社規模のM&Aを多く取り扱っている弁護士は、依頼人にとって心強い存在になるだろう。

ただし、M&Aの実績を判断する際には、事務所全体ではなく「弁護士個人の実績」に注目しておきたい。たとえば、事務所全体として100件の取扱実績があっても、その実績が100人の弁護士に分散している事務所は、M&Aに強いとはいえない可能性がある。

ホームページなどから個人の実績を読み取れない場合は、相談時に直接質問することも考えておこう。

2.M&Aの全体像を把握している

M&Aの全体像を把握しており、「最初から最後まで主導してくれる弁護士」を選ぶことも重要なポイントだ。特定の分野にしか詳しくない弁護士を選ぶと、どこかの工程で致命的なミスが発生してしまう恐れがある。

たとえば、複数人で大規模案件をこなしている事務所では、各担当者がM&Aにおけるすべての工程を理解しているわけではない。そのような事務所が少人数で中小規模の案件を進めると、どうしても各工程の質が下がってしまう。

やり取りをする弁護士が増えるとコミュニケーションの手間にもつながるため、特に中小規模のM&Aを依頼する場合には、相談からクローズまで安心して任せられる弁護士を選ぶようにしよう。

3.別の専門家とのネットワークを有している

M&Aは弁護士だけで進めるものではなく、ときには税理士・会計士など他の専門家の力も必要になる。そのため、M&Aに力を入れている弁護士は、他分野の優秀な専門家とのネットワークを有しているケースが多い。

こういった弁護士に依頼できれば、相談内容に応じて必要な専門家を紹介してもらえるはずだ。税務リスクや財務リスクをはじめ、M&Aには法律以外の部分にも深刻なリスクが潜んでいるため、弁護士以外の専門家の力もぜひ借りておきたい。

相談内容を整理し、各ケースに最適な相談先を

M&Aにはさまざまな法的リスクが潜んでいるため、中小規模の案件であっても弁護士の力を借りることが望ましい。ただし、弁護士にも得意分野・苦手分野があるため、自社が相談したい内容を今一度整理したうえで、各ケースに最適な相談先を選ぶことが重要だ。

もちろんコストや料金体系も意識しながら、自社のM&Aを全面的にサポートしてくれる弁護士を探してみよう。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部