企業の規模に関わらず、新規事業を成功させることは難しい。しかし、新規事業に潜んでいるリスクや失敗要因を把握しておけば、ある程度の対策を立てることは可能だ。少しでも成功率を高めるために、新規事業に潜む落とし穴や対策集などを確認していこう。

新規事業はなぜ失敗する?失敗を招く5つの要因

新規事業
(画像=PIXTA)

新規事業の失敗を防ぐには、「失敗を招く要因」を明確に理解しておくことが重要だ。その要因をひとつずつ潰していけば、新規事業のリスクは自然と抑えられる。

実際の要因はケースバイケースだが、まずは失敗につながりやすい主な要因をチェックしていこう。

1.単なる準備不足

経営者の「準備不足」は、新規事業の失敗を招く最大の要因だ。そもそも新規事業はリスクが高いものであるため、商品・サービスを販売するまでには、万全の準備を整えなくてはならない。

では、具体的にどのような状況が準備不足に該当するのだろうか。

〇新規事業における準備不足の例
・コンセプトが曖昧なまま事業を進めている
・経営者の知識やスキルが不足している
・人材をはじめとした経営資源が足りていない
・市場分析に時間をかけていない
・準備を進めるための資金が不足している など

上記の中でも「経営者の知識・スキル不足」は、非常に深刻な問題といえる。経営者としてのノウハウは、基本的に実社会を通して身につけるものであるため、すぐに解決できる問題ではない。

このように、露呈する準備不足の内容によっては、ビジネスプランの根幹が揺らいでしまう。そういった事態に陥らないように、新規事業の準備は丁寧に進める必要がある。

2.モチベーションの低下

なかなか成果が出ないことによる「モチベ―ションの低下」も、新規事業の失敗につながる要因だ。参入する市場にもよるが、新規プロジェクトの運行中に収益が発生しないケースは決して珍しくない。

このようなケースでは、コストだけが積み重なっていく状況がしばらく続く。そのプレッシャーを大きく感じ過ぎると、人は次第に新規事業への情熱を失ってしまうのだ。

成果が出るまでに長期間を要する新規事業は、強い熱意がなくては成功しない。これから新規事業に取り組む経営者は、各担当者やチームのメンバーも含めて、新規事業に対する熱意を今一度確認しておこう。

3.自信の持ちすぎ

新規事業にある程度の自信は必要だが、「自分なら絶対にうまくできる」と過信することは危険だ。ビジネスモデルや事業計画自体が立派であっても、それを実行するために必要な知識・スキルがなければ事業は成功しない。

また、新規事業に対して自信を持ちすぎると、経営者は「軌道修正すること」を忘れてしまう。社内環境や市場環境は常に移り変わっていくため、状況に応じてプロジェクトに軌道修正を加えることは必須となる。

どんなに優れたビジネスプランがあっても、その全てが当初の計画通りに進むわけではないので、常に客観的に状況を判断することが重要だ。

4.顧客のニーズをくみ取れていない

斬新なビジネスアイデアを思いつくと、多くの経営者は「これは革命的なプロダクトだ」と前向きにとらえる。しかし、いくら革命的なビジネスであっても、それが顧客のニーズに結びつかなければ収益は生まれない。

新規事業を成功に導くには、プロダクトではなく「顧客や市場」にフォーカスする必要がある。斬新な商品やサービスでいくら目を引いても、最終的に顧客が「お金を払って購入したい」と感じなければ、ビジネスを成功させることは限りなく難しい。

当然の話ではあるものの、プロダクトにこだわり過ぎるとこの部分が見えなくなる恐れがあるため、経営者は細心の注意を払っておこう。

5.市場参入のタイミングを間違える

市場参入のタイミングは、新規事業の成功を左右する非常に重要なポイントだ。製品のリリースに向けて万全の準備を整えても、以下のようなタイミングで市場に参入すると、ビジネスの成功率はガクッと下がってしまう。

〇失敗につながりやすい市場参入のタイミング
・流行やブームが去り、製品の需要が下がった時期
・製品の認知度が低く、まだ需要が伸びていない時期
・すでに需要はあるものの、競合他社によって競争が激化した時期

新規事業を成功させるには、需要が高く競争率が低い時期を狙って市場に参入しなければならない。時期を間違えると、これまでの準備を台無しにしてしまう恐れがあるので、市場参入のタイミングを意識して全体のスケジュールを組む必要がある。

意外な落とし穴にも注意!新規事業を失敗させる罠

新規事業においては、いかにも正解に見えそうな行動が失敗を招くケースも珍しくない。そのような「意外な落とし穴」についても、事前に対策を考えておくことが重要だ。
そこで次からは、経営者が特に注意しておきたい3つの落とし穴を紹介していく。

1.新規事業に対して強い愛着をもつ

長期間したためてきたビジネスプランに対して、愛着が湧いている経営者は多いことだろう。しかし、その愛着があまりにも強すぎると、状況を客観的に判断することが難しくなってしまう。
経営者が今後取り組める事業はひとつではないので、仮に新規事業が失敗しそうな状況に直面したら、「撤退する選択肢」を検討することが重要だ。固執するあまりに引き返す選択肢を失うと、再起を図ることさえできなくなる。
そもそも新規事業の成功率は低いものであるため、その点をきちんと理解したうえで常に「客観的な判断」を意識しておきたい。

2.人材を雇い過ぎる

新規事業をスムーズに進めるには、ある程度の人材が必要だ。しかし、だからと言ってあまりにも多くの人材を雇うと、将来的に人件費が大きな負担となって圧しかかってくる。

売上や顧客の動向が安定していない新規事業では、急に仕事が減るようなケースが珍しくない。このような状況下で人材過多が発生していると、多くの人件費をムダにしてしまうだろう。

実は新規事業の人員については、「人が足りないくらいがちょうどいい」といわれている。関係者が多いほどコストがかさばり、全体をまとめることも難しくなるため、人材の雇い過ぎには細心の注意を払っておこう。

3.既存事業と数字で比較をする

新規事業に対して不安を感じている場合、何かしらのデータで不安を埋めようとする経営者は多い。もちろん、中には役に立つデータも存在するが、「既存事業と新規事業の違い」は明確に理解しておくべきポイントだ。
競合他社が行っている既存事業と、最近はじめた新規事業とでは、割いているリソースが大きく異なる。市場参入のタイミングも全く違うため、仮にリソースが同じであったとしても似た売上になるわけではない。

したがって、既存事業と新規事業を数字で比較すると、必要以上に焦ってしまうなどの思わぬ落とし穴にはまる。参考になる比較ポイントもあるが、既存事業と新規事業とではそもそも比べられない点が数多くあるため注意しておきたい。

実際にはどんな失敗が多い?新規事業の失敗事例

ここまでは、新規事業が失敗する要因を詳しく解説してきたが、実際にはどのような失敗が起こりやすいのだろうか。以下では、新規事業で発生しがちな失敗事例を3つまとめた。
同じ失敗を経験しないように、自社のケースと比較しながらしっかりと読み進めていこう。

1.経営資源の過不足による失敗

最初に紹介するのは、「経営資源の過不足」が要因となった失敗事例だ。経営資源が不足している状況はもちろんだが、経営資源を確保しすぎる行動も新規事業では失敗につながる。

〇経営資源の過不足による失敗事例
【ケース1】
予算が限られたA社では、できる限り節約しながら新規事業を進めようとした。しかし、その間に積極的に投資を行う競合他社が現れ、市場シェアの大部分をとられてしまった。

【ケース2】
「成長スピード」を重視するB社は、新たな問題を抱えるたびに追加で人材を増やしていた。その影響で業務の処理速度は上がったものの、人材コストが大きく膨れ上がってしまい、結果的に成長スピードが下がってしまった。

新規事業では不測の事態がひんぱんに発生するため、「必要な経営資源」を正確に見積もることは難しい。だからこそ、計画を立てる段階で細かく見積もっておかないと、どうしても上記のような失敗が発生してしまう。

2.準備の過不足による失敗

経営資源と同じく、「準備」も事前に適切な量を考えておく必要がある。準備不足が失敗につながることは想像に難くないが、実は準備のしすぎも思わぬ失敗を引き起こすため要注意だ。

〇準備の過不足による失敗事例
【ケース1】
スケジュールが遅れがちなA社は、市場分析を簡単に済ませて製品をリリースした。その結果、想像以上に売上が伸びず、市場分析が不十分であったことから適切な打開策も思い浮かばない状況に。思いつくままに製品改良などを試してみたものの、最終的には事業から撤退せざるを得なくなった。

【ケース2】
B社の経営者は「失敗したくない」との想いから、市場参入の前に徹底的にデータを集めることにした。データ集めは無事に終わり、市場分析や顧客分析の面でも納得できる製品を開発。しかし、その間に競合他社が市場に参入しており、シェアの大部分をとられてしまった。

【ケース2】のように準備に時間をかけ過ぎると、市場参入のタイミングが遅れてしまう。どうしても準備に時間をかけたいのであれば、市場参入を遅らせるのではなく、その分早めに行動を始めなければならない。

特に未開拓の新規事業については、競合他社に後れをとると致命的なダメージにつながりかねないため、綿密なスケジュールを立てる必要がある。

3.安易に「協業」に飛びついたことによる失敗

協業とは、複数の企業が協力しながら事業を進めることだ。協業話をうまく取りまとめると、市場内で強いポジションを築ける可能性があるため、協業を持ちかけられると積極的に検討する経営者は多い。

しかし、以下で紹介する失敗事例のように、協業にも意外な落とし穴が潜んでいる。

〇準備の過不足による失敗事例
【ケース1】
いち早く新規事業に着手したA社は、他社から協業話を持ちかけられた。A社の経営者は興味を示したものの、慎重な姿勢は崩さずに条件面をじっくりと話し合った。数ヶ月後になんとか折り合いがつき、大手企業と協業を結ぶことに。しかし、交渉に手間をかけた影響で本業がやや疎かになっており、いつの間にか競合他社に業績を抜かれていた。

【ケース2】
以前に協業を持ちかけられたB社は、1ヶ月前から複数社と協力する形で新規事業を進めている。しかし、各社の役割やポジションをはっきりとさせていなかったことから、「どの会社が主導権を握るのか?」で揉める展開に。結局、複数社での協業は解消する結果となり、無駄な労力を費やしてしまった

新規事業で協業に取り組む場合は、条件面での折り合いをつけることが難しい。どの企業にも譲れない部分があるため、ときには【ケース2】のようにトラブルに発展してしまう可能性がある。

協業をスムーズに進めるには、各企業がじっくりと協議・交渉をする必要があるので、ある程度の手間やリソースがかかることは事前に覚悟するべきだろう。

新規事業の失敗から抜け出す方法とは?覚えておきたい対策集

最後に、新規事業の失敗から抜け出すための方法を見ていこう。リスクを完全にゼロにすることはできないが、以下で紹介する対策に取り組めば、新規事業の成功率をぐっと高められるはずだ。

1.ビジネスアイデアやコンセプトを可視化する

新規事業を成功させるには、チームが一丸となって事業に取り組む必要がある。しかし、明確な事業プランがなければ、チームの全員が同じ方向を目指すことは難しい。
そこでぜひ取り組みたい対策が、「ビジネスプランとコンセプトの可視化」だ。可視化したものをチーム全体で共有することで、新規事業の運営は一気に円滑になる。
また、ビジネスプランやコンセプトを効率的に可視化する方法も、ぜひ学んでおきたい。多くの経営者は、主に以下のようなフレームワークを活用することで、頭の中にあるアイデアを効率的に可視化している。

ビジネスに活用できる主なフレームワーク概要
・SWOT分析「強み・弱み・機会・脅威」の4つの観点から、内部環境と外部環境を分析するための手法。
・ポジショニングマップ「コスト」と「サービスレベル」のように2つの軸をつくり、自社や競合他社がどのポジションにいるのかを分析するための手法。
・3C分析「顧客・競合他社・自社」の3つの観点から、事業性の高いビジネスプランを策定するための手法。

「5W1H」や「ペルソナ分析」など、ほかにも新規事業に活用できるフレームワークはいくつか存在する。ビジネスプランの質を客観的に判断するためにも、さまざまなフレームワークを活用しながら経営者のアイデアを可視化していこう。

2.事業に対して「情熱」をもち、周りの人を巻き込んでいく

新規事業に関わるチーム全体の士気を高めるには、何よりも経営者自身が「情熱」をもつ必要がある。常に熱意のある姿勢で業務にあたれば、自然と周りの人間を新規事業に巻き込めるはずだ。

また、従業員以外の協力者や支援者も、新規事業の成功には欠かせない存在。たとえば、資金を提供してくれる投資家、経営面でアドバイスをしてくれる人物などがいなければ、新規事業をスムーズに成長させることは難しい。

経営者が事業に対して強い情熱をもっていれば、そういった存在にも自社やビジネスプランをアピールできる。

3.プロセスはあくまでも「手段のひとつ」として考える

新規事業を進めるためのプロセスは、あくまでも「手段」であって目的ではない。プロセスに固執すると、いつの間にか優れたプロセスを作ることが目的になってしまう。

プロセスを考える本来の目的は、「新規事業を成功に導くこと」だ。いくら革新的なプロセスを思いついても、それは新規事業を進めるための手段のひとつでしかない。

特に以下のような状況下では、プロセスを目的としてとらえてしまう失敗が起こりがちになる。

〇プロセスを目的にしてしまう主な状況
・チームにビジネスプランを伝える際に、プロセスのみを共有する
・経営者だけがプロセスを考えており、チーム全体にそれを修正する権利がない
・成功を収めている既存のプロセスを安易に採用している

前述でも触れた通り、新規事業は必ずしもプラン通りに進むわけではない。ときには想定外の事態も発生するため、その都度最適なプロセスに修正する必要がある。

プロセスを目的としてとらえると、チーム全体で細かい修正を入れることが難しくなるため、「プロセスは手段のひとつ」である点は常に意識しておこう。

4.定期的に振り返りの場を設ける

新規事業のリスクを少しでも抑えるには、「振り返りの場」を設けることが重要だ。目標に向かってただ前に進んでいるだけでは、リスクを抑えながらの運営は難しくなる。

たとえば、「コンセプトと離れていないか」「プロセスに問題はないか」など、新規事業ではこまめに振り返るべき項目がいくつかある。仮にどこかに問題が見つかった場合は、すぐさま計画に修正を加えなくてはならない。

反省と軌道修正を繰り返すことが、新規事業の質を高めることにつながっていくため、チーム全体で定期的に振り返る場を設けてみよう。

フレームワークは特に効果的!さまざまな角度からリスク対策を

新規事業には数多くのリスクが潜んでおり、競合他社も負けじと市場に参入してくるため、成功を収めることは容易ではない。しかし、より多くの失敗事例に目を通し、本記事で紹介した対策をきちんと実践すれば、失敗するリスクをある程度抑えることが可能だ。

特にフレームワークは、アイデアをブラッシュアップさせる手段としても活用できるため、ぜひほかのフレームワークにも目を通しておきたい。さまざまな角度からリスク対策に取り組み、失敗する可能性を少しでも抑えられるように努力を続けていこう(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部