経営者であれば、自社の商品・サービスの何が売れ筋かと聞かれたら、トップ3くらいはすぐに答えられるだろう。では、「利益の50%と残りの40%を占める商品をすべて挙げよ」と言われたらどうだろう? 扱っている商品数が多ければ、難しいかもしれない。

本記事で紹介するABC分析を使えば、限られた資金や人材をどの商品やサービス(たとえば上位の50%相当する商品)に割り当てるべきかを簡単に知ることができる。プロに相談することだけが、経営分析・事業改革ではない。ABC分析を用いて、事業の方向性(選択と集中)を導き出してみよう。

ABC分析とは?

ABC分析
(画像=PIXTA)

ABC分析は、売上や利益の上位を占める商品の資金的重要度を知るための分析方法だ。別名「重点分析」とも呼ばれるこの分析方法は、QC(品質管理)の研修などでもよく使われる。品質事故のデータ(原因)を全体の中からウェイトの大きい順(これは頻度や件数でも良いし、被害金額でも良い)に並べ、「品質改善をするならどこから手をつけるのが最も効果的か」を探るのだ。この考え方は、当然事業の現場でも使える。

ABC分析の基礎となる考え方は非常にシンプルで、昔からあるものだ。経済学を学んだ人なら、学者名のパレートや、パレート効率性(パレート最適)という言葉を聞いたことがあるだろう。

パレートの法則

イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートは、数理経済学の統計分析を使って社会における所得分布の不均衡を明らかにした。これはパレートの法則と呼ばれ、「2割の高額所得者に社会全体の8割の富が集中し、残りの2割の富が8割の低所得者に配分される」というものだ。

この法則が現在では「80:20の法則」として広く知られるようになり、以下のように使われている。

・住民税の8割は、2割の富裕層が納めている。
・売上の8割は、2割の優れた従業員が生み出している。
・売上の8割は、2割の優良顧客の購買によって生み出される。
・商品の売上の8割は、全商品のうち2割の商品が生み出している。

この法則は、資格試験の勉強や受験勉強にも当てはまる。ほとんどの試験問題は、知っておかねばならない内容を網羅している。試験は、クイズ番組ではない。試験問題を作る立場の人は、ほとんどの人が知らないような問題は出さないのだ。だからこそ受験者は、過去問題集を手に入れ頻出の問題を繰り返し解く。

この受験勉強に、パレートの法則を使うのだ。同じ時間勉強をするなら、10回に1回しか出題されない問題を解くより、ほぼ毎回出題される問題を重点的に勉強したほうが、高得点が狙えるので合格率が高くなる。「80:20の法則」を信じるなら、やみくもに受験勉強をするのではなく、過去問題の頻出上位20%から重点的に勉強していけば、効率的に勉強を進められることになる。

このような考え方を基に分析を進め、資金的重要度を決めるための指標とするのがABC分析だ。資金的重要度とは、限りある資金をどこにどれだけ投下するか、という重み付けのことである。

ABC分析の手順

ここからは、具体的にABC分析の手順を確認していこう。商品AからHまでを扱う商社があるとする。この商社は販売店の求めに応じて倉庫から商品を出荷し、売上を上げている。その商品はそれぞれ別々のメーカーから仕入れており、価格も粗利率も商品によって違うとしよう。

ABC分析の最初のステップは、商品の分類だ。一定期間の販売データを抜き出し、上位から一覧表にまとめる。表は、エクセルなどの表計算ソフトで作るのが良い。後に出てくるパレート図なども、簡単に出力することができるからだ。

ABC分析表

これが、例として作ったABC分析表だ。分類の基準に決まりはないので、売上額でも個数でも、順位がつけられるものなら何でも良い。つまり物である必要もなく、サービスの売上価格や顧客からのクレーム数などでもまったく問題ない。

上記の表の見方を解説していく。一番左に順位の欄を作ったが、これは説明の都合上付けた物で、なくても構わない。次に左から品目(商品名)、粗利合計の欄を作った。

今回の場合商品は10種類あるが、メーカーも価格も粗利率もバラバラだ。売上の合計金額で集計する場合、飛び抜けて価格の高いものがあると、それが数個売れれば上位に入ってしまう。飛び抜けて価格の高いものが連続して売れるのは偶然であることが多く、分析ではノイズになってしまう。

個数で順位をつけたとしても、価格の安い、粗利率の低い物がたくさん売れていれば役に立たない可能性がある。このような理由で、ここでは粗利の合計額を採用した。実際にABC分析表を作る場合、順位をつける物の特性を考慮して、意味のある並べ方にしないと分析にはならない。

次が構成比だ。粗利総合計の中で、ある商品の粗利額が占める割合を表している。その右隣が累積構成比、構成比を上から順に足していった比率だ。一番右がランク。商品AからHまでの粗利を、一定の基準でA、B、Cに分類している。このランクを作ることが、ABC分析表を作る目的だ。

商品をA、B、Cに分類する基準だが、大まかな決まりとしては累積構成比が50%のものまでをA、次の40%までをB、残りをCに分類するのが一般的だ。ただし、これは明確な決まりがあるわけではないし、これを変えたからといって分析ができないわけではない。

この表では、商品Cから商品Dまでの累積構成比が56.1%になっているのでA(50%)、商品Aから商品Fまでが92.5%なのでB(50%+40%)、残りをCに分類した。この分類では「80:20の法則」とはならなかったが、10商品中上位3つの商品で、全体の75.7%の粗利を生み出していることがわかる。これなら、「70:30の法則」といったところか。

次に、このABC分析表を基にパレート図を作成する。グラフで見やすいように、Aを緑、Bを青、Cを黄色で塗り分けた。

パレート図

パレート図は、ABC分析表を見やすくグラフ化したものだ。ABC分析表があれば、ほんの数クリックで出力することができる。見方は簡単で、棒グラフの部分は粗利の合計を商品別に上位から順番に並べたものだ。

赤の折れ線グラフは累計構成比を表していて、最後の商品Hで100%になっている。つまり、この折れ線が急峻な部分に注目すべきということ。わざわざ(手間はほとんどかからないが)図にする理由は、直感的に状況を捉えやすいからだ。

ABC分析は、基準さえ決めてしまえば、商品の売れ行きから粗利などを集計するだけですぐに作ることができる。つまり、半期に1回とか月に1回とかではなく、毎日更新することができる分析方法なのだ。

いろいろな商品やサービス、販売形態があるだろうが、デイリーで売上を集計しているような事業なら、ABC分析を毎日使わない手はない。分類表を図に置き換えるもう1つの理由は、定点観測がしやすいからだ。

数字の羅列では変化を追いにくいが、グラフであれば直感的に変化を捉えることができる。たとえば緑(Aランク)の山が日を追うごとに低くなり、右側に低い緑の棒が広がっていくようなら、今まで稼ぎ頭だった商品が売れなくなってきており、ABCの商品構成に変化が出始めていることがわかる。

わざわざ手間をかけて図を作る意味は、ここにある。ある経営者は、デイリーでスタッフにパレート図を作ってもらい、パラパラ漫画のように見て変化を追っているそうだ。

商品入れ替え時のシミュレーションにも、パレート図を使うことができる。特にCランクの商品は、より売れる物に替えていく候補でもある。本例の場合は、同じ個数が売れることを見込んで、粗利率の良い別の商品に替えた際のシミュレーションに使えるだろう。変化前と変化後を、イメージとして捉えやすいのがパレート図の特徴だ。

では、ここまで作ってきたABC分析表とパレート図を、具体的にどのように事業に活かせばいいのだろうか?

分析結果を使った活用方法

在庫管理

コンビニエンスストアで、惣菜やパンなど生物ではない商品の棚が空になっていることがある。何らかの理由でその商品が買い占められたなど突発的な事情も考えられるが、発注ミスである可能性も高い。コンビニの場合、商品にはそれぞれ発注の締め日と納期があり、締め日までに発注されなかった商品は納入が遅れてしまうことがある。

大手のコンビニチェーンではコンピュータを使った販売予測を行っているが、そこからはじき出される予測はあくまでコンピュータのオススメであって、自動的に発注されるわけではない。実際の発注は、発注担当や店長の裁量によって行われているのだ。

もしあなたの会社でこのようなコンピュータシステムを使っておらず、商品の発注を担当者の裁量に任せているとしたら、発注ミス(発注漏れ)が起きる可能性はコンビニよりもはるかに高くなる。あなたの会社の発注担当者は、その商品を売る機会を逃した場合(機会損失)、会社全体の利益にどれだけのインパクトを与えるか、理解しているだろうか?

ABC分析の結果は、その商品・サービスが売れなくなったとき、あなたの会社にどれだけのインパクトを与えるかを知る指標でもある。粗利(もしくは売上)のABC分析表と在庫管理のABC分析表を作り、売らなければならない商品の管理を徹底し、機会損失を避けるためにパレート図を使っている企業は多い。アイテム数が多ければ在庫管理や発注も煩雑になるが、人間の勘に頼ることで機会損失を被ることは避けなければならない。

Cランクの商品であれば、欠品してから発注してもいいだろう。会社に与えるインパクトは少ないし、余計な在庫を持てばそれだけコストがかかるからだ。

販売管理

本例であれば、会社の利益の90%を担う商品C、D、A、B、Fは、売上をもっと伸ばしたい。販売店に積極的に売り込むため営業マンにハッパをかけ、POPを用意するなど販売戦略強化の対象とするべきだ。ただし、商品には必ず潮目がある。ずっと売れ続ける商品など、なかなかあるものではない。

パレート図を毎日見ていると、CランクからBランクへ、またBランクの下位から上位へ上がってきている商品を見つけることがある。このような商品を見つけたら、販売活動に力を入れる「テコ入れ策」を行うといいだろう。

・営業会議で営業マンに周知し、拡販を指示する
・販売店で商品説明会を行い、店員に理解を求める
・POPを用意し販促キャンペーンを展開する
・店舗での販売位置や棚の占有率を調整してもらう

過去と現在のパレート図を示し、営業マンにその商品の状況変化を見せれば説得力も増す。粗利額と折れ線グラフをマスクすれば、販売店へのプレゼン資料にも使えるだろう。

パレート図を販売管理に活かせば、今注力すべき商品、今後注力すべき商品が見えてくるのだ。

またコスト管理にABC分析を使えば、発注額の多い仕入れ先にボリュームディスカウントを要求したり、同じ商品を他の仕入れ先から仕入れた場合のインパクトなどをすぐに把握したりできる。もし同じ商品の仕入れ先が複数あるなら、粗利率のシミュレーションをした上で仕入れ先を選定することもできるはずだ。

Cランクをおろそかにしない

AランクとBランクが、インパクトの大きい商品・サービスであることはおわかりいただけたと思う。では、Cランクはどのように使えばいいのだろう? 販売に関しては、2つの使い道がある。

ニッチ戦略

 万年Cランクだが長期間Cランクの上位にあるものなら、ニッチなファンがいる可能性がある。Cランクにあると整理の対象と思ってしまいがちだが、Cランクを決しておろそかにしてはならない。本例のABC分析表で言えば、商品E、Gあたりが長期間Cランクにあるなら(Bランク、Aランクと上がって行かずCランクの上位に滞留しているなら)調査の対象になる。どのような顧客が購入しているのか、他社での売れ行きはどうか、様の商品があるかどうかを調べてみてほしい。もしその商品にニッチなファンがいることがわかったら、同様の商品をラインナップに加え、扱ってらう販売店を増やすことで安定的な収入を得られる可能性がある。入れ替わりが激しい人気商品と違って、ニッチなファンは定期的にそ商品を購入してくれる。派手ではないが、長く愛される商品の安定感は貴重だ。

ロングテール

 パレート図を作ったときに、右側に細く伸びるCランクを恐竜の尾に見立ててロングテールと呼ぶ。本例では商品が10個しかないのでそう見えないかもしれないが、アイテム数の多い企業がパレート図を作ると、かなり鮮明にロングテールが現れる。

ロングテールは右に行けば行くほど、販売の場合であれば販売数が少ないことを表している。言い換えれば、店舗販売の場合などではデッドストックになってしまう可能性が高い商品で、普通に考えれば整理の対象だ。ただし、これが実店舗での販売ではなくネット販売や通信販売になると事情が変わってくる。

 米国のアマゾンなどでは、その販売力をベースにしてロングテールビジネスを展開している。さまざまな物理的な販売コスト(店舗運営費、人件費等)がかかる実店舗とは事情が180度違う世界の話なので、参考程度に読んでいただきたい。

「80:20の法則」の例として、「商品の売上の8割は、全商品のうち2割の商品が生み出している」を挙げたが、ネット販売の場合はこれが逆転することがある。つまり「全商品のうち、残りの8割が上位20%の売上を上回る」という状態だ。

 これはインターネットのEC(eコマース)サイトや音楽配信などのデジタルコンテンツ販売で顕著に表れる現象で、物理的な店舗を持たずインターネット上に広大な売り場(ワールドワイドな販売網を指す)持っていることに起因する。世界のマーケティング市場では、Cランクの活用をいかに行うかが話題となっているのだ。

明日からすぐに始められる経営分析

ABC分析表とパレート図は、作成に時間もお金もかからず、おおげさなコンピュータシステムも用いることなく、すぐに始められる経営分析手法だ。それでいて、世界中の企業が使っている汎用性の高い分析手法でもある。この分析手法は、1つの表や図を作るだけでなく複数の分類表とパレート図を組み合わせることで、より使い勝手が良くなる。

会社の中に複数の部署があるなら、部署ごとに使い方を工夫してみるといいだろう。ある会社では、社食の定食人気ランキングにABC分析を利用している。その分析結果を最終的に何に役立てているか、おわかりだろうか? この会社では分析結果を定食に使う材料に当てはめて、食材の在庫管理に使っているのだ。たしかに生鮮品であれば、過剰在庫は避けたいものだ。

このように経営分析だけでなく、あらゆるものに活用できるのがABC分析なのだ。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部