経済のグローバル化や社会構造の多様化が進展した現代においては、「持続的な成長を図る目的で社会的な課題の解決につながる経営を行う企業」に対する評価が高まっている傾向だ。そのような中、社会的な課題の解決に関する最新のトレンド的な指標としてESGとSDGsが存在する。

時代の環境に即した経営を行うことが企業評価を高める

ESG
(画像=metamorworks/Shutterstock.com)

時代の変化とともに企業が市場や消費者、投資家などから評価される視点も変化していく。時代から求められる経営を行うことが企業の評価を高める。

経営の目的は企業を存続させること

企業活動の本質的な目的は「存続すること」だ。存続することで市場や消費者に対するモノやサービスの提供、雇用の維持、納税などといった社会的な責任を果たし続けることができる。社会的な責任を度外視し、短期的な利潤を追求するだけの経営をすることも可能だが、それだけでは企業は存続が難しいといえるだろう。

なぜなら利潤を追求するだけの経営はさまざまな社会問題を引き起こすため、市場や消費者、従業員、取引先、株主などのステークホルダー(利害関係者)からの共感を得られなくなり、企業としての成長につながらないからだ。

ステークホルダーからの評価を高めることが持続的な成長へとつながる

企業は、存続を図るために時代に即した戦略を打ち出し、ステークホルダーからの共感を得て評価を高めていく必要がある。現代社会において、企業の経営に大きな影響を与えているのは、「経済のグローバル化」と「社会構造の多様化」だ。

人口減により日本国内では市場が縮小し、同時にインターネットの普及により海外を対象とした取引の機会が増え続けている。さらに、地球環境が変化し、文化、人種、価値観などが多様化しているため、企業に求められているのは、それらの社会的な課題の解決につながる経営である。

「経済のグローバル化」と「社会構造の多様化」を尊重し、社会的課題解決に向けた経営を行えば、ステークホルダーからの共感が得られる。それにより企業に対する評価が高まると、企業にビジネスチャンスが生まれ、さらにステークホルダーとの関係性が強化されていくだろう。最終的にはそれが企業の持続的な成長へとつながっていくと考えられる。

ESGとは?

ESGというのは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとった言葉である。企業が持続的な成長を維持するための経営を行う際、「ESG(環境、社会、企業統治)それぞれに対する配慮が必要」という考え方を表したものだ。

ESGに配慮した経営

「環境」に対する配慮は、「地球温暖化への対策」「資源の有効活用」などの自然環境に対する課題に視点を置いた経営を行うことである。「社会」に対する配慮は、「地域社会への貢献活動」「人権への対応」「労働環境の改善」などの社会的な課題に視点を置いた経営を行うことだ。「企業統治」に対する配慮というのは「コンプライアンス(法令遵守)への対応」「経営の透明性の確保」などの企業の管理体制に関する課題に視点を置いた経営を行うということである。

ESGへの配慮が必要な理由

企業が「環境汚染」「雇用を巡るトラブル」「社会的な不祥事」などの問題を引き起こした場合、企業のブランドは失墜する。また、企業イメージが悪化することで「売上の低下」「人材の流出」「信用の低下」といった経営的な損失が発生する恐れもあるだろう。これらが業績に悪影響を与え企業としての存続が危ぶまれる事態を引き起こす。

そのようなリスクを回避するためにESGに配慮した経営に関心を持ち、その姿勢を前面に打ち出すことが効果的である。近年は、金融機関や株主、投資家などの間にも、企業の持続的な成長や中長期的な収益につながる要素としてESGへの対応を重視する傾向が強まっている。そのため「自社への投資を呼び込むことで経営の安定化を図れる」という効果も期待できるだろう。

ESGへ取り組むメリット

企業がESGへ取り組むことで以下のようなメリットが期待できる。

・社会的な課題に取り組むことで新たなビジネスチャンスが生まれる
・ステークホルダーからの信用を高めることで経営の安定化が図れる
・リスク管理能力が高まることで経営の確実性が得られる

・社会的な課題に取り組むことで新たなビジネスチャンスが生まれる
地球温暖化対策や資源活用、地域経済への貢献といった社会的な課題の解決に関連する市場には、多様なニーズが存在する。ESGに取り組めば、それらのニーズにアプローチする機会が増え、新たなビジネスチャンスをものにできる可能性が高まる。それにより企業に新たな事業基盤が形成され、財務力も強化されるだろう。

・ステークホルダーからの信用を高めることで経営の安定化が図れる
企業がESGに配慮した経営をすると、ステークホルダーからの信用が高まる。それが「顧客や取引、株主の安定化」や「人材の定着化」といった効果を生み、企業が安定した経営を行うことができるようになる。さらにブランド力も向上するだろう。

・リスク管理能力が高まることで経営の確実性が得られる
環境や社会、企業統治に配慮した経営を行うことは、企業の生産性を下げるリスクを常に意識することになるため、企業自体のリスク管理能力が高まり、ビジネスリスクを未然に防止することも可能になる。リスクが下がれば、経営の確実性を向上させることにもつながるだろう。

ESGへの取り組み例

トイレなど水回り品の製造販売を行うTOTOは、2018年に「TOTO水環境基金」を設立し、給水設備の建設支援や住民に対する節水教育などに力を注いできた。中国東北部では、水道水の質の悪化が深刻化していたが、その取り組みで住民たちがきれいな水を使用できるようになり、結果的に中国本土におけるTOTOのブランドイメージが向上した。

菓子メーカーの森永製菓は、創業110年を記念して2008年よりカカオ生産国の子どもたちの教育環境整備を支援する目的で、森永チョコレートの対象商品に対する売上1個当たり1円を寄付する活動を始めた。これにより「チョコレートの原材料供給の安定化」が実現し「菓子市場における差別化戦略」を打ち出しやすくなった。

SDGsとは?

SDGsというのは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」という言葉の略称であり2015年9月の国連サミットで採択された指標のことである。

SDGsとは持続可能な開発目標

SDGsの中身は、世界における「環境の保全」「不平等の是正」「生活の質の向上」「経済の発展」などに関する17の目標(ゴール)とそれぞれの目標を達成するための具体的な169のターゲット(対策)から構成されている。

SDGsにおける17のゴール
1貧困をなくそう
2飢餓をゼロに
3すべての人に健康と福祉を
4質の高い教育をみんなに
5ジェンダー平等を実現しよう
6安全な水とトイレを世界中に
7エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8働きがいも経済成長も
9産業と技術革新の基盤をつくろう
10人や国の不平等をなくそう
11住み続けられるまちづくりを
12つくる責任 つかう責任
13気候変動に具体的な対策を
14海の豊かさを守ろう
15陸の豊かさも守ろう
16平和と公正をすべての人に
17パートナーシップで目標を達成しよう

出典:総務省

日本のSDGsに対する取り組み

2015年9月の国連サミットでSDGsが採択されたことを受けて2016年5月政府内に安倍首相を本部長とするSDGs推進本部が設置され、30億米ドル以上のSDGsに対する支援活動を行うと表明した。さらに2019年にSDGsに関するアクションプランが策定され、「経済・ビジネス」「地方創生」「一億総活躍」の観点から国としてのSDGsへの取り組みに関する以下のような方針が打ち出された。

・経済・ビジネスに関するSDGs
「国内企業が本業で儲けながらビジネス力や資金力を駆使して世界を変えていく」という発想のもとに国際社会への貢献に対する方針。

・地方創生に関するSDGs
「強靭かつ環境にやさしい魅力的なまちづくりを行う」という発想のもとに、地方の活性化や環境対策などの推進に対する方針。

・一億総活躍に関するSDGs
「SDGsの担い手として女性や次世代人材の活躍を推進していく」という発想のもとに女性の活躍や教育振興などの推進に対する方針。

企業がSDGsへ取り組む意義とは

多くの企業がステークホルダーからの信頼を得るため、CSR(企業の社会的責任)に関する活動を行っている。活動の内容は社会的な課題解決を目的としており、「地域社会への貢献」や「環境保全」に関することなどさまざまな分野にわたる。これらの活動により、企業イのメージは向上する。SDGsに関しては世界共通の価値観であり、積極的に取り組むことでCSRと同様の効果が期待できる。

SDGsへ取り組むメリット

ESGへ取り組むメリットと同様、多様なニーズが存在する市場分野への貢献を行うことで、さまざまなビジネスチャンスが生まれる。ステークホルダーからの信用も高まり、「顧客や取引、株主の安定化」「人材の定着化」などに効果があることも同様だ。さらにSDGsへ取り組む過程で「持続可能な開発目標へ貢献することにより企業価値を高めたい」と意識している企業などとの接点が生じ、その後の関係強化を図ることが良質なビジネスパートナーを獲得することにもつながる。

SDGsへの取り組み方

SDGsに関しても計画的に取り組み続けることで、目標に対し成果を得ることができる。

・PDCAで取り組む
以下のようにPDCAを意識した手順でSDGsに取り組むことが企業の求める効果を得ることへとつながっていく。

取り組む目的を明確にする
    ↓
SDGsの実施計画を立てる(Plan)
    ↓
計画に基づいて実行する(Do)
    ↓
効果を検証し評価する(Check)
    ↓
SDGsの実施計画をバージョンアップする(Act)

・取り組む目的を明確にする
どのような目的でSDGsに取り組むのかを明確にする必要がある。SDGsは、本業とは関係のないことに対する継続した取り組みが必要となるため、目的をはっきりさせないと取り組みそのものが形骸化する恐れがある。目的を設定した後は、具体的な取り組むテーマを明確にすることが必要だ。テーマの明確化に関しては、SDGsに関するセミナーやワークショップに参加して情報を収集することが効果的である。

・SDGsの実施計画を立てる(Plan)
取り組むテーマを明確にした後は、目標を定めて「どのようなやり方や体制で取り組みを進めていくのか」について計画を立てる必要がある。

・自社の能力に見合っていること
・持続可能な取り組みであること

能力に見合わない取り組みは継続が難しく、持続可能な取り組みでなければ結果につながらないからだ。

・計画に基づいて実行する(Do)
計画が策定された後は、計画に基づいて取り組みを進める。計画の実行に関しては、以下のことに留意する必要がある。

・経営トップが積極的に関わること
・参加メンバーのモチベーションを下げないこと

経営トップが本気度を示すことで、社内が団結し協力体制を築くことができる。それゆえ経営トップが積極的に関わる必要があるのだ。そのうえ、SDGsへの取り組みでは、日常業務以外の業務が増えるため、参加メンバーにとって負担感が増す。そのような中で参加メンバーのモチベーションを維持するためには、参加メンバーに対して納得を得るための説明が重要である。

その後の状況を確認しながら、必要に応じて取り組みの体制を変更するなどの柔軟な対応を図ることが必要だ。

・効果を検証し評価する(Check)
SDGsの取り組みに関しては、定期的に効果を検証し評価を行う必要がある。検証や評価は、以下のような視点で行う。

・目的に沿った活動を行えているか
・計画に基づいた活動を行えているか
・どのような効果が得られたか

SDGsは活動することが目的なのではなく、目標とする効果を得ることが目的だ。そのため、参加メンバー全員は会社が掲げた目標を実現させるための活動を行う必要がある。加えて計画に基づいた活動を行うことで、活動の足並みをそろえていくことも大切だ。さらにSDGsは長期的な活動であり、参加メンバーのモチベーションを維持するためには、定期的に得られた効果を検証し内容の評価を行う必要がある。

目標とする効果が得られた場合は、必要に応じてステークホルダーに対する報告を行い、企業イメージの向上につなげるのがよいだろう。

・SDGsの実施計画をバージョンアップする(Act)
SDGsに対する取り組みは、企業の新規事業化につながる可能性が高い。そのため、一定の効果が得られた場合は、実施計画をバージョンアップし取り組みの定着化や収益化につなげていく必要がある。

ESG、SDGsの中小企業経営に対する影響

ESGとSDGsは、中小企業の経営に対しても一定の影響を与える。

大企業の動向に合わせた経営が必要となる

近年、大企業がESGやSDGsに取り組む動きが拡大している。「ステークホルダーとの関係強化」「企業イメージの向上」といった本質的な目的の先にあるのは「新規事業化」「事業の再構築」といった収益構造の改善だ。また、大企業が新規事業化や事業の再構築に取り組む際に、既存事業に対する仕様の変更や設備投資、技術革新などが必要となる場合がある。

一方、大企業の事業活動では調達や加工、販売などに関するサプライチェーンが形成されているため、そこに多くの中小企業が連なっているのが特徴だ。大企業がESGやSDGsへの取り組みに関して仕様の変更や設備投資、技術革新などへ対応する場合、サプライチェーンに連なる中小企業の経営にも影響を及ぼすことになる。

突然の変更に戸惑うことのないように大企業のサプライチェーンに連なる中小企業は、取引関係にある大企業の事業方針を把握し、それに対して柔軟に対応できる体制を整えることが必要だ。

ESG、SDGsは中小企業経営にとってもメリットがある

中小企業にもESGやSDGsに取り組むことによるメリットはある。なぜなら社会的な課題に取り組むことで新たなビジネスチャンスが生まれる可能性が高まるからだ。さらに企業評価を高める取り組みを行うことで、ステークホルダーからの信用を高めることによる効果も期待できる。その効果は以下の通りだ。

・取引を行う大企業からの信用を得ることで関係強化が図られ、経営が安定する
・金融機関からの信用を得ることで財務基盤が安定する
・従業員からの信用を得ることで人材が定着し優秀な人材を確保しやすくなる
・地域社会や消費者からの信用を得ることで市場での競争力が増す

中小企業の経営においても、持続的な成長を図るための戦略の一環としてESGやSDGsへの取り組みは効果的だといえる。

中小企業のSDGsへの取り組み事例

中小企業によるSDGsへの取り組み事例を2つ紹介する。

事例① 障がい者が誇りをもって自立できることを目的とした職業提供/株式会社大協製作所

電気亜鉛メッキなどの事業を営む株式会社大協製作所は、1959年にはじめて障がい者の雇用を行った。それ以降、障がいを持つ従業員が健常者と同じように働くための作業環境を整えた。また、一人ひとりの状態を見ながら担当業務を調整するなどのきめの細かい対応を続けることで、「障がい者の自立を促し、誇りを持って働ける職業提供」を実践してきた。その結果、全従業員55名のうちの34名を占める障がいを持った従業員は長年働き続けている。

現在でも障がいを持った従業員の自立を促すために以下のような取り組みを行っている。

・障がい者も朝礼当番を担当し、会の進行やスピーチを行う
・冶具などを改良して、障がい者が作業しやすいようにする
・学校や支援機関、家庭等と緊密に連携をとりながら障がい者の職場定着に努めている

これらは、SDGsにおける17のゴールのうち以下に該当する取り組みである。

・4番目のゴール(質の高い教育をみんなに)
・8番目のゴール(働きがいも経済成長も)
・10番目のゴール(人や国の不平等をなくそう)

事例② 再生エネルギーの普及と多様な人たちの雇用を推進/株式会社太陽住建

株式会社太陽住建は、住宅リフォームや太陽光発電システムの販売・設置などの事業を営む企業だ。地域貢献を重視する経営の一環として、地域の公共施設の屋根に太陽光発電システムを設置し、再生エネルギーの普及に力を注いできた。同時に障がい者やシニア層が活躍できるプロジェクトを立ち上げ雇用を推進している。

「再生エネルギーの普及、災害に強いまちづくり、すべての人々が生きがいを持って働ける場の創出などの異なる分野の相乗効果を図る活動を展開する」という自らのSDGsに対する理念を実践している。さらにこれらの取り組みを「SDGsレポート」を通じて社会に広くアピールしている。これらは、SDGsにおける17のゴールのうち以下に該当する取り組みだ。

・7番目の目標(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)
・8番目の目標(働きがいも経済成長も)
・11番目の目標(住み続けられるまちづくりを)

ESGやSDGsへの取り組みが企業の持続的成長につながる

ステークホルダー(利害関係者)との関係強化を図り、ステークホルダーからの評価を高める経営を行うことが、企業としての持続的な成長へとつながっていく。そのことを実現させるための手段としてESGやSDGsへの取り組みがあると言える。(提供:THE OWNER

文・大庭真一郎(中小企業診断士、社会保険労務士)