経営者にとって、優秀な人材を採用し、その能力を最大限に発揮させることは大命題です。ただし、大学名や学生時代の成績と、仕事の成果は必ずしも比例しません。事実、決して有名とは言えない大学から一流企業の内定を勝ち取り、第一線でバリバリ活躍している人たちはたくさんいます。
一見ダメダメな社員にも、探せば「やる気」の出るトリガーがきっとあるはずです。実際に多くの教え子の就活をサポートして成功させてきた大学教授が、今いる社員を「やる気」にさせて戦力化する極意を伝授します。
ゴールを明確化することが大事
「山登りでもなんでも、人は頂上が見えないと不安で、なかなか前に進みにくいものです。仕事においても、目的や目標が見えないまま、やみくもに指示された業務を行うだけでは、本人のモチベーションも成果も上がりません。まずゴールを明確にして、そのために必要な業務であることを示すことが大切です」
こう話すのは、東京未来大学モチベーション行動科学部の篠崎雅春教授。これまで2つの大学でマーケティング戦略を教える傍ら、就活支援を行い、一流企業や今をときめく先端企業に次々と教え子を送り出してきました。
「以前いた大学は決して有名とは言えない地方の小規模大学です。学生たちもどちらかというとおとなしく消極的で、就活でも苦戦気味でした。でも、一人一人話してみると、それぞれ個性があり、いいものを持っていて、目標やそこへの道筋を提示すると、見違えるように積極性を見せるようになりました。
やはり人はゴールがはっきり見えれば、それに向かって頑張ろうという気になります。これがモチベーションとなり、前に進む原動力になるのです」
「内発的モチベーション」は効果大
モチベーションには、外部からの「外発的モチベーション」と、内部から湧き出る「内発的モチベーション」の2種類があります。前者にはたとえば業績連動型のボーナスや昇級、賞罰、上司からの叱咤激励などがあり、それなりの効果は期待できますが、限界があるようです。
「その点、『好き』とか『これで成功したい』といった本人自身の内発的モチベーションは、それが強ければ強いほど効果は大きくなり、無限大に広がる可能性があります。『好きこそものの上手なれ』といわれるように、『好きなことなら頑張れる』という人も多いのではないでしょうか」
「好きなことなら頑張れる」を体現
「たとえば、私の元教え子にバスケットボールが好きで、大学の部活に入ったものの、ついていけず挫折して、大学も辞めようかと思っていた学生がいました。たまたま地元初のプロバスケットチーム創設に向けてインターンを探しているという話を聞いたので、声を掛けてみました。すると興味を示し、他の有名大学の学生とともに運営スタッフとして活動を始めました。
その結果、2年後には初試合を見事成功させ、立役者として地元の新聞や雑誌で大きく取り上げられました。そうした実績を就活で存分にアピールしたところ、在京テレビ局の役員面接まで残り、最終的に大手ネット通販会社の内定を勝ち取りました。
彼の勝因はなんといっても『バスケが大好き』『先輩や監督を見返したい』という強い内発的モチベーションです。好きで始めたことだからこそ、幾多の難題にもめげず、前向きに取り組めたのです。『やらされている感』が一切なく、自分で考えて行動して結果が出たことで、自信を深めていったわけです」
個々の得意分野や関心事をキャッチ
一見やる気のない社員でも、何かしら得意なジャンルや興味を持っていることがあるはずです。日々の何気ない会話や行動などから、個々の得意分野や関心事をキャッチして、それを仕事に生かせるよう仕向けるのも一つの方法です。
「一昔前なら、『仕事は仕事。嫌なことに取り組んでこそ仕事だ』という考え方が一般的だったかもしれませんが、嫌々やるのと自発的にやるのとでは、自ずとパフォーマンスに差が出ます。動かないエンジンを無理やり動かすより、動こうとしている方向に押してやった方がはるかにスムーズに動きます。普段から社員をよく観察し、『これなら頑張れそう』というフィールドを見つけてやることも、効率化への早道ではないでしょうか」
ライバルを作り、競争させる
スポーツの分野では、実力の拮抗するライバルがいると、お互いに刺激し合い、切磋琢磨して両者とも成績がアップしていく傾向があります。実は仕事でも同じことが言えます。社員を単独で動かすのではなく、同時期に同種の仕事を別の社員にも振ってみたり、2人をバディ(相棒)として動かすようにしたりすると、意外に効果が出ることがあります。
「あえてライバル的な存在を作り、それを本人たちにも意識させて、競争させるのです。そうすると、『あいつに勝ちたい』『より評価されたい』というモチベーションが生まれ、両者のパフォーマンスを上げることにつながります」(提供:THE OWNER)
※後編に続く