新たなビジネスチャンスを切り開くために、M&Aを考えている企業は多いでしょう。まず簡単に、M&Aがどういったものなのかをおさらいしておきましょう。M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語で言うと「合併と買収」という意味です。複数の企業を1つに統合したり、ある企業が別の企業の株を買い取ったりするほか、資本移動を伴わない業務提携といったものも含まれ、さまざまな形態があります。

M&Aは増えている!近年のM&Aの実情

M&A
(画像=PIXTA)

近年M&Aを検討する企業が増えているのでしょう。実際、2019年に日本企業が関与したM&Aの件数は4,088件、前年比6.2%増と3年連続で過去最多となっています。この背景の1つとして考えられているのが、後継者不足の問題です。2020年までの5年間に新たに70歳となる経営者は30万人以上、75歳となる経営者は6万人以上と言われ、仮に業績が好調であったとしても泣く泣く廃業する人が少なくありません。

かつては大手企業のみが行うものといった印象もありましたが、この後継者不足による廃業を回避するため、あるいは取引や従業員を守るために、近年では中小企業でもM&Aを行うことが珍しくなくなってきました。買い手側はM&Aに対し、一体どのように考え、進めていったらよいのでしょうか。

M&Aは善?悪?

M&Aと聞いて、かつてのライブドアを思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。株式交換や株式分割といった手法を多用し成長してきたライブドアは2005年、フジテレビの筆頭株主であったニッポン放送の株の3割以上を敵対的買収(対象となる企業の同意を得ないで、市場外で株式の取得をすること)を行い、一夜にして筆頭株主となります。

目的はフジテレビの経営権を得ることでした。この計画は紆余曲折がありながらも結果的には頓挫し、ライブドアが取得したニッポン放送株をフジテレビに譲渡、その代わりにフジテレビがライブドアに出資をするということで決着。この顛末は大きな話題となり、M&Aが世に知れわたるきっかけともなりました。

しかし、若手のヤリ手経営者による奇襲戦法とも言える買収劇は、どこかマネーゲームのような印象も与え、いまだにM&Aに対して好意的なイメージを持てないという方もいらっしゃるかもしれません。

確かにこのライブドアのときのような事前の通知がない敵対的買収は、買収の目的に疑問を抱かせ、株価より高い買い付け価格を提示されても、売却に応じなかったり、賛同されなかったりするため、成功率は極めて低いと言えるでしょう。

また、中小企業では株式に譲渡制限(取締役会、あるいは株主総会の許可を得なければ譲渡できないとするもの)を設けていることが多く、そもそも敵対的買収には向きません。

企業を買収する場合には、友好的なM&AやTOB(株式公開買い付け)を選ぶことがほとんど。また、企業の経営権が移動したり、企業や事業の売買を行ったりというのは、あくまで狭義の意味でのM&Aであり、資本業務提携(双方が同じ経営目標に向かって人材や費用を出し合う形態)など、買収という形態をとらないケースも多々あります。

M&Aのメリット・デメリットは?

それではここからはM&Aのメリットやデメリットを見ていきましょう。

M&Aのメリット

M&Aで株式を譲渡する際の価額は、将来の超過収益力などを考慮して買い手に評価されるのが一般的です。M&Aにより自社を売却することで現金化することができ、売り手側のオーナー経営者はより大きな経営者利潤(株主利潤)を得ることができます。また、買収企業が優良企業であった場合、金融機関の審査が通りやすくなり、資金調達が円滑になったり、新しいITシステムを活用させたりすることも期待できます。

また、多くの経営者にとって気がかりなのは、これまで尽くしてくれた従業員の今後の処遇ですが、中小企業のM&Aでは一定期間の雇用継続が条件として盛り込まれるのが普通です。他社に譲渡することで培ってきたノウハウを引き継ぐことができますし、従業員は大きなグループの一員となることで、新たなことに挑戦するなど、活躍の場を広げることができます。さらに、会社を廃業する際にも、設備の処分や在庫処分、解雇する社員への手当など、多くの費用がかかりますが、譲渡すれば、こういった廃業コストもかかりません。

買い手側にも多くのメリットがあります。買収される企業が持つ経営資源をまるごと入手できるため、短期間で事業を拡大することができます。また、自社が保有していない優良な事業や技術を持つ企業を買収すれば、売り手側がこれまでに築き上げた販売網や供給網、ノウハウを取り込むことができ、新規事業への参入や事業の多角化を効率的に行うことができます。新規事業をゼロから立ち上げるよりも、コストや時間がかからず、リスクを低くできる点が魅力です。

M&Aのデメリット

もちろん、M&Aにはデメリットもあります。想定していたような価格で株式または事業を譲渡できない場合もありますし、基本的には買い手側が上位に位置づけられるため、売り手側の従業員の誇りを損ない、社内に派閥や壁を生じる場合もあります。

さらに、もとは別々だった企業が各々で1年、5年、10年後と見据えて考えていた事業計画を一元化して実行することは容易なことではありません。それに加えて、東芝が、買収した米原子力サービス企業ストーン&ウェブスター側に突如判明した巨額の資産評価損失に悩まされたように、買収した段階では認識していなかった事態が発生することもあります。目論んでいたようなシナジー効果が生まれず、買い手側にとっても利益とならない場合もあります。

仲介業者を選ぶ際の5つのポイント

M&Aを成功させるためには信頼できる仲介業者を探すことが最重要課題となります。どのような点を考慮して選べばよいのでしょうか。

1.信頼性がある

まずは信頼できる相手かどうかということ。ビジネスにおいてもっとも重要なのは、アナログなようですがやはり人です。手始めに仲介業者のホームページなどを参考に、経験や実績が豊富であるかどうかをチェックします。

ホームページを確認したり、直接問い合わせたりすることで、その仲介業者が自社の規模に適しているかを確認しましょう。このごろでは数百万円〜数千万円と、比較的小規模のM&Aに特化した仲介業者も増えてきています。さらに、無料相談などに出向き、担当者との相性や、どれだけ親身になって相談に乗ってくれるのかも見極めておきましょう。

2.自身の会社の業界に強みを持っている

取り扱う案件の規模や種類によっても、必要とされるスキルは変わってきます。過去に取り扱った案件が自社の目的としているものと共通点があるかどうかも要となってくるでしょう。M&Aの仲介においては、その業界におけるネットワークが幅をきかすもの。例えば食品業界に強い仲介会社であれば、その人脈を通じてたくさんの食品業界関係の情報が入ってくるからです。

3.弁護士や税理士、司法書士などの専門家とのネットワークがある

相手が見つかってからが、M&Aの本格的なスタートとなります。会計や簿記、税金関連、会社法や独占禁止法などの法律、経営戦略といった多岐にわたる知識が求められ、契約書や登記などの手続きも発生するなど、大変に複雑です。

M&Aを滞りなく進めるためには、弁護士や税理士、司法書士などの専門家とのネットワークを持っているかどうかも鍵となります。資金面での調整が必要な場合もあり得るので、銀行や投資ファンドとの連携に対応できるかどうかも確認しておきましょう。

4. PMIの成功実績がある

M&Aはお金と人材を、ただ統合しただけで完了するわけではありません。最終的に成功に導くためには、この統合(PMI)をスムーズに行う必要があります。PMIとは「Post Merger Integration」の略。オフィスの統合、共同事業の立ち上げ、経営・企業理念の浸透、システムやノウハウの導入、人事評価制度の調整、報酬・退職金制度の見直しといった業務が生じます。

M&Aで最も時間を要するのもPMIで、半年以上はかかるものと考えておきましょう。もしここで支障が生じた場合、せっかくM&A自体は成立しているにもかかわらず、社内トラブルなどにより事業が進まなかったり、報酬面での不満などから、優秀な人材流出したりといったことが起こる可能性もあります。

PMIの成功実績がある仲介業者であれば、不測の事態が起きそうな要因に対して先回りして対応してくれるので、失敗をできる限り回避できるようになります。

5.費用が高すぎない

そして、最も気になるのは費用面です。仲介業者には一体どの程度の報酬を払えばいいのでしょうか。その体系はさまざまで、相談料、着手金、中間報酬、成功報酬などをそれぞれ請求する仲介業者もあれば、完全成功報酬型のスタイルをとっている場合もあります。まずは相談料。中には事前相談料を請求する会社もありますが、多くの場合は無料です。次に着手金。着手金を取る仲介業者の場合では、50〜200万円程度を払うのが大体の相場となっています。

M&A仲介は、着手するとまずその企業の価値に対する評価を行い、資料の作成を進めていきます。着手金はこのための費用というのが表向きのスタンスとなっており、相場はかなり幅がありますが、50〜200万程度、高額の場合で500万円程度でしょうか。着手金はM&Aが成立しなくても当然戻ってきません。慎重に検討するようにしましょう。このほか、仲介業者と契約している期間中に毎月支払う手数料(リテイナーフィー)や、M&Aを実行する上で欠かせないデューデリジェンスにも、法務、財務などさまざまな分野について高度な知識をもつ専門家に調査を依頼する必要があるため、別途費用がかかります。

仲介業者の報酬は完全成功報酬型?ベストとは限らない

M&Aが無事に完了すると、今度は成功報酬を支払います。売買金額をベースに考えられ、通常は売買価格が低いほど手数料率が高くなり、価格が上がるにつれて、5%、4%、3%と段階的に下がります。これは、レーマン方式と呼ばれる方式で計算されており、5億円以下の場合だと5%なので、中小企業の場合は成功報酬の5%前後が相場であると考えておけばよいでしょう。あとは消費税もお忘れなく。買収の際にも消費税はかかってきます。M&Aでは大きなお金が動くため、消費税も高額になってきます。

以前は、仲介業者に着手金を支払うのは普通のことでしたが、最近は他者との差別化をはかるため、着手金を取らない(=完全成功報酬型)の仲介業者も増えています。確かに中にはたちの悪い仲介業者も存在しており、着手金をとっておきながら相手を一度も紹介してくれなかったというケースもあるそうです。もちろん、条件がなかなかマッチングしないために、本当に紹介できないという場合もありますが、簡単には見つけられない可能性もあるということをきちんと説明せずに着手金を請求してくるような仲介業者は要注意です。

その点、着手金がかからなければ、M&Aへのハードルはぐっと下がります。しかし、安かろう悪かろうではありませんが、完全成功報酬型の仲介業者が必ずしもいいわけではありません。まともな仲介業者であれば着手金の有無にかかわらず、きちんと相手を探してくれますが、中にはお金を支払っていないために後回しにされてしまうという事例もあります。最悪のケースでは、とにかく早くM&Aを成立させて成功報酬を得ようと、顧客に利益をもたらさないM&Aを進めてしまったり、相手の問題点を隠蔽したりする場合もあるため、気をつけましょう。

M&Aを行うまでの流れ

一人で円滑にM&Aを行うことは非常に困難です。そこで頼りになるのがM&Aアドバイザーの存在です。FA(=ファイナンシャルアドバイザー)業者と仲介業者に大別され、利害関係者の多い上場企業同士の案件ではFA業者を起用するケースが多く見られますが、中小企業のM&Aでは仲介業者が主流となっています。「仲介」の名前の通り、間を取り持って、買い手と売り手の双方から条件や要望などを聞いてマッチングさせ、デューデリジェンス(企業価値の査定や法律に関わる資産について調査すること)を行うほか、必要書類作成といった事務的な面までケアしてくれる業者のことです。

次に、「どの会社を買収するか」を決めます(逆に売り手側から「どの会社に売却しようか」とアクションを起こすケースもあります)。仲介会社に条件を提示する際は、あまりに厳しすぎると買収する先が見つからず、時間ばかりかかってしまう可能性もありますが、基本的には自社にとってなるべく有利になるような条件を出します。多くの企業は仲介業者を利用しており、買い手側と売り手側の両方の情報を持っているため、効率的に相手を見つけることができます。なお、買収先が決まった後は、取引先や従業員に動揺を与えないため、双方の間で秘密保持契約を締結し、公開できる段階になるまで口外しないことを約束するのが通例です。

その後、お互いの経営者同士で面談を行い、選定段階ではわからなかった点や、より詳しく知りたい点について質問し、本当にM&Aの相手としてふさわしいのかどうかを具体的に判断します。そして、納得がいったら、意向表明書や基本合意書などを作成し、デューデリジェンスを行います。ここでもしも何かしらの大きな問題があれば、この時点で中止になる場合もあります。特に気をつけなければならないのが、M&Aの実行後に貸借対照表上に記載されていない簿外債務が発覚するケース。この状態で実行すると、代わりに残債の支払義務を負うことになってしまいます。

問題がなければ最終条件交渉を行い、売買価格や経営陣や従業員の処遇などを決めます。ここでも活躍するのが仲介業者。当たり前の話ですが、売り手はなるべく高値で売り、買い手はできるだけ安く買いたいものです。仮に双方が直接交渉しても、うまくまとまることは滅多になく、交渉決裂という最悪のケースも考えられます。また、成立したとしても、これから協力してやっていかなければならないというのに、後々まで遺恨が残ってしまうかもしれません。しかし、仲介業者が中立的な立場で、買い手と売り手の間に入って判断することで、円滑に売買ができるのです。

双方が納得をすれば、最終契約書を締結し、買い手側が代金を支払います(クロージング)。そこから会社や事業を1つにするための引継ぎや経営が開始されます。これには企業文化などソフト面と、業務プロセスなどのハード面があります。それが終わって、ようやくM&A成立となるわけです。

M&Aの仲介業者選びは慎重に行おう!

M&Aは案件や規模によっては1ヵ月ほどで終わることもありますが、準備から完了までには半年から1年程度はかかるのが普通です。さらに、なかなか条件に合う企業が見つからなかったり、交渉が難航したりする場合は、2〜3年かかってしまうことも。M&Aには相当な手間や労力がかかります。成功させることができれば買い手側にも売り手側にも大きな利益をもたらしますが、もし失敗すれば取り返しのつかない損害をもたらしてしまうため、極めて慎重に執り行わなければなりません。

M&Aを成功させるためには、検討を始めた段階から早めに情報収集もしておくことも重要です。仲介業者の中には、定期的にセミナーを実施している会社もあるので、実際に足を運んでみるのもおすすめです。いずれにせよ、多くの中小企業にとってM&Aは社命をかけて行うもの。準備をしっかり行い、迅速に、かつ慎重に進めましょう。(提供:THE OWNER