「守」を脱して「破」や「離」を目指そう
日本の伝統芸能の世界には、「守・破・離」という言葉がある。「守」とは基本の型を身につける段階のこと。「破」は、身につけた型を応用したり、改良を加えたりする段階。そして「離」は、それまでの経験や学びを統合して、独自の世界を打ち立てることを言う。
村山氏は、30代後半から40代以降は「破」や「離」を目指してほしいと話す。
「ビジネスパーソンで言う『守』とは、会社が設定した目標や仕事のやり方に沿って、その中で成果を上げていく段階のこと。
『破』は、例えば、会社が掲げた目標に対して、『その延長線上に会社の未来はないのではないか。もっとこうしてみたらどうか』といった提案ができる段階のことです。こうした人は、会社を変革できる存在になり得ます。
残念ながら、40代になっても、『守』の段階で成長が止まっている人が多くいます。『守』を脱して『破』に達するためには、先ほどもお話ししたように、社外に出て色々な人と出会い、様々な活動をする場面を増やすことです。会社の価値観とは違う価値観に身をさらすことで、それまでとは違う視点から自分の会社を見られるようになるからです。
自分たちは常識だと思っていることが、社外の人からは非常識に見えることは珍しくありません。会社の中にいると、そのことになかなか気づけないものです」
その次の段階の「離」は、ビジネスパーソンで言えばどういうことか。
「文字通り、今の会社や仕事から離れることです。
『自分はこれをライフワークにしたい』という在り方が定まっていて、なおかつ、その在り方を実現できるだけの知識やスキル、能力も既に備わっているなら、今の会社や仕事に留まる必要はありません。その在り方を実現できる生き方や仕事にシフトできます。
ただ、私は必ずしも会社を辞めることを勧めているわけではありません。自分がライフワークにしたいことを、新規事業のような形で、会社の中で取り組むことができるなら、むしろ会社に残ったほうがいい。ヒト・モノ・カネの資源を会社から提供してもらったうえで、自分の在り方を実現できるわけですから、こんなに幸せなことはありません。
しかし、それが難しいのであれば、起業や独立という選択肢もある、ということです」
40代以降になると、もう一つ考えておかなくてはいけないことがある。
「人間はいくつになっても成長できるとはいえ、若いときのように、なんにでもチャレンジできるわけではありません。歳を取ると、身体のムリが利かなくなりますし、病気がちにもなります。
そこで、『成長』とともに意識してほしいのが、『成熟』です。
成長には、育ち盛りの子供のように、これまでできなかったことがどんどんできるようになっていくというイメージがあります。一方、成熟には、新しい物事が何かできるようになるわけではないが、今、取り組んでいることの中身を濃くするというイメージがあります。
実際に成熟するのは50代や60代に入ってからですが、40代はその準備をする期間にあたります。流行り廃りのあるテーマをあれこれと表層的に追いかけるよりも、いつの時代になっても必要とされる普遍的なテーマを自分の中に定め、そのことについての知識を得たり、思考を深めたりすることが大切になります。成長とともに、成熟も遂げられる人になることを目指してください」
《取材・構成:長谷川 敦 写真撮影:長谷川博一》
《『THE21』2020年1月号より》
村山 昇(むらやま・のぼる)
キャリア・ポートレートコンサルティング代表
組織・人事コンサルタント。概念工作家。1962年、三重県生まれ。86年、慶應義塾大学経済学部卒業。プラス〔株〕、日経BP社、〔株〕ベネッセコーポレーション、〔株〕NTTデータを経て、2003年に独立。1994~95年、イリノイ工科大学大学院Institute of Design研究員。2007年、一橋大学大学院商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、著書多数。(『THE21オンライン』2020年01月20日 公開)
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