カンブリア宮殿,セメントプロデュースデザイン
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売れる商品をなぜ連発?~下請け救世主のノウハウ

近年大幅に生産量が減っている陶磁器の町、愛知・瀬戸市。陶磁器づくりの一部を請け負う「エム・エム・ヨシハシ」が作っているのは、陶磁器を量産するときに使う「型」だ。

驚くほど細かい模様を作り出す高度な手彫り技術を持っているのだが、作った型でもらえる金額は驚くほど安い。依頼が減り続ける中、会社の経営は危機的状況になっていた。

「産業の規模自体が小さくなっているので、明日の仕事があるかも分からない状況です」(吉橋賢一社長)

ピンチに陥ったこの工場は思い切ってオリジナル商品の開発に挑戦、それが大ヒットとなった。まるでニットのようなティーカップ「トレースフェイス」(2200円)が並んでいるのは東京・銀座の「銀座 伊東屋」本店。手彫りの高い技術力で焼き物とは思えない質感を表現した。累計販売は実に1万6000個。下請けの危機を救った。

下請け発のヒット商品は東京・墨田区の「笠原スプリング製作所」でも。笠原克之社長が長年手がけてきたのは、自動車の部品に使われる金属リング。安い海外産に仕事を奪われ、ついに従業員が一人もいなくなってしまった。

そんな危機的状況から生み出したオリジナル商品が、さまざまな食材を刺して食卓を彩る、木の形をしたフードピック「ツリーピックス」(3080円/5本)。笠原さんが得意とするステンレスの型を抜く技術で作った。パーティーシーズンなどにおしゃれな雑貨店で売れているという。おかげで笠原さんの工場はなんとか存続できるようになったという。

「これがないと成り立たない。救ってもらっています」(笠原さん)

本来、下請けは依頼通りに部品を作って納めるのが仕事。おしゃれな自社商品を開発するノウハウはない。セメントプロデュースデザイン社長・金谷勉(48)が手がけるのは、町工場のためにヒット商品作りをサポートするビジネスだ。

「価格がどんどん下がっていく中で、それに応えていかかないといけないのは厳しい。下請け会社のほとんどがそうです。できるなら手助けしたいと思っています」(金谷)

この日、依頼を受けて金谷が訪れたのは、木材を加工して箱を作っている広島市の「箱義桐箱店」広島工場。金谷は作業現場にあるさまざまな加工機械をチェックし始めた。商品作りで武器になるものは何か、依頼主の持つ技術を徹底的に洗い出すのだ。

「素材と技術が使えるなら、それが強みになる可能性もありますから」(金谷)

別の日、金谷が訪ねたのは香川・三豊市の「モクラス」。収納家具に使う木材を加工する下請け企業だ。強みである板をくり抜く技術を使い、初めての自社商品「スピーカーテーブル」の開発が進んでいた。天板にスマホを差し込むと音が広がるように設計されている。

だが、金谷は「重たい。お母さんは持ってくれなさそう」。一般向け商品を作ったことのない下請けに、金谷は徹底的な客目線を叩き込む。

東京駅前にある商業ビル「KITTE」の「グッドデザインストア トウキョウ」にも、そんな金谷流で生み出された商品が。安らぎの香りで客の心を掴んでいたのはピンバッジ「アルーマアロマピンズ」(4290円)だ。秘密は上蓋を開けた中の空間に。ここに付属品のコットンを入れ、アロマオイルを染み込ませることで、香りを持ち運ぶことができる。

これを金谷の指導のもとで作ったのは東京・葛飾区の「石井精工」葛飾工場。長年培った、金属を正確に削り出す加工技術が可能にした。

「金谷さんと出会えてなかったら、この商品はないと思います。商品開発のためには何が必要かを学ぶことができたので、ありがたいです」(石井洋平統括マネージャー)

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町工場の技でBBQグリル~初の自社製品は売れるのか

これまで全国500社の商品づくりをサポートしてきた金谷のセメントプロデュースデザインの本拠地は大阪。デザインという名前が付いているが、その仕事は多岐にわたっている。依頼のあった下請けの技術を生かした商品企画から、製造、販売まで。商品作りの全てをサポートする。

「デザイン事務所はデザイナーだけの会社が多いですが、商品全体を監修するのが僕らの仕事。新商品作りは不安なので、伴走してお手伝いする感じです」(金谷)

金谷とともに、会社の存亡をかけて自社商品づくりに挑むのが、熊本・山鹿市にある創業47年の「丸山ステンレス工業」だ。

父の代からの工場を守ってきた2代目の丸山良博社長。難しいステンレスの加工では、溶接から曲げまで高い技術を誇ってきたのだが、今、受注するのは「安い部品」。しかも、そんな仕事さえ海外に奪われつつある。最後の望みを託したのが自社商品作りだった。

「このままでは先細りしていく。自分たちの技術をPRすべきだという思いで取り組みを始めました」(丸山さん)

2年前から金谷の指導で取り組むのは、自分たちの技術を生かせるキャンプなどで使うグリル。日々、金谷から届く膨大な数のメールは、消費者目線の細かいアドバイスだ。シンプルな正方形にし、重さは当初の7分の1にまで軽量化。金谷も満足げだ。

丸山さんにとって、自分たちの技術が一つの商品となるのは初めての経験だ。緊張の面持ちで東京・江東区の「東京ビッグサイト」に乗り込んだ。金谷のサポートのもと、国内最大級の展示会「東京インターナショナルギフト・ショー春2020」に出店、「焚き火台グリル」(予定価格2万7500円)を全国から集まるバイヤーにグリルを売り込むのだ。

さっそくお客さんが。だが、セールストークが続かない。なにしろ一般の客に商品を売るのは初めての経験だ。それを見ていた金谷はすかさず「できるだけお客さんを会話で引っ張って、人がいる状態を作りましょう」。緊張を解きほぐすと、丸山さんはなんとか軽量化をアピールし始めた。すると百貨店や小売企業のバイヤーも集まってきた。

いつのまにか丸山さんのブースは大にぎわい。客の反応の良さに、苦労してきた社員たちも笑顔を見せた。

「こんなにお客さんが次から次へと来るとは思わなかった。嬉しいですね」(丸山さん)

20代で最初の商品づくり~全ては町工場に教わった

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東京・墨田区に金谷が町工場と作ったユニークな商品が一同に会する店「コモノミチatTOKYO」がある。

旭川の木工会社が作った、インテリアにもなるかわいらしいメジャー「ハウスメジャー」(3080円)。福井・鯖江市の町工場からは、眼鏡のフレームに使われる素材で作ったおしゃれな「鯖江みみかき」(4290円)が。

金谷の下請けとの商品作りの原点とも言えるものがある。大阪・東大阪市にある町工場で作っていたのは、かわいらしいデザインのクリップ「ハッピーフェイスクリップ」(550円/20枚)。金谷が最初に作った自社商品だ。

1995年、京都精華大学を卒業し、広告の制作会社などを経て28歳で独立。仕事が全くこない中、金谷は自分たちのデザイン力を売り込むためにクリップを作ることにする。

ところが、工場へ依頼にいくと予想外の展開に。大量に作って安くするには、耐久力のある高価な金型がいる。金谷はそんなものづくりのイロハさえ知らなかった。そして売りたい数と価格を伝えると、「全部合わせて100万円近くかかる」と言われて驚いた。

素人同然だった金谷にものづくりのノウハウを教えてくれたのは「成瀬金属」の成瀬悦嗣会長。「ものづくりの基礎知識がなかった」と振り返る。

「そんなにお金がかかるんだということも、初めて知りました」(金谷)

ようやく完成させた自社商品のクリップのおかげで、金谷の元にさまざまな仕事が舞い込むようになる。大手メーカーのイベント企画や商品デザインなど、さまざまなものづくりを経験する中、その現場を支える下請けの現実を知る。

「半年、1年おきに工場を訪ねると人が減っていたり、海外産の製品が増えたことで、仕事が減っているのが現実でした」(金谷)

窮地に立たされる全国の下請けに自分の商品作りのノウハウを生かせないか。彼らの支援にのめり込んでいった。

金谷が最も力を入れるのが、8年前に始めた、中小企業に商品作りのノウハウを叩き込むゼミ。いわばヒット商品作り道場だ。今では全国10カ所で商品作りを教えている。

商品開発を成功させるには15のステップがあるという。

1自社分析、2自分の居る場所・行きたい場所を確認、3売り先の検証と差別化ポイント確認、4自社の想いや事業コンセプトの確立、5商品アイデアラッシュ、6ターゲットと使用イメージ、7商品企画コンセプト、8市場動向&競合のリサーチ、9フォルムデザイン、10ネーミング、11パッケージデザイン、12ビジュアルイメージ、13カタログやWEBの構築、14営業・販路の設計強化活動、15目指す方向への営業・広報活動。

まさにゼロから商品作りを学ばせるのだ。

「丸山ステンレス工業」の丸山さんが徹底されたのは、商品を売るための市場の分析。「競合になる商品をピックアップして、価格帯やターゲットで分布図を作りました」と言う。そんな作業の中で、売れるものを自分たちで作り出すノウハウが身についていった。

金谷の最大の狙いは、売れる商品を自力で作り、攻めに打って出られる町工場に変えることだ。

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町工場が魅惑のコラボ~客をつかむ10万円商品

大阪市の「平井木工挽物所」は木材加工の下請け工場。主な仕事は傘の先端部分「石づき」の加工と、回転させた木材を削る技術で万年筆のボディーも作っている。金谷は平井守さんの高度な削り技に目をつけていた。

その理由が福井・鯖江市の「土直漆器」にあった。金谷に自社商品作りの相談をしている、越前漆器の土田直東社長の会社だ。高い技術力で作った漆器を料亭などに納めてきたが、「時代の流れで漆器産業が廃れてきた」(土田さん)。

そこで金谷が考えたのは、平井さんが削った万年筆を、土田さんに漆で仕上げてもらうこと。木工所の技術と越前漆器の漆のコラボレーションだ。

「違う技術と違う技術を掛け合わせて、新しいジャンルを作るイメージです」(金谷)

金谷は完成した万年筆を持ち、文房具の老舗「銀座 伊東屋」本店へ売り込みに行った。

「面白いと思います。塗りもそうですが、ボディーの部分が色気を出すような仕上がりになっている」(バイヤー・平石康一さん)

平井さんが削り出した美しい曲線に漆黒の漆が映える、他にない重厚な仕上がりの「ビャク万年筆」(11万円)。今までにない町工場のコラボは「東京インターナショナルギフト・ショー春2020」にも出店。大勢の注目を集めていた。

この日、初めて会った平井さんと土田さんはがっちりと握手。全国500社がネットーワークを組めば、下請けも今までにない戦い方ができるはず。それが金谷の次なる戦略だ。

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眼鏡の町が大変身~ヒット続々の秘密

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福井・鯖江市は言わずと知れた眼鏡の町。海外に仕事を奪われ、市内の眼鏡メーカーは危機的な状態だった。ところが、金谷が生んだヒット商品が、思わぬ形で町を一変させた。

鯖江で最近売れているというのが、眼鏡の形をした飴「アメガネ」。おしゃれな箱に入って10個入りで550円。企画した「キッソオ」の吉川精一社長は「眼鏡の部品を作るための小型プレス機で作っています」。眼鏡を作る技術を活用して作っているのだ。

吉川さんの本業は眼鏡の素材を扱う会社。鯖江の眼鏡産業が衰退する中、経営危機に陥り、金谷の指導でユニークなデザインの「鯖江みみかき」を開発した。

「すぐに5000本の注文が入り、2年で2万本の大ヒットになりました」(吉川さん)

その後、金谷から教わったノウハウで自ら、さまざまな自社商品を作るようになったのだ。

そして吉川さんの成功を見て、周りの下請け会社もこぞって自社商品作りを始めた。レンズの下請け会社「乾レンズ」は、ネックレスになるおしゃれなルーペ「ドロップルーペ」(5500円)を開発した。その理由は「『鯖江みみかき』が東京に並んでいるわけですよ。うらやましい。『対抗したい』と年がいもなく思いました」(諸井晴彦常務)。

さらに、フレームの下請け会社「プラスジャック」が挑戦したのは、眼鏡の加工技術を生かして作った防災用の笛。「エッフェアルファベット」(2970円)はグッドデザイン賞も受賞した。

「眼鏡以外でもやれることはあるんだという、新しい発見になりました」(久保葉月さん)

下請け企業が培った技術で自ら攻めに打って出る。その先にこそ、日本のものづくりの復活があるのかもしれない。

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~村上龍の編集後記~

「日本のものづくり」。独特の響きがある。優れているという前提らしきものも感じる。本当だろうか。そして「デザイン」の流行。デザイン思考・経営、よくわからない。

金谷さんはデザイナーではない。日本の町工場に対して特別なシンパシーもないし、社会事業家でもない。合理性がベースのプロデューサーだ。緻密に情報を得た上で「組み合わせ」を考える。ひどく手間がかかる。参ったなと思うことも多いが、途中で止めない。 イノベーションは「組み合わせ」である。いずれ、セメント発のイノベーションが生まれる予感がある。

<出演者略歴>
金谷勉(かなや・つとむ)1971年、大阪府生まれ。1995年、京都精華大学人文学部卒業。1999年、セメントプロデュースデザイン創業

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