大森隆一郎氏

近年、GAFAなどの巨大プラットフォーマーによる個人情報の取扱いが問題視されおり、国も情報管理における様々な対策を講じています。そんな中、2018年に総務省・経済産業省において「情報信託機能の認定に係る指針」が示され、「情報銀行」と呼ばれる個人情報信託の新しい仕組みがスタートすることになりました。

情報銀行とは、購買・閲覧など個人の行動に紐づくデータを預かる事業のことです。情報銀行は預かったその個人情報を管理し、信用度の高い事業者へと提供・販売します。この仕組みの運用に向け、一般社団法人日本IT団体連盟は2019年、「情報信託機能の認定に係る指針」に基づいた情報銀行サービスの提供を準備する事業者の認定をスタートしました。

2020年2月末現在、認定を取得している事業者は4社。そのうちの一つが、ビッグデータと最新AI技術を活用したスコアリング事業を展開するJ.Scoreです。今回は、その代表取締役社長兼CEO、大森隆一郎氏に、情報銀行サービスへの参入に至った経緯やその展望、その先にあるフィンテック企業としての未来像、さらには日本における情報ビジネスの行方についてうかがいました。

情報を持つ個人、情報を必要とする企業の双方に新たなメリットを享受できる

大森隆一郎氏

J.Scoreは2016年に設立され、2017年9月にサービスイン。個人情報をスマホアプリから登録、スコア化し、そのスコアをもとにしたレンディングサービスを展開しています。そうしたビジネスモデルを持つJ.Scoreが情報銀行サービスに参入する経緯について、大森社長はこう語ります。

「我々のもとには、性格やプロフィール、行動などにまつわるあらゆる個人情報がお客さまの同意を前提に集積され、それをもとにAIスコアを算出しています。そのスキームを情報銀行の仕組みに当てはめ、集めた個人情報をお客様の個別同意のもとで有効活用すれば、情報を提供する個人、その情報を必要とする企業の双方が新たなメリットを享受できるのでは、と考えました。そしてそれは、我々のビジネスにとってもレンディングに次ぐ収益の柱となりうる可能性があります。」

フィーをもらって終わりというドライな関係にはしたくない

大森隆一郎氏

情報銀行の認定取得には非常に厳しい要件をクリアする必要があり、だからこそP認定の取得には大きな価値があると大森社長は語ります。では、J.Scoreにおける情報銀行サービスは実際どのようにして行われるのでしょうか。

「まず、自分の情報をどの企業に提供するか、お客様ご自身で決めていただきます。提供する企業は、数十社程度を目指しています。もちろん、どんな企業でもいいわけではありません。しっかりとしたガバナンスを備え、プライバシーマークの取得など個人情報の利用法や管理に対する社内の体制が出来上がっている企業の中から、自分が共感できるビジョンや理念、情報の利用目的等を持つ企業を選んでいきます。提供先として選ばれた企業には、情報授受にして、フィーや会社のサービス優待などの対価を用意してもらいます。

きっとみなさんにも、“あの会社なら自分の情報を提供してもいい”という企業があるのではないでしょうか。例えば、大好きな商品を作っている企業とか、社会貢献に積極的な企業とか。そうした企業に自分の情報を提供することがより良いサービスにつながるのであれば、企業成長や社会貢献に寄与できるかもしれません。つまり、J.Scoreが目指す情報銀行サービスは、フィーをもらって終わりといった乾いた関係ではなく、もっと大きな付加価値を生むサービスなのです。」

副業のスタートを支える「AIスコア・レンディング」

大森隆一郎氏

J.Scoreではこれまでも、AIスコアをもとに時代に寄り添った様々なサービスをリリースし、着実にその認知度をアップさせてきました。昨年スタートした副業向けのAIスコアレンディングも、まさに時流に乗ったサービスの一つと言えます。

「もともと我々のレンディングサービスは事業性ではなく消費性のものですが、副業という新しい事業のスタイルが広まる中、個人が副業に使う資金を単に事業性だからといって対象外にしまっていいのだろうかという思いがありました。例えば、夕方からは自宅の軒先でコーヒーショップのマスターに変身するとか、週末は家でYouTuberをやるとか、そういう時に最初のまとまった資金が必要だというような場合に、我々のレンディングの対象範疇として副業への融資をしてもいいのではないかということです。

この副業資金を借りるには、本業がベースにあれば事業計画などの提出を必要としません。使い道に“副業”と選んで頂くだけです。J.Scoreは時代の流れに沿っていろいろな人のニーズに寄り添うFinTech企業だとわかってもらう上でも、日本で副業が広がる流れは我々にとって非常にタイムリーだと思います。この先、“副業が成功したのはJ.Scoreのおかげ”という人がどんどん増えていったらうれしいですね。」

“借り入れは悪”と思われがちな日本の文化を変えたい

ここで紹介した情報銀行や副業資金の他にも、AIスコアをもとにしたサービスでフィンテックに新しい風を吹かせるJ.Score。その事業の未来を、大森社長はどのように捉え、展望を描いているのでしょうか。

「金融ビジネスであろうと何であろうと、単なる金儲けのためのビジネスであっては、やはりお客さまにその意図が見透かされてしまいます。特に個人情報のような非常にセンシティブなものを取り扱うビジネスにおいて、その利益で何を成そうと考えているかは非常に重要となります。

では、我々はなぜレンディングを始めたのか。それは、“借り入れは悪”と思われがちな日本の文化を変えたいという想いがあったからです。より自分を高めるための借り入れは健全なものであり、将来を良くしていくための有効な手段なんだということを啓発したい。それが我々の出発点です。設立当初は消費者金融のように言われた時代もありましたが、2年半の中で高いブランド力を作れているのも、会社のビジョンやブランドを意識してビジネスを展開してきたからだと思います。

そして、今後そのビジョンをさらに広めていく上で、今回の情報銀行サービスは一つの風穴を開けるものになると思います。」

目指すのは情報銀行サービスのフロンティア

大森隆一郎氏

2020年度からの情報銀行サービス運用に向けてアイドリングを続けるJ.Score。最後に大森社長は、自社のみならず日本における金融ビジネスの未来にまで思いを馳せ、こう語ってくれました。

「今まで価値を生まないと思われてきた個人情報が、企業にとっても個人にとっても価値を生むようになる。これは日本の新しい経済における一つの価値創造だと思っていますし、これをビジネスにする意義は非常に大きいと思います。その価値創造を果たすためにも、また個人情報の扱いにおいて保守的な人たちの意識を変えていくためにも、自分の情報が役に立つんだ、日本の未来に活きるんだ、自分の情報が世の中を変えるかもしれないんだ、という期待を醸成できる企業でありたい。そうでなければ、ただ情報を横流ししているだけの仲介企業と思われてしまいますし、ビジネスとしても長続きしません。

日本は個人情報やデータビジネスにおいては後発の国ですが、それゆえ、世界の情勢を見て一番良い情報ビジネスの仕組みを作っていこうという政府の想いもあり、現状は比較的いい形でその仕組みが出来上がりつつあります。ということは、日本における情報ビジネスのあり方がグローバルスタンダードになる可能性もあるということです。

そう考えれば、我々の情報銀行サービスが日本ばかりか世界のデータビジネスのあり方を変えるチャンスがあるかもしれない。フロンティアとしてそういう流れを作ることができるか、そこにチャレンジしていきたいと思っています。」