「リーダーにはメンバーを率いる強さが不可欠だ」という人もいれば、「優しいリーダーのほうが、メンバーが伸び伸びと力を発揮できる」という人もいる。

自分が人を率いる立場になったとき、大切なのは、強さだろうか、優しさだろうか。

今回は、具体的なエピソードを下地に「パス・ゴール理論」を紹介し、リーダーシップの在り方について解説する。

ケーススタディ(6)――人を率いる人間の視座

成功心理学 #6
(画像=rudall30/shutterstock.com,ZUU online)

「使えない新人がたくさん来ても、正直営業部としてはつらいんだよね……これまで通り中途採用じゃ駄目なの?」

「中途社員の離職率が高いから、新卒を雇おうって話になったんじゃないですか。そもそも、離職率が高いのは、ロクに教えてもらえず現場に放り出されるからで……」

「仕事を教える体制が整ってないのに新卒採用に切り替えたって、余計に事態は悪くなるだろ」

「だから教える体制を整えようって、数年前から提案してるんですけど?」

営業部長と人事部長の間に険悪な空気が流れるのを見て、コンサルタントの及川圭佑(37)は立ち上がった。

成功心理学 #6
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

「ちょっと落ち着いてください。現状の課題を、いったん整理しましょう」

経営者同席のミーティングでは、誰も意見を言わなかった。だから現場の意見を吸い上げようと、経営者の同席なしでミーティングを開いたのだが、ここまで問題が根深いとは正直予想していなかった。

及川は冷や汗の流れる思いで、どう話をまとめたものかと思考を巡らせた。

プロジェクト始動!と思いきや、メンバーの心はバラバラだった……

話は2週間前にさかのぼる。

及川は、人材コンサルティング会社で働いている。採用や人材育成など、人材に関する顧客の悩みを解決するため、仕事にまい進する毎日だ。

ちょうど2週間前、なじみの顧客である経営者に、知り合いの経営者を紹介したいと言われた。3日後に早速訪問して話を聞くと、及川はいたく気に入られ、その場で契約の内諾をもらった。

その後正式な契約が決まり、1週間後には営業部長や人事部長、バックオフィス部門の代表者を交えた第1回採用プロジェクトミーティングが開催された。経営者は、これまで中途採用中心だったが、新卒採用に切り替えたいことをはじめ、さまざまな構想や展望を語った。

メンバーはみなそれにうなずいているが、いまいち本音が読み取れない。経営者が創業者ということもあり、ワンマン経営の色合いが強いのかもしれない。そう思った及川は、「一度現場のみなさんの声を吸い上げたい」と経営者に伝え、経営者の同席なしのミーティングを開催することにした。

「今回、採用方法を抜本的に見直す採用プロジェクトが発足しました。ただ、みなさんいろいろお考えがあると思います。みなさんの気持ちをざっくばらんに話していただければと思い、この場を設けました」

及川は、メンバーにそう伝えた。最初はぎこちない空気が漂っていたが、だんだんと意見が出始める。これでいい方向に進むかと思いきや、冒頭のような対立構造が明らかになった。

経営者は、新卒採用に力を入れ、長く働いてくれる人材を長期的に育成したいと考えている。しかし、営業部長は、教育に時間を割く余裕はなく、これまで通り中途採用でいいと考えている。人事部長は、そんな営業部の姿勢に批判的だ。

さらに、バックオフィス部門の代表者が口を開く。

「営業部の人間が外回りでいないからって、私たちのところに質問に来る人が多いんです。バックオフィス部門はそのたびに手を止めないといけなくて……営業部でも人事部でも、とにかく教育をきちんとして、こちらにしわ寄せがこないようにしてほしいです」

会議室に、沈黙が落ちた。メンバーの心は完全にバラバラで、モチベーションも低い。採用や人材育成に関する知識やノウハウも蓄積されていない状態だ。

この状況を打破し、新卒採用を軌道に乗せるため、及川がとった行動とは?

(1)目的を共有し、プロジェクトの流れを示したうえで、タスクを具体的に指示する。
(2)まずはメンバーを気遣い、一人一人のメンバーの気持ちを汲み取ることから始める。
(3)メンバーにプロジェクトをどのように進めるべきか意見を求め、それをもとに方向性を決める。
(4)高い目標設定をして、全員が目標達成に向けて尽力するよう、叱咤激励する。

リーダーの役割は、目的を共有し、道筋を示すことにある

及川は、(1)を選んだ。