余計なことはやめなさい!
氏家健治(うじいえ けんじ)
「ケンズカフェ東京」オーナーシェフ。196年東京生まれ。ホテルオークラ東京、赤坂アークヒルズクラブ、レストランマエストロ等、高級店で研鑽を重ね、調理および製菓・製パンの技術を体得する。1998年、東京・新宿御苑前に「ケンズカフェ東京」を開店。現在はファミリーマートのスイーツ監修をはじめライセンスビジネスも展開する。また経営者・起業家向けのビジネス講演会も日本全国で多数おこなっている。著書に『1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ』(SB新書) 。

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倒産寸前だったイタリアンレストランが、スイーツの「ガトーショコラ」1本だけで、年商3億円の会社に急成長! それを実現したのが「ケンズカフェ東京」のオーナーシェフ・氏家健治氏だ。圧倒的な成功の背景には、他には例を見ない「余計なことを捨てる」事業戦略と経営哲学があった。氏家氏の著書『余計なことはやめなさい!』から解説する。

倒産寸前のレストランが「ガトーショコラ」だけで年商3億円に!

ガトーショコラ
(画像=Irina Goleva/Shutterstock.com)

氏家氏は1998年、新宿御苑に「ケンズカフェ」というイタリアンレストランを開業。しかし、数年間は赤字続き。貯金も尽き果て、飲食店が潰れる典型的な路線をひた走っていたという。

2003年、転機は訪れる。立地的に集客が見込めなかった夜の通常営業をやめ、宴会に特化してみた。宴会は完全な「受注生産」で無駄なコストが発生しないため、利益率が向上。赤字から脱却したのだ。ここで氏家氏は「余計なことを見極め、捨てる」ことの大切さを知ることになる。

次に、お店を訪れるお客様の間で評判となっていた「ガトーショコラ」に注目。2004年にテイクアウトでの販売を開始し、2005年からはネット通販を開始した。その好調な売れ行きをみた氏家氏は、勝負に出る。2006年から2008年にかけて、ガトーショコラの値上げを実に3回も敢行。価格は当初の4倍以上になり、離れていったお客様もいたが、それ以上に新規客が増えていった。

2008年にはランチ・喫茶営業をやめ、2014年にはレストラン営業で唯一残していた夜の宴会も終了。完全にガトーショコラ専門の洋菓子店に転換し、時間や資金などの経営資源をガトーショコラのプロモーションに投じていった。

これで終わりではない。2015年には、なんと当時売り上げの7割を上げていたネット通販からの撤退を決意。大幅な売上減を覚悟していたが、クレーム処理にあてるコストが減ったのと、「お店に行かないと買えない」というガトーショコラの希少価値が増し、商品のブランドが向上。売上は落ちるどころか大きく伸びたのだ。

「戦略とは戦う場所を決めること」といわれる。まさに氏家氏は、「余計なこと」を一つひとつ捨てながら「ガトーショコラ」に経営資源を集中していった。それによって、倒産寸前だったレストランは、創業20年で年商3億円を上げるまでに成長したのだ。

「4P」のうち3つの「P」を研ぎ澄ます

このように、氏家氏のサクセスストーリーはまさに「余計なことを捨てる」歴史といえる。この「余計なことを捨てる」とは、マーケティング理論に置き換えるとどう説明できるだろうか。

氏家氏は、マーケティング・ミックスのフレームワークである「4P」、すなわち「プロダクト(製品)、プライス(価格)、プレイス(流通)、プロモーション(販売促進)」に当てはめ、プロモーションを除く3つの「P」について、「余計なこと」を見極めることを説く。

第一に、プロダクト(製品)。本当に取り組みたい商品、事業に絞り込むことで、時間や資金といった資源を集中的に投下し、商品力に磨きをかける。

第二に、プライス(価格)。値下げ圧力に迎合せず、価値に見合った適正な価格を設定する。ガトーショコラは実に当初の4倍以上という強気の値上げを断行したが、結果としてお客様の増加につながった。

第三に、プレイス(流通)。あえて1店舗体制を堅持することで、「そこでしか買えない」という商品の希少性が上がる。さらにネット販売をやめたこともブランド向上に貢献。余計なクレーム処理というコストもなくなった。

プロダクト×プライス×プレイス――それぞれの「P」で「余計なこと」を見極めながら、その要素を研ぎ澄ませ、相乗効果を高めていくのだ。

ブランドは、「余計なこと」を捨てた先にある

3つの「P」において「余計なこと」を捨て、研ぎ澄ました先に獲得できるのが、その商品・事業の揺るぎないブランドである。

氏家氏は、レストラン営業や、ネット通販などを捨てる過程で生み出された時間と資金を、残る「P」、すなわちプロモーションに惜しみなく投じていった。早期から「ぐるなび」「食べログ」などのグルメサイトに注力し、自社のホームページのアクセス状況もかかさずチェック。2013年にはプロの広報パーソンと契約、テレビでの紹介、書籍出版などのプロモーションを展開していった。

ブランディングには「種まきの時期」と「収穫の時期」がある、と氏家氏は言う。「種まきの時期」は、売上を上げていくためにさまざまな仕込みをする時期。「余計なこと」を見つめ直し、捨てる時期でもある。

そして、「収穫の時期」になったらためらわずアクセルを踏む。この2つの時期の使い分けが重要で、特に「種まきの時期」にどれだけ自社の事業を見つめ直し、仕込みを行っておくかが、後のアウトプットを左右するのだ。

「捨てる」ことは、経営者の「幸福」を見つけること

最後に、逆にあなたにとって「捨ててはいけない」こと、すなわち「余計でないこと」とはなんだろうか?

「余計でないこと」とは、あなた自身や会社が大切にしている「本質」。その「本質」とは、「あなたの仕事や人生を真に豊かにするもの」だと氏家氏は言う。

いろいろな経緯や縁があって、いま携わっているその事業や仕事。その何が、どのように自分や会社にとっての喜びなのか。

その「本質」がみえてくると、それにまつわるすべてのことが「やりたいこと」に変わっていく。氏家氏に言わせると「自分の前に1本のまっすぐな道が見える」のだ。

「本質」がみえてくれば、あとはためらわずに「余計なこと」を捨てる決断のみ。捨てることで、経営者も従業員も本来やるべきこと、やりたいことに専念でき、成果が上がる。笑顔になる。捨てることは、経営者や従業員の「幸福」につながるのだ。(提供:THE OWNER

文・堀尾大吾