シンカー:新型コロナウィルス問題がグローバルに深刻化し、日本の輸出と生産も一時的に大きな下押し圧力がかかるだろうが、2008年のリーマンショック後よりはその影響は長期的なものにならない可能性はまだある。一つ目の理由は、経済成長がほぼ外需依存だった当時と比較し、現在は外需の寄与はほとんどなく、大規模な経済対策で内需の底割れを防げは、下押し圧力を小さくすることができることだ。二つ目の理由は、日本の生産のウェイトは、自動車を除けば、最終消費財ではなく、資本財・中間財が大きくなっているため、下押し圧力が大きくなるまで時間的な猶予があることだ。三つ目の理由は、労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発など、生産活動を長期的支える動きには変化はないとみられることだ。四つ目の理由は、米中貿易紛争の余波と新型コロナウィルスの問題も含め、グローバル生産体制のリスクの見直しと改変が進行するため、安定した供給体制に対するプレミアム上昇が日本国内での生産活動が選好される可能性があることだ。大規模な経済対策の効果に加え、これらの要因が生産活動を支えている間に、新型コロナウィルスの問題が終息に向かえば、年後半の生産活動がV字回復することは十分に可能だろう。そのためには内需までも底割れないことが重要であり、政府の追加経済対策で需要の下支え策としての異次元な財政政策の拡大が行われ、企業の休業補償と給付・減税による需要下支え策を十分にする必要があるだろう。今、急を要するのは、直近の消費刺激ではなく、家計の過度な不安感が消費を追加的に縮小させてしまうのを防ぐことであり、家計の不安感を緩和するのであれば、給付が貯蓄に回ってもまったく問題はなく、その分、規模を大胆に大きく、所得制限など手間のかかることはせず、迅速に実行することだろう。財政赤字への過度な不安を抱えるこれまでの及び腰な財政政策から変化はなく、財政拡大が不十分であれば、新型コロナウィルス問題で信用サイクルまで腰折れてしまい、終息後のリバウンドが小さいばかりか、需要の底割れもあり、将来有望な企業までも倒産させてしまい、イノベーションの機会を逸し、潜在成長率が低下してしまうリスクとなろう。

新型コロナウィルスの問題が短期的ではなく長期的にも日本経済の成長の足かせとなってしまうだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

2月の鉱工業生産指数は前月比+0.4%と、1月の+1.0%に続き、3か月連続の上昇となった。

3か月連続の上昇の背景は三つある。

一つ目は、10月以降の大規模な自然災害によるサプライチェーンの損傷が生産活動を下押した分の挽回がみられる。

二つ目は、10月の消費税率引き上げ後に耐久消費財を中心とした在庫積み上がりへの警戒感によるテクニカルな生産活動の抑制がなくなった。

三つ目は、IT関連財の在庫調整が一巡し、5Gなどへの対応もあり、サイクルが上向き、生産の持ち直しである。

2月の結果は、誤差修正後の経済産業省の予測指数である同+2.0%は大きく下回った。

2月は、新型コロナウィルスの景気下押し圧力が、徐々にグローバル化し始め、企業が警戒感を持ち始めたとみられる。

2月の実質輸出は同+4.2%と堅調で、まだ生産活動への影響は限定的であったとみられる。

しかし、2月の実質輸入が同?10.7%と極めて弱かったことは、中国の生産活動がストップし、部品などの供給が滞るなど、サプライチェーンの損傷が起きていることを示している。

しばらくは手元の在庫で日本の生産活動は維持されるが、3月から生産停滞の影響が出始め、4月にはその影響が大きくなるとみられる。

2月は在庫指数が前月比?2.0%となり、既に在庫の取り崩しが起こっているようだ。

4月から自動車の国内生産が抑制されることが既に公表されている。

3月の経済産業省の誤差修正後の予測指数は前月比?3.1%となっている。

3月が予測指数通りになると、1?3月期の鉱工業生産指数は前期比+0.7%と、3四半期ぶりに上昇することになる。

一方、4月は同+7.5%となっているが、新型コロナウィルス問題は長引いており、実際にリバウンドがみられるのは5月以降に後ずれるだろう。

4月から自動車の国内生産が抑制されることが既に公表されている。

4 - 6月期の鉱工業生産指数は低下に転じる可能性がかなり高い。

新型コロナウィルスの問題がグローバルに拡大し、需要の大きな減退が懸念されている。

日本の輸出と生産も一時的に大きな下押し圧力がかかるだろうが、2008年のリーマンショック後よりはその影響は長期的なものにならない可能性はまだある。

一つ目の理由は、経済成長がほぼ外需依存だった当時と比較し、現在は外需の寄与はほとんどなく、大規模な経済対策で内需の底割れを防げは、下押し圧力を小さくすることができることだ。

二つ目の理由は、日本の生産のウェイトは、自動車を除けば、最終消費財ではなく、資本財・中間財が大きくなっているため、下押し圧力が大きくなるまで時間的な猶予があることだ。

三つ目の理由は、労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発など、生産活動を長期的支える動きには変化はないとみられることだ。

四つ目の理由は、米中貿易紛争の余波と新型コロナウィルスの問題も含め、グローバル生産体制のリスクの見直しと改変が進行するため、安定した供給体制に対するプレミアム上昇が日本国内での生産活動が選好される可能性があることだ。

大規模な経済対策の効果に加え、これらの要因が生産活動を支えている間に、新型コロナウィルスの問題が終息に向かえば、年後半の生産活動がV字回復することは十分に可能だろう。

そのためには内需までも底割れないことが重要であり、政府の追加経済対策で需要の下支え策としての異次元な財政政策の拡大が行われ、企業の休業補償と給付・減税による需要下支え策を十分にする必要があるだろう。

今、急を要するのは、直近の消費刺激ではなく、家計の過度な不安感が消費を追加的に縮小させてしまうのを防ぐことであり、家計の不安感を緩和するのであれば、給付が貯蓄に回ってもまったく問題はなく、その分、規模を大胆に大きく、所得制限など手間のかかることはせず、迅速に実行することだろう。

財政赤字への過度な不安を抱えるこれまでの及び腰な財政政策から変化はなく、財政拡大が不十分であれば、新型コロナウィルス問題で信用サイクルまで腰折れてしまい、終息後のリバウンドが小さいばかりか、需要の底割れもあり、将来有望な企業までも倒産させてしまい、イノベーションの機会を逸し、潜在成長率が低下してしまうリスクとなろう。

新型コロナウィルスの問題が短期的ではなく長期的にも日本経済の成長の足かせとなってしまうだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司