シンカー:日本経済は非常事態にあり、これまで盲目的に信じられてきた財政に対する考え方をしっかり検証し、大胆で柔軟な経済対策を実施する必要がある。財政の三つの古いイデオロギーを打破することを試みる。マクロの考察では、これまでの財政運営を支えてき様々な通念がミクロ・会計の思い込み(イデオロギー)である可能性を指摘できる。消費税率の引き下げと大規模な現金給付を迅速に実施することが必要だろう。これまでのイデオロギーに固執して財政拡大が過少で経済が長く混迷してしまった場合、政策当局への国民の信頼が失墜する恐れがあろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

1.消費税は安定財源として必ず好ましいという考え方は間違い

・税収の振れを小さくすることは、景気の振れを逆に大きくするトレードオフが存在する。
・安定財源である消費税の税収割合の上昇は、財政の景気自動安定化装置を毀損させる。
・強い実質賃金上昇をともなうデフレ完全脱却で家計の体力が回復する前に、昨年10月に消費税率を引き上げてしまい、様々なショックに耐えうる日本経済の体力を削いでしまった。
・消費税率引き上げの問題は、その直接的な景気下押し圧力より、経済の体力を消耗させ、予期せぬショックへの対応力を弱体化させること。

2.消費税は世代が広く分かち合うものという考え方は間違い

・年金などの手当ては実際に生活に必要となる費用に見合って決まるため、消費税率が引き上げられれば、長い目でみればそれらも増額される。
・引退世代が貯蓄を取り崩して消費した分は現役世代の所得の増加となる。
・その増加した所得から税金が納められるのであれば、消費税がなくても、現役世代に負担が大きく偏っていることにはならない。
・消費税率が引き上げられて将来の負担が大きくなったとみた引退世代が貯蓄の取り崩しを抑制してしまえば、現役世代の所得に抑制の力が働いてしまうリスクとなる。

3.現金給付はどんな時も効果が小さいという考え方は間違い

・今、急を要するのは、直近の消費刺激ではなく、家計の過度な不安感が消費を追加的に縮小させてしまうのを防ぐことであり、家計の不安感を緩和するのであれば、給付が貯蓄に回ってもまったく問題はなく、その分、規模を大胆に大きくし、恒久化(ベーシックインカム)すべき。
・所得大幅減のリスクと所得喪失の不安はこれまでの所得水準にかかわらず一様で、全国民の生存の権利として、所得制限は必要なく、迅速な実施が必要。
・短期的な需要の急減により、将来有望な企業まで倒産させてしまえば、イノベーションの機会を逸し、潜在成長率が低下するなど、将来の成長の足かせとなってしまうリスクが高いため、売上が減少した企業に対する広範囲・大規模・迅速な現金給付と営業自粛・休業補償を含めた支援、望むすべての企業に対する資金繰り支援が必要。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司