古尾谷 裕昭
古尾谷 裕昭(ふるおや・ひろおき)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)代表税理士。昭和50年生まれ、東京浅草出身。税理士・司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍しているベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を率いている。相続税の申告のみならず、相続登記、相続争い、事業承継(M&A)、遺言書作成、民事信託、資料収集から不動産売却や財産コンサルティングまで様々な業務に対応している。年間の相続税申告1,000件超(令和1年度実績1,247件)であり、国内最大級の資産税チームを築き上げた。

不動産経営を行う場合、土地や建物といった固定資産の税金対策は必須である。とくに不動産購入時の減価償却はメリットも多く、仕組みをしっかりと理解する必要がある。ここでは、不動産経営における減価償却の基本や計算方法はもちろん、減価償却のメリットを紹介していく。

減価償却とは?

不動産経営

(画像=Tyler Olson/Shutterstock.com)
不動産経営における減価償却のメリットを説明する前に、減価償却の仕組みなど基本的な項目について説明する。

減価償却がメリットを生み出す仕組み

不動産の賃貸経営を行っている方や、これから不動産投資を行おうとする方にとっての大きな関心事として、税負担の軽減がある。法人経営であれば法人税、個人経営であれば、所得税に関する問題である。

税金の支払いは所得の大きさに応じて決まるので、経費を増やして所得を圧縮することで税負担を軽減できる。

しかし、現金支出(キャッシュ・フロー)を伴うような経費を増大させて、報酬を減少させてしまう行為は本末転倒である。そこで、キャッシュ・フローを伴わない経費である減価償却費を活用するという方法がある。

この減価償却を使えば、大きな収入を得ていても、経費の計上によって税務上の所得を圧縮できる。ただし、キャッシュ・フローが減るわけではないため、手元に現金が残る。これが減価償却のメリットである。

具体的な減価償却の仕組みや、計算方法等を完全に理解することで、減価償却のメリットを享受できる。ここでは、不動産の減価償却についての仕組みを理解しよう。

不動産の減価償却とは、取得した建物が所有期間にわたって時間とともに価値減少していくと考えて、取得価額の一部を減価償却費として、各事業年度の費用として配分する手続きをいう。

減価償却が可能となる資産は、建物や設備のように価値減少が生じるものだけである。土地のように、時価変動があっても価値そのものが減少しない資産には、減価償却は適用できない。

減価償却が必要とされる理由

そもそも減価償却はなぜ必要となるのか。不動産の購入時において、建物の取得費用を一括して経費として計上した方がいいのではないかと考える方もいるだろう。

不動産オーナーの立場からすれば、全額を経費に落とすほうが都合がよい。所得を圧縮して税負担を軽減できるからである。そうすれば、その年度は大幅な赤字となり、欠損金が発生する。

しかし、そのような巨額な損金を一時的に発生させるのは、税務ではなく会計上好ましくない。一括して損金として計上すると、家賃収入を計上する期間がずれてしまうからである。減価償却は、資産の価値減少を反映したものであるから、今後数十年にわたって生じる家賃収入と対応させるべきものだろう。

減価償却資産は、時間が経つとともに資産価値が目減りしていくと考えるため、減価償却を行うことで、建物の取得費用を資産価値の減少に応じて少しずつ経費に振り替えるのである。

企業会計では、このように資産価値が減少する事実を適正に反映させるため、減価償却を通じて経費に振り替える処理を強制的に適用させる。会計では、これを費用収益対応の原則という。

一方で税法は、企業会計とは異なる。一括して損金計上させることを回避するために、限度を設けているにすぎない。つまり、収入との対応関係が認められる部分に限定して経費に計上することが認められているのである。

税法では、減価償却は各年分の必要経費として配分できる限度額を規定しているにすぎないため、経費に計上せずに損金計上を先送りしたいならば減価償却しなくてもよい。これが税法の減価償却の仕組み、考え方である。

減価償却のメリットを活かす所得計算

減価償却にメリットがある理由についてはご理解いただけたであろうか。ここからは、減価償却のメリットを最大限に活かすための所得計算方法について説明する。

減価償却費の計算とは

減価償却費の計算を行う場合には、減価償却資産の構造や用途に応じて規定される「耐用年数(償却率)」にわたって、資産の取得費用を配分することになる。取得価額に償却率を乗じて減価償却費が計算されるのだ。

不動産経営を行った場合、必要経費に占める減価償却費の割合が大きくなる。しかも、実際のキャッシュ・フローとは無関係に計算されるものであるため、恣意的に計算すると租税回避行為となる。

それ故、減価償却の計算は適正に行わなければならず、一定の計算方法を、毎期継続的に適用することが求められる。不動産経営における減価償却は正しく理解しておかなければならないのだ。

定額法

定額法とは、資産の購入価額を耐用年数で均等に費用配分する方法である。原則として、毎年同額の減価償却費が経費に計上されるため、所得計算は比較的理解しやすい。

定額法で減価償却費を計算する際には、国税庁の発行する『減価償却資産の耐用年数等に関する省令』(e-Gov)に付録されている『別表第八 平成19年4月1日以後に取得をされた減価償却資産の定額法の償却率表』に規定されている償却率を、資産の取得価額に対して乗じることになる。

たとえば、新築価格1,000万円で、耐用年数22年の木造の建物を購入したとする。減価償却率が「0.046」と定められているため、この数値「0.046」を建物の購入価額に乗じて毎年の減価償却費を計算する。

減価償却費 = 1,000万円 × 減価償却率0.046 = 46万円

年度の途中で建物を取得した場合には、経過月数に応じて経費に計上することになるため、物件を取得した月から月割計算することになる。

なお、2007年4月1日に償却率の改正があり、物件を取得した時期によって償却率が変わった。同じ耐用年数の建物でも、取得した時期が2007年4月1日より前か後ろかによって償却率は違うので注意が必要だ。

定率法

定率法とは、資産の残存簿価に対して毎期一定の償却率を乗じて、費用配分する方法である。毎年の減価償却費は、残存簿価の減少に応じて毎年減少し続けることになる。

定額法と比較すると購入当初の減価償却費が大きいため、不動産オーナーに好んで使われる減価償却の方法であった。

2016年3月までには、建物と附属設備を分けて附属設備を区分して資産計上すれば、附属設備に対して定率法を適用できた。しかし、2016年4月以降は、税法が改正され、現在は定額法しか適用できなくなっている。

減価償却の計算例

不動産の減価償却費は、不動産の取得価額に法定耐用年数に応じた償却率を掛けて計算する。法定耐用年数に応じた償却率は、その構造によって決められている。

たとえば、鉄筋コンクリート(RC構造)は47年、重量鉄骨の場合は34年、木造は22年である。これら以外のさまざまな減価償却資産の耐用年数は、国税庁の資料「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で調べることができる。

法定耐用年数に応じた償却率については、同じく国税庁公表の「減価償却資産の償却率表」に規定されている。所有する不動産が新築の場合は、償却率表に記載されている年数を、そのまま減価償却費の計算に用いることとなる。

一方で、中古物件の減価償却については、簡便法によって国税庁の資料で確認した耐用年数と取引時の経過年数から、残存耐用年数を計算することが多い。

簡便法では、築年数が耐用年数を超えていれば0.2を乗じた年数を、築年数が耐用年数を超えていなければ、耐用年数から(経過年数×0.8)を控除した年数を残存耐用年数とする。

たとえば、鉄筋コンクリートマンションを竣工から21年後に購入したとすると、以下の計算のように残存耐用年数は36年である。

【計算過程】
残存耐用年数 = 47年(鉄筋コンクリートの耐用年数) - (21年 × 0.8)
= 47年 - 16.8年
= 30.2年
端数切り捨て ⇒ 30年

減価償却のメリットは2つある

減価償却がメリットとなる理由や、減価償却の計算方法を説明してきたが、ここでは、減価償却の具体的なメリットを2つ紹介する。

不動産の減価償却費で経費を増やすことができる

減価償却費は、キャッシュ・フローの伴わない経費であり、税法の計算に基づいて計上される。不動産賃貸経営からのキャッシュ・フローが黒字であっても、経費を計上することで、所得を軽減できるのだ。

近年、アメリカ不動産の購入が大流行した。中古物件で耐用年数を過ぎているものは、4年間という短期で償却できたことから、不動産所得だけでなく事業所得や給与所得など、不動産以外の所得まで圧縮する効果が得られたからである。多額の減価償却費を計上し、帳簿上の赤字を作ることが可能だったのだ。

しかし、アメリカ不動産の減価償却費の活用が、2020年の税制改正によって封じられることになってしまった。あまりに極端な税金対策だったからである。

高額所得者の給与所得を圧縮できる

医師や弁護士など高額所得がある富裕層の方々が、税金を支払った後の手取り金額を増やそうとするならば、所得税負担を減らす税金対策が欠かせない。しかし、法人と違って個人の場合は、計上できる経費の範囲は狭い。

給与所得を得ている高額所得者の場合、不動産経営による減価償却がメリットの大きい効果的な税金対策の方法となる。

確定申告をしている方は容易に理解できるだろうが、高額所得者の税金負担が重い理由は課税所得が大きいからである。課税所得が大きい理由は、収入が多いのに対して経費が少ないからである。

課税所得を減らす方法を考えてみよう。事業所得と異なり、役員報酬などの給与所得は会社が支払う金額を決め、それに応じたキャッシュ・フローが伴う。所得を圧縮すれば、当然ながら手取りの給与額は小さくなる。

課税所得を赤字にすることで税負担を軽減できるからといって、実際にキャッシュ・フローを伴うような経費の無駄遣いをしていては本末転倒であろう。

そもそも、税金や社会保険料が高額であるから給与収入に係る手残り額が小さくなっているので、手取り額を増やすためだとしても、わざとお金を使ってしまっては意味がない。給与を減らせばよいわけではないのだ。

そこで、所得計算上の赤字をつくることが必要となる。しかも、キャッシュ・フローを伴わない赤字である。換言すれば、キャッシュ・フローは黒字であるが、課税所得は赤字となる状態である。

このような状態を創出するポイントは、キャッシュ・フローが伴わない経費を計上することであり、不動産経営における減価償却というメリットを活用するのが効果的なのだ。

高額の自動車を購入すると税金対策になるのか

ある個人事業主の業績が好調で、今年度末の事業所得が1,200万円であり、所得税や住民税などの税金対策を行うために、1,200万円の経費を計上したいと考えているとする。

たとえば、1,200万円の自動車を購入すすれば税金はゼロになるだろうか。

もちろん、1,200万円の取得費用の全額を一括で経費に計上できれば、課税所得がゼロになる。しかしながら、このような税務処理は認められていない。自動車には減価償却の法定耐用年数が定められているからである。

自動車の法定耐用年数は6年である。つまり、最大200万円まで経費に計上することができる。通常は毎年200万円ずつ6年にわたって経費に計上していくことになる。個人事業主であれば、減価償却費が事業所得のマイナスに作用する。

このような高額の自動車の購入に対する減価償却費の計上は、給与所得を得ている会社経営者には活用できない税金対策である。

会社経営者は事業所得を稼いでおらず、会社経営の対価として給与所得を得ている。したがって、事業で自動車に乗るという概念はない。個人の自動車で減価償却費を計上しても、会社経営の仕事とは関係がないのだ。

個人事業主であれば、減価償却費の計上は、事業所得に係る税金対策として機能することになるのだ。

減価償却のメリットを得るための不動産投資を考える

個人事業主が税負担を軽減するためには、不動産投資は有効な手段と考えてよいだろう。

不動産投資に躊躇される方の中には、「不動産価格が高くなっており、東京オリンピックの後は一気に下落しそうで怖い」「多額の銀行借入金は、返済不能になったときに破産するリスクがあるから怖い」という方々もいる。

しかし、不動産投資に係るリターンとリスクを理解すれば、それほど怖いものではない。不動産投資にはリスクを伴うが、減価償却というメリットもある。採算性を正確に計算しておけば、投資回収が不能になるリスクの回避や最小化は可能であろう。

減価償却のデメリット

減価償却のデメリットは、会計処理が面倒であることだ。不動産の中で減価償却を行うことができるのは建物だけである。土地は減価償却できない。

それ故、不動産投資では土地と建物の価額を分ける必要がある。減価償却できる部分と、減価償却できない部分を明確に区別するのだ。

不動産の購入価額のうち建物の割合が高ければ、減価償却費も高くなるため大きなメリットが発生する。減価償却のメリットを法定耐用年数の終わりまで享受できるのだ。しかし、恣意的に建物と土地の割合を分けると、租税回避行為と判断されてしまう。そこで、適法に割合を算出する方法が決められている。

この土地と建物を分ける方法はいくつかある。売買契約書に土地と建物の金額が記載されている場合は明確である。

たとえば、売買契約書に「土地3千万円」「建物3千万円」と金額が記載されている場合は、その金額が土地と建物の金額になる。建物に係る減価償却費の総額は、トータル3千万円となる。

耐用年数39年とすれば、毎期の減価償却費の限度額は、
建物3千万円×償却率0.026(耐用年数39年)=78万円/年となる。

それでは、売買契約書に土地と建物の金額が別々に明記されていない場合は、建物の取得価額をいくらにすべきなのだろうか。

この場合、按分計算が行われる。たとえば、売買契約書に「土地と建物の総額1億円」と記載されている場合は、固定資産税評価額を使って按分する方法が採られる。

1億円で購入した物件の固定資産税評価額が、土地と建物の合計7千万円であり、その内訳が「土地(4割)2,800万円+建物(6割)4,200万円」であるとすると、減価償却費の計算は以下のように考えることが妥当である。

建物の固定資産税評価額 ÷ 建物と土地の固定資産税評価額の総額

求めた比率を、購入金額の総額に乗じることで、建物の取得価額を計算できる。

1億円(不動産総額)×60%(建物4,200万円÷総額合計7,000万円)=6,000万円(建物の取得費)

よって、定額法によって算出した減価償却費は以下のようになる。

建物6,000万円×償却率0.026(耐用年数39年)=156万円/年

以上のように、中古物件の減価償却費は、建物の金額の按分計算によって変わる。このような計算に基づく会計処理は、消費税の計算にまで影響を及ぼすので非常に煩雑なものとなる。これが減価償却のデメリットと言えるだろう。

不動産の投資物件を決める際には、建物と土地の金額を売買契約書に明記しておくことで、購入した後の減価償却の計算が容易になる。

減価償却のメリットを最大限活用するためには、不動産を購入する前の物件を探す段階から、建物の購入価額とその減価償却について検討しておくべきだといえよう。(提供:THE OWNER

文・古尾谷 裕昭(税理士)