日銀短観の3月調査は、大企業・製造業の業況判断DIが前回比▲8ポイント悪化した。DIの水準は「悪い」超へと転落して、景気後退局面入りを示唆している。資金繰りDIは、▲3ポイントほど「苦しい」方向に変化し、雇用DIも+3ポイントほど「過剰」方向へと動いた。急激ではないが、着実に景気は悪化している。

工場
(画像=PIXTA)

景気後退色が濃厚

新型コロナ・ショックは、大企業・製造業の業況判断DIを▲8の「悪い」超へと転落させた(前回比▲8ポイント悪化)。先行きも、さらに▲3ポイント悪化する見通しである。

大企業製造業が悪い超転落
(画像=第一生命経済研究所)

生産用機械、造船・重機、繊維の悪化幅が目立つ。中国需要の減退を反映しているとみられる。自動車の悪化幅は、前回比▲6ポイントと比較的落ち着いている。しかし、これは欧米経済の悪化によって今後もう一段悪化するに違いない。まだ、業況DIの悪化は、十分に起こりそうな企業業績の悪化を織り込みきれていない印象がある。

僅かな好材料は、原油価格の大幅下落によるコスト減である。唯一、窯業・土石製品が業況DIを十八ポイント改善させたのはその効果だろう。とはいえ、紙パ、化学といった原油安の恩恵を受けそうな業種も業況DIが悪化しており、好材料はかき消されているのが実情だ。

全体として、業況DIが大企業・製造業でマイナス域に転落したことは、景気情勢がいよいよ後退局面入りしたことを濃厚にするものだと考えられる。

大企業製造業が悪い超転落
(画像=第一生命経済研究所)
大企業製造業が悪い超転落
(画像=第一生命経済研究所)

コロナ・ショックは、製造業よりも非製造業で業況DIを著しく悪化させると事前には警戒していた。非製造業では、大企業の業況DIが前回比▲12ポイント、中堅企業が同▲14ポイント、中小企業が同▲8ポイントと悪かった。非製造業の業況DIの水準は、大企業こそ現状プラスだが、先行きは▲1とマイナスに転じる見込みである。また、中小企業は▲1へと「悪い」超に転じてしまった。

心配していたほど一気に落ちなかったが、その内諏では局所的には大打撃だったようだ。特に、宿泊・飲食サービスは、大企業の業況DIが前回比▲70ポイント、中堅企業が同▲63ポイント、中小企業が同▲37ポイントと極めて 大きく悪化した。

大企業・非製造業では、宿泊・飲食サービスのほか、対個人サービスの業況DIが前回比▲31ポイント、運輸・郵便が同▲24ポイント、卸売が同▲14ポイントと悪い。小売は同▲4ポイントと小幅だった。インバウンド減少と自粛のダブルパンチでサービス業の打撃が大きいことがわかる。

デフレ圧力はまだ顕著でない

コロナ・ショックの影響は、賃金下落・物価下落によって再びデフレ局面へ戻ることを心配させる。その点、3月短観の販売価格判断DI、仕入価格判断DIはまだほとんど動いていなかった。製造業の素材のところで少 し製品価格が下がり始めたかなというくらいであった。動いたのは、国内での製商品・サービス需給判断DIのところで、大企業・製造業が前回比▲4ポイントとなった点だ。むしろ、海外での製商品・サービス需給判断DIは、大企業・製造業が同▲2ポイントと小幅だ。海外よりも国内で需給ギャップが悪化方向にあることは、今後のデフレ圧力の強まりを感じさせるものだ。

大企業製造業が悪い超転落
(画像=第一生命経済研究所)

雇用と資金繰り

景気悪化により、中小企業の雇用と資金繰りが急激に悪くなることを事前に筆者は警戒していた。中小企業の全産業では、雇用判断DIは前回比+3ポイントの「過剰」方向への変化だった。4月2日に発表される業種別データをみなければわからないが、非製造業のサービス関連は「過剰」方向の変化が局面的に大きくなっているではあるまいか。雇用判断DIは、大企業では変化は乏しく、中小企業の方で悪化が目立っていた。雇用者の大半は、中小企業に属しているので、今後は雇用悪化に要注意だと感じられる。

資金繰り判断DIは、大企業・中堅・中小とも揃って、前回比3ポイントほど「苦しい」超へと変化した。確かに、資金繰りは悪化していると思う。全体では、「金あまり」と言われる状況の中で、まだ余裕のある企業は多いだろう。金融機関の貸出態度判断DI(全規模・全産業)は前回比▲3ポイントほど、「厳しい」方向へと変化した。この点は、今後どう推移するか注意しておきたい。

大企業製造業が悪い超転落
(画像=第一生命経済研究所)
大企業製造業が悪い超転落
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今回の短観は、3月調査ということで初めて2020年度計画が明らかになった。大企業・製造業は、2020年度の売上が前年比0.6%、経常利益が同▲2.8%とそれほど悪くない。ただ、これは2019年度計画が、売上減・収益減となっていることもあるから、対前年比で悪くみえないだけだろう。

2019年度計画の下方修正で目立つのは、大企業・非製造業の売上が▲1.0%ポイントと下振れしている点だ。中堅・中小よりも大企業の売上計画の下振れの幅の方が大きくなっている。

プラス方向の動きとしては、2019年度の大企業・製造業の経常利益計画が+2.2%ポイントほど上方修正されているところである。ここはよくわからないが、原油下落の恩恵を見込んでいるのかもしれない。

設備投資計画

大企業は、製造業・非製造業ともに2019・2020年度は前年比プラスの計画である。これまでの堅調さは維持されている。前回調査との修正状況も過去のパターンから大きくは下方修正されていない。コロナ・ショックは、それほど事業計画を大きく見直すほどではないということなのだろうか。しかし、生産・営業用設備判断DIはここにきて悪化しており、設備需要が粘り腰という訳でもなさそうだ。

大企業製造業が悪い超転落
(画像=第一生命経済研究所)

しかし、東京五輪は1年延期になり、非製造業は今後設備投資が下押しされてもおかしくないと思う。 中小企業では、製造業が2019年度の修正状況と2020年度の発射台(調査スタート時の計画)が弱いと感じさせる。中国経済の不透明感などが影響している可能性はあるだろう。

大企業製造業が悪い超転落
(画像=第一生命経済研究所)
大企業製造業が悪い超転落
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今は金融政策は様子見

さて、日銀短観は、金融政策の判断にどう影響するだろうか。3月会合では、ETFを買い入れる上限を引き上げるかたちで、日銀は追加緩和に動いた。現在は、政府の対策待ちである。

今後、需給ギャップが悪化していくと、それがデフレ圧力になることが日銀の最も恐れているシナリオだろう。感染リスクが高いときには、金融・財政政策はともに効きにくい。だから、感染の収末を待って、政策が効くような準備をするほかはない。

不幸中の幸いは、円高にはなっていない点である。直近では、FRBの量的緩和・流動性供給がドル不足を緩和してドル安・円高方向にある。ただ、これは良いドル安とみられる。金融市場が今後大荒れになると日銀はETFなどの買い入れ枠を上積みするなどの対応で政策支援をアピールすることだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生