バブル崩壊から今に至るまで、日本企業は「選択と集中」と「持たざる経営」を進めてきた。だが新たな事業創造ができず、成長軌道に乗れずにいる。

そこで、『持たざる経営の虚実』(日本経済新聞出版社)を出版したフロンティア・マネジメント代表取締役の松岡真宏氏に、日本企業が目指すべき道について4回に渡って寄稿してもらった。

3回目は、コングロマリット化するためにどのようなM&A戦略を採るべきなのかについてだ。

松岡真宏(まつおか・まさひろ)氏
東京大学経済学部卒。バークレイズ証券、UBS証券などで流通業界の証券アナリストとして活動。2003年に産業再生機構に入社し、カネボウとダイエーの再生計画を担当する。2007年よりフロンティア・マネジメント代表取締役。近著に『時間資本主義の時代 あなたの時間価値はどこまで高められるか?』(日本経済新聞出版社)がある。

境界統合型という新しいM&Aの形

成長企業のための「多角化経営」のすすめ#3
(画像=Hit1912/Shutterstock, ZUU online)

特集の第1回第2回まで、日本企業が成長するためには、事業や企業を取り込むプリンシパル戦略を進め、コングロマリットを形成すべきだと述べてきた。そこで今回は、その手法としてどのようなM&A戦略を進めればいいのか考えてみたい。

日本においてM&Aは着実に増加している。80年代後半のM&A件数は、年間500件程度だったが、2017年には3000件を超えた。M&A成約金額ベースで見ても、80年代後半の年間数千億円から2017年には年間20兆円を上回る水準へと上昇している。

M&Aのタイプは一般的に、①水平統合(同業買収によるシェアの拡大)、②新規ビジネスへの参入、③垂直統合(バリューチェーンの川上・川下の買収)の三つとされている。

例えば、①の水平統合型M&Aは、2018年に武田薬品工業がアイルランドの製薬大手企業であるシャイアーを約460億ポンド(約6兆8000億円)で買収した案件が代表例。これは、日本企業による過去最大規模の海外企業買収で、同社はこれで世界の製薬会社のトップ10入りを狙うと宣言、地域の多角化も図る案件だった。

②の新規ビジネスへの参入型M&Aの好例は、やはり2018年に発表になった、米飲料大手コカ・コーラによるカフェチェーンの買収だ。こちらも、母国市場での潤沢な利益を用いての地域の多角化だ。買収対象は、英国に拠点を置くカフェチェーン「コスタ・コーヒー」。コスタ社が既に中国国内に約450店舗を有しており、今後の成長市場である中国において橋頭堡を築いていることが、買収の背景にあると言われている。つまりコカ・コーラ社は、時間を買ったわけだ。

しかし、第2回でも触れたように、今後は増大する「取引コスト」を削減するためのM&Aが盛んになるはずだ。それは、①~③ではない新しいタイプで、「境界統合型」というものだ。

これは、ビジネスを行う際に隣接する事業を行っている、つまり境界を接している企業とのM&Aのことだ。例えば、食のバリューチェーンでいえば、弁当を仕入れて販売するコンビニエンスストアと、製造する工場とは境界を接して密接に関係している両社が、M&Aによって一緒になるという形だ。

第三者の弁当工場から仕入れるか、それともM&Aをしてグループ内に取り込んだ工場から仕入れるかで考えてみよう。

第三者の弁当工場から仕入れる場合、複数社から合い見積もりを取って仕入れ先を選ぶ。この場合は、弁当のクオリティではなく、仕入れ価格を重視する。そのため、コンビニが得ている消費者情報を生かし、最良の弁当を作るというわけにはいかない。ある程度の品質の弁当でも売れている時代であればこれでも良かった。

これが、特定の弁当工場をM&Aを行ってグループ内に入れると、仕入れ先を選ぶ必要がなくなるため、見積もりを取ったりコンペを開いたりする手間やコストが削減できる。しかも、コンビニが得ている情報、例えば売れ行き情報などを100%駆使することができるため、おいしくて売れる弁当を開発することができ、生産性も向上するわけだ。