聴き手の反応が鈍い……それでも平静を保つには?

一方、日本各地で講演の機会も数多く持つ山口氏。短時間で即答するテレビでの伝え方とは対照的なノウハウが求められる場面だ。

「聴衆の方々と直接向かい合って話すわけですから、やはり緊張します。講演前は毎度、鏡の前で3~4回、通しで話して確認。表情や声のトーン、言葉選び、内容を吟味します」

とはいえ、ここでも準備したものを読み上げるような伝え方はすべきでない、と考える。

「暗記した通りに話すのと、その場の反応を見ながら臨場感を持って話すのとでは、反応がまるで違います。練習を積んでスラスラ言えるようになると、自分の中に一種『飽き』の感覚が出るのですが、これが不思議なほど伝わるのです。聴き手にとっては初めての話のはずが、なぜか退屈を感じさせてしまう。相手に響く言葉を語るには、こちらが新鮮な気持ちを保つことが不可欠なのです

とはいえ、最初のころはなかなかできませんでした。本番前の打ち合わせで、主催者の方から『この話題は厚めにお話しください』などと言われたら『どうしよう、せっかく暗記したのに!』と内心慌てていたものです(笑)。でも今はかなり慣れてきて、その場でアドリブをきかせる余裕も出てきました」

聴衆を見ながら随時アレンジを加える。反応が良いと気持ちが乗り、話にも磨きがかかる。しかし半面、反応が悪いときのリスクも大きい。

「『伝える』という行為にはメンタルが大きく関わると思います。とりわけ私のような『気にする』性質の人間は、自信をなくすと崩れやすいのが弱点。実際、講演中に客席で寝ている人を見るとダメージを受け、不安になり、口調に迷いが出て、印象の鈍い話に……という失敗を何度かしたことがあります」

この弱点はその後、ある発想の転換によって克服された。

「自分が聴き手に回ったときのことを思い出してみたのです。うっかり寝てしまった講演会をいくつか思い起こすと、話の内容ではなく、たいていは自分に原因がありました。単に前日飲みすぎた、など(笑)。

それ以来、ダメージを受けそうなときは、『Take it not too personal !』と、自分に言い聞かせます。大事なのは、全部を個人の問題と捉えないこと。思えば、すべて自分のせいにするのは逆におこがましいとも言えますね。できることを誠実に行ない、あとは相手の自由。そうした割り切りも、『伝える』ためには重要なことです」

(「THE21」2019年7月号掲載インタビューより 取材・構成:林加愛 写真撮影:長谷川博一)

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(画像=webサイトより)

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