矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

9日、IMFのゲオルギエワ専務理事は新型コロナウイルス感染拡大の影響を「リーマンショックを上回る大恐慌以来の落ち込み」との認識を表明したうえで、2020年は170ヵ国以上で一人当たりの所得がマイナスになると指摘した。また、各国による財政出動は「世界のGDPの9%に相当する8兆ドルに達する大規模なものであり、経済は徐々に再開してゆく」としながらも、2021年も「部分的な持ち直し」に止まるだろうとの見通しも示した。国、地域、都市間における移動制限と行動制限の影響は想定以上に長期化する可能性が高いということだ。

その前日、2か月半ぶりに武漢の封鎖が解かれた。東風汽車集団と合弁するホンダの現地稼働率は50%に回復、半導体大手「紫光集団」グループの長江メモリー・テクノロジーの生産量も封鎖前の水準を取り戻すなど、企業活動の再開が急ピッチだ。欧州でも規制解除に向けての動きが始まった。オーストリア、デンマーク、ノルウェーでは店舗や学校の再開準備が進む。ドイツ、イタリア、スペインでも復活祭明けを目途に一部の規制緩和が検討されているという。
一方、陰性者が再び陽性化するなど新型コロナウイルスには不明な点も多い。無症状の感染者の実態も掴めていない。性急な緩和は第2派、第3派の感染拡大を起こす可能性もあり社会的リスクは高い。

4月7日、政府は新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急経済対策を発表、翌8日には首都圏、関西圏、九州の7都道府県に「緊急事態宣言」を発出した。経済対策における財政支出は昨年12月に閣議決定された総合経済対策9.8兆円に緊急対応策の0.5兆円と新たな追加分29.2兆円を加えた総額39.5兆円、総事業費で108.2兆円となった。対応のスピード感、地方自治体との調整不足、経済支援の内容や制度設計への疑問は残る。しかしながら、収入の急減に見舞われた家計や事業者には一刻の猶予もない。まずは迅速な実行を、そして、不備があれば直ちに見直し、必要な追加措置を講じて欲しい。

強制力を伴わない行動規制への批判も強い。一部自治体では警察の投入が表明されたようだ。しかし、危機にあって試されているのはまさに民主主義の成熟度であり、問われているのは社会の民度そのものである。首長判断による警察の投入が、罰則を伴わない自粛の効果を疑問視する “大きな声” を背景にした単なるリーダーシップの演出であることを願う。
他国の制度や対策がすべて正しいわけではない。選択された方法で結果を出す、そのために何をすべきかだ。成果がついて来なければ科学的な検証を通じて軌道修正の是非を問えば良い。とにかく、着手すること、行動することが先決だ。とは言え、「レストランに行ってはいけないのですか」、「私のような国会議員は収入に影響がない」、「責任をとれば良いということではない」、トップが発したこれらの言葉に覚悟は萎える。残念だ。

今週の“ひらめき”視点 4.5 – 4.9
代表取締役社長 水越 孝