中小企業経営者の高齢化が進む日本では、事業承継は火急の課題となっている。中小企業庁をはじめとする公的機関でも、事業承継を円滑に進めるための施策を矢継ぎ早に実行している。ところで、この事業承継を進める際は、どのようなことが課題になるのだろうか。この記事では、中小企業による事業承継の課題分析や、経営者が検討すべき課題について詳しく解説していく。

中小企業庁による事業承継の課題分析

事業承継
(画像=PIXTA)

最初に、中小企業庁による事業承継の課題分析を見てみよう。中小企業庁が平成28年に作成した資料『事業承継に関する現状と課題について』によると、事業承継の課題は、

・中小企業経営者の大量引退期が到来
・後継者難による廃業
・好業績にもかかわらず廃業
・事業承継は進んでいない

などとしている。

中小企業経営者の大量引退期が到来

中小企業庁が挙げる事業承継の第一の課題は、中小企業経営者の大量引退期が到来していることである。2017年に47歳だった中小企業経営者の年齢分布のピークは、20年後の2015年は66歳、2016年はさらに上がって67.7歳となっている。小規模事業者に限れば、70.5歳だ。

したがって2020年は、多くの中小企業経営者が引退することが予想される。中小企業庁によれば、その数は数十万人に上るという。

後継者難による廃業

事業承継の課題として次に挙げられるのは、後継者難によって多くの中小企業が廃業する可能性が高まっていることである。60歳以上の中小企業経営者のうち、5割以上が廃業を予定している。個人事業者に限れば、約7割だ。

日本政策金融公庫総合研究所のアンケートで、廃業する理由の第1位は「当初から自分の代でやめようと思っていた(38.2%)」、第2位は「事業に将来性がない(27.9%)」だった。しかし、第3位から第5位までは、

・子どもに継ぐ意思がない(12.8%)
・子どもがいない(9.2%)
・適当な後継者が見つからない(6.6%)

で、合計で約3割もいる。

好業績にもかかわらず廃業

廃業を予定している企業の中には、好業績でありながら廃業する企業が多いことも、大きな課題となっている。アンケート調査では、廃業を予定している中小企業の約3割が、「同業他社より良い業績を上げている」と答えている。また、今後10年間の事業の可能性についても、約4割の企業が「少なくとも現状維持は可能」としている。

好業績の企業が事業承継を選択せず廃業した場合は、その企業の技術やノウハウなどは、失われる可能性が高い。

事業承継は進んでいない

中小企業経営者の大量引退期が到来し、廃業を予定している企業が多くあり、その中には好業績の企業も少なからずあるにも関わらず、過半の企業で事業承継が進んでいないことも大きな課題となっている。

アンケート調査では、70代、80代の経営者の半数以上が「準備は終わっていない」と回答している。準備が滞っている項目の第1位は、「後継者を探すこと」だ。

出典:中小企業庁『事業承継に関する現状と課題について』

事業承継で経営者が検討すべき3つの課題

事業承継
(画像=PIXTA)

次に、事業承継について経営者が検討すべき課題を見てみよう。

後継者についての課題

中小企業庁の資料からわかるように、事業承継では後継者を見つけることが最大の課題と言えるだろう。

経営者の多くは、子どもや孫などの親族を後継者にしたいと思っている。東京商工リサーチが作成した報告書『平成28年度中小企業・小規模事業者の事業承継に関する調査』では、「後継者として子どもや孫を検討」している経営者は6割以上に上った。
参照:東京商工リサーチ『平成28年度中小企業・小規模事業者の事業承継に関する調査』

親族を後継者とすることは、慣例上妥当である。したがって従業員や金融機関、取引先などからの理解も得やすい。しかし、それがなかなか決まらないのは、以下のような理由があると考えられる。

・後継者候補自身が難色を示す
後継者が決まらない理由の第一は、後継者候補自身が難色を示すことだ。近年では、子どもであっても、事業を承継したがらないケースが増えている。

その理由としては、

・「仕事を選ぶのは個人の自由」という考え方が社会に浸透している
・家業に魅力を感じていない
・本人がすでに別の仕事をしていて事業を承継することに興味がない
・自分が経営者になるより組織の一員として働くことを好んでいる

などがあるだろう。

・後継者候補に経営者としての資質がない
後継者候補に経営者としての資質がないことも、後継者が決まらない理由の1つだ。後継者候補がすでに自分の会社に勤務している場合でも、経営の資質がない後継者に事業を承継してしまえば、後継者にとっても会社にとっても不幸だろう。経営者の息子であっても、経営の資質がないケースは珍しくない。また、仕事ができるからといって、必ずしも経営に向いているとは限らない。

・知識や環境整備が不足している
後継者候補の経営者としての知識、あるいは事業承継の環境整備が不足していることも、後継者が決まらない理由となる。事業を承継するためには、後継者を経営者として育成しなければならない。また、後継者が滞りなく事業を進めていくためには、権限の委譲や、金融機関や取引先・従業員との関係構築、株式をはじめとする財産の移転などの環境整備が必要になる。

一般的に、これらには5~10年かかる。経営者が日々の経営に追われていると、事業承継のための準備になかなか手がつけられないケースがある。

・親族内で意見が対立する
親族内で意見が対立することも、後継者が決まらない理由として挙げられる。たとえば、息子に事業を継がせる場合、経営者である父親と母親で意見が対立することがある。父親が、経営者になることは息子にとって成長の良い機会になると思っても、母親は、経営者が苦労する姿を見ているため、息子に会社を継がせることを反対することがある。

息子が複数人いる場合も、どの息子に継がせるべきかで父親と母親との意見が対立することがある。たとえば、年齢的に後継者として妥当な長男は、コツコツと仕事をするのは得意だが人間関係を作るのは苦手、次男は誰とでもすぐ友だちになれる社交的な性格という場合、どちらを後継者にするかを決めるのは難しい。

・経営者本人に事業承継をしたくないという気持ちがある
後継者が決まらない理由として、経営者本人に事業承継をしたくないという気持ちがあることも挙げられる。経営者にとって創業した会社は、いわば「自分の城」だ。思い入れや愛着があるのは当然のことであり、心の底では「手放したくない」「まだまだやりたい」と思っている場合もある。そのような気持ちがあるために、無意識のうちに事業承継の準備を遅らせてしまうケースもある。

・従業員を後継者とするのは難しい
親族内に後継者として相応しい人材が見当たらない場合には、従業員を後継者とすることも選択肢の一つとなる。しかし、実際には従業員を後継者とすることが困難であることも、後継者が決まらない理由として挙げられる。

従業員を後継者とするのが難しい最大の理由は、経営者が持っている自社株を買い取れるだけの資金を従業員が準備することが困難だからだ。また、後継者は金融機関に対する経営者の個人保証も引き継がなければならない。巨額な債務を個人で保証することは、従業員本人にとっても、その配偶者にとっても大きなマイナス要素だ。

税負担についての課題

事業承継を行うにあたっての課題として、税負担の問題もある。事業承継では、経営者が所有する株式などの資産を、相続や贈与によって後継者に引き継ぐことになる。一般的に、相続や贈与を行うと税負担が発生する。

事業承継では「事業承継税制」が設けられているため、一般の相続税や贈与税より負担が軽い。特に、平成30年度に改正された事業承継税制の「特例措置」は、負担を大幅に軽減する内容となっている。

ただし、事業承継税制(特例措置)の適用を受けるためには、「事業承継計画書」を作成しなければならないなど手続き面での負担がある。また適用条件が比較的厳しいため、すべての中小企業が適用を受けられるわけではない。

個人保証についての課題

事業承継では、個人保証の課題もある。中小企業の経営者は、金融機関から事業資金の借り入れを行う際、会社の連帯保証人となることが多い。事業を承継し、経営者が引退すれば、後継者が経営者の個人保証を引き継ぐことになる。この個人保証が重荷になることが、事業承継が進まない大きな理由になっているのだ。

個人保証の課題を解決し、事業承継を進めるため、商工会議所と全国銀行協会は「経営者保証ガイドライン」およびその「特則」を策定した。このガイドラインは、会社の経営状態などが一定の条件を満たす場合、経営者の個人保証を解除することを求めたものだ。強制力はないものの、事業承継における個人保証の解除は、以前より容易になっている。

ただし経営者保証ガイドラインは、経営者にまだあまり知られていない。事業承継を行うにあたっては、よく研究した上で利用を検討すべきだろう。

事業承継を行う際は課題を十分に検討しよう

事業承継における最大の課題は、後継者だ。また、税負担や個人保証の問題もある。事業承継ができなければ、いくら好業績であっても、廃業しなければならなくなる。廃業すれば、従業員が仕事を失うだけでなく、培ってきた技術やノウハウなども失われる。

事業承継を円滑に行うためには、一定の期間が必要だ。課題を十分に検討し、しっかりと準備をしていこう。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部