「企業価値を高める」という言葉をよく聞くが、「企業価値」とは具体的に何を意味するのだろうか。企業価値とは、計算方法が定義された数値として表されるものである。企業価値を高めることにより、M&Aや融資で有利になったり、倒産リスクを抑えられたりするなどのメリットがある。この記事では、企業価値の意味や算定方法、それを高める方法を見ていこう。

企業価値とは簡単にいえば何?

企業価値
(画像=Constantin Stanciu/Shutterstock.com)

M&Aやリストラなど、さまざまな経営戦略を実行する際は、「その企業はどのくらいの価値があるか」が重要な判断材料になる。会社を買収するためには、会社に値段をつけなければならない。株価を設定する際も、会社の価値にふさわしい価格にしなければ問題が発生する。企業価値は、そのために算出されるのだ。

企業価値は、簡単にいうと貸借対照表の貸方および借方といえる。企業の外部から見た場合は、貸借対照表の貸方である株式価値と負債価値を合わせたものだ。

企業価値(外部)= 株式価値 +負債価値

企業の内部から見た場合は、貸借対照表の借方である事業価値と非事業価値を合わせたものになる。

企業価値(内部)= 事業価値 + 非事業価値

ただし、企業価値を貸借対照表だけで判断すると、

・資産や負債が時価評価されていない
・マーケットの評価が反映されていない
・将来のキャッシュフローが反映されていない

などの問題が生じる。事業の内容や実態によっては、公正性に欠けるおそれがある。そのため、企業価値の算定法には、

・コストアプローチ
・マーケットアプローチ
・インカムアプローチ

など複数のものがあり、これらを複合的に検討することによって公正性を保つことができるようになっている。

企業価値を高めることで、M&Aや融資などにおいて交渉優位性が高くなり、倒産のリスクが低下する。企業価値の向上は、中小企業にとっても重要な経営戦略の1つといえるだろう。

企業価値と時価総額、EVとの違い

企業価値と似た概念に、「時価総額」と「EV(Enterprise Value)」がある。これらが企業価値とどう違うのかを見てみよう。

企業価値と時価総額との違い

「時価総額」は、「企業の価値」を示す言葉として使用されることが多い。しかし、「企業価値」と「時価総額」は異なる。

時価総額は、株価の総額、すなわち「株式価値」だ。それに対して企業価値は、株式価値に負債価値を加えたものである。したがって、自己資本比率100%の企業では、企業価値と時価総額は同じになる。

企業価値とEV(Enterprise Value)の違い

「EV(Enterprise Value)」は、直訳すると「企業価値」だ。しかし、実際は企業価値とは異なる概念である。

前述のとおり、企業価値は

企業価値 = 株式価値 +負債価値

で算出される。それに対してEVは、株式価値と負債価値を加え、そこから「現金および現金同等物」を差し引いて算出される。

EV = 株式価値 + 負債価値 - 現金および現金同等物

すなわちEVは、「企業を購入する際に必要な正味の価額」を表しているのだ。

企業を購入するためには、株式の100%購入し負債を100%返済する。ここまでは、企業価値と同じである。

しかし、企業が保有する現金および現金同等物については、株式の購入あるいは負債の返済に充てることができる。したがって、企業を購入する際の負担はその分軽減されることになるが、軽減された分の価額が「EV」である。

企業価値の算定方法

「企業価値」を簡単に解説!時価総額との違いや算定方法は?
(画像=PIXTA)

企業価値の算定方法を詳しく見ていこう。企業価値の算定方法には、大きく分けて、

1. コストアプローチ
2. マーケットアプローチ
3. インカムアプローチ

がある。

1. コストアプローチ

コストアプローチは、「純資産」を「株式価値」とする方法だ。ちなみに純資産は、

純資産 = 株式価値 = 資産 - 負債

と表すことができる。

コストアプローチの具体的な算定方法には、

・簿価純資産価額法
・時価純資産価額法
・知的財産やのれん代を加味した方法

がある。

・簿価純資産価額法

簿価純資産価額法は、貸借対照法に記載された純資産を、そのまま株式価値とする算定法だ。したがって企業価値は、

企業価値 = 株式価値 + 負債価値 = 純資産 + 負債価値

と計算できる。

簿価純資産価額法は、貸借対照表の数値をそのまま利用するため、計算が容易なことと客観性に優れていることがメリットだ。一方、貸借対照表の資産と負債が時価と乖離していることがしばしばあるため、実態を正しく表すとは限らないことがデメリットである。

・時価純資産価額法

時価純資産価額法は、貸借対照表の資産と負債を時価で評価し直して、そこから純資産を算定するものである。したがって純資産は、

純資産(時価) = 資産(時価)- 負債(時価)

で計算され、企業価値は、

企業価値 = 株式価値 + 負債価値 = 純資産(時価)+ 負債価値(時価)

で計算される。簿価純資産価額法と比較して、より実態に即した企業価値を算定することができる。

・知的財産やのれん代を加味した方法

貸借対照表から企業価値を求めるコストアプローチは、計算方法が分かりやすく簡便であることがメリットだ。しかし、知的財産やのれんなど、貸借対照表に表れない無形固定資産がある場合は、実態を反映しない。そこで、無形固定資産を企業が保有していると認められる場合は、コストアプローチで算定された企業価値に無形固定資産の価額を加えたものを、企業価値とするケースもある。

2. マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、非上場企業の株式価値を、類似した企業との比較によって求めるものだ。複数の類似した上場企業を選び、利益などの財務指標について倍率の平均を計算する。この倍率を純資産に掛けた数値を、株式価値とする。代表的な計算方法としては、市場株価法と類似会社非核法などがある。

・市場株価法
市場株価法とは、上場企業の市場価値=株式取引の相場価格を基準として評価する方法である。マーケットアプローチにおける典型的な手法であり、市場相場のある上場企業同士の合併比率などの算定に用いられることが多い。

例えば、2つの上場企業が合併を行う場合、その合併比率は特定事件における証券取引所の取引株価を比較して決定するのが通例だ。具体的な株価の値は、評価基準日の前日の終値、もしくは一定の期間における終値の平均値などが基準とされる。期間中に株価が乱高下したときは、出来高で加重平均する方法が採用されることもある。

・類似会社比較法
類似会社比較法とは、業種や規模、収益、キャッシュフローなどの状況が類似している上場会社を複数取り上げ、それら企業の株価を基準として評価対象企業の価値を測るという評価法である。M&Aなどを行う上で企業価値を測定する際に用いられる手法だ。例えば未上場企業の評価を行う場合、その企業の株価などから価値を把握することはできない。その際、比較的に通った上場済みの企業の株価を見て、対象企業の評価を行う方法は有効となる。「マルチプル法」とも呼ばれている。

マーケットアプローチは、株式市場やM&A市場における価額を基準として算定するため、客観的であることがメリットである。一方で、非上場の中小企業と類似した規模やビジネスモデルの上場企業を探し出すのが難しいことがデメリットといえる。

3. インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来生み出されると予測される収益やキャッシュフローをもとにして企業価値を算定するものである。大きく分けて「DCF(Discount Cash Flow)法」、収益還元法、配当還元法などの評価方法がある。

・DCF法
DCF法においては、まず将来における「フリーキャッシュフロー」を求める。フリーキャッシュフローとは、キャッシュフローから事業を維持するために必要なキャッシュフローを差し引いたものだ。

このフリーキャッシュフローから、所定の割引をしたものを企業価値とする。この場合の企業価値とは、「株主と債権者に対して分配することができるキャッシュフロー」という意味だ。

・収益還元法

収益還元法とは、その企業が将来的に生み出すと予測される収益を現在価値に直して企業価値を評価する方法である。DCF法ではフリーキャッシュフローの現在割引価値を基準として企業価値を算出していたが、収益還元法では予想収益の総和を踏まえて企業価値の評価を行う。

なお、収益還元法にて企業価値を評価する場合、平均収益の変動が少ないほうがより適切な評価を行える。そのため、収益の変動が大きいベンチャー企業などの場合、この手法で企業価値を算定するのは望ましくないこともあるため注意が必要だ。

・配当還元法
配当還元法は株主に対する現金支払いである配当金を基準として、企業価値を算出する方法である。株主に対する配当金の期待値を割り引くことで、企業価値が計算される。

ただし、配当金に回せるほどの利益を出せていないなどの企業では、正確な価値計算が難しい場合もある。また、配当額が低位安定しているという企業の場合、配当金を基準にするという配当還元法の性格上、どうしても過小評価になる傾向もある。そのため、継続的に収益を上げている企業、収益が適切に配当政策に反映されている企業の価値を測る場合に、配当還元法は適切な手法であるといえる。

インカムアプローチを企業価値の算定に用いるメリットは、成長性を反映させることができることだ。特に将来のシナジー効果を盛り込めるため、M&Aにおいて多く用いられている。

デメリットは、インカムアプローチで算定された企業価値は、あくまでも「予測」でしかないことである。事業計画に基づくため、恣意性や主観を排除することが難しい。そのため、予測どおりに事業が成長しない可能性もある。

企業価値を高めるメリット

「企業価値」を簡単に解説!時価総額との違いや算定方法は?
(画像=PIXTA)

企業価値を高めることのメリットは、以下のとおりだ。

・M&Aで有利になる
・融資を受けやすくなる
・倒産リスクが低下する
・株価が上昇する
・取引先からの信頼性が向上する

M&Aで有利になる

企業価値を高めることの第一のメリットは、M&Aで有利になることである。企業価値が高まれば、会社を売却する際に、それだけ高い価額を提示して交渉に臨めるからだ。

融資を受けやすくなる

融資を受けやすくなることも、企業価値を高めるメリットだ。金融機関は、企業の将来性や成長性を評価した上で融資を行う。企業価値は、融資の可否やその金額を決める際の重要な判断材料になるのだ。

倒産リスクが低下する

企業価値を高めれば、倒産リスクも低下する。企業価値が高い企業は収益力が高い上に、金融機関からの融資を受けやすいからだ。

株価が上昇する

上場企業であれば、自社の企業価値を高めることはさらに株価を高めることにつながる。企業価値が高いことは優良企業であることを示すことになるため、投資家に投資したいと思わせることができる。そうなれば当該企業の株式を買おうとする投資家が増え、必然的に株価もアップするだろう。

企業価値の高い優良企業であれば収益も大きく、配当政策も適切に行っていることが多いため、株主配当もきちんと行われていると期待できる。その点もさらなる株価の買いにつながり、株価上昇を引き起こす引き金となる。ただし、株価上昇は上場企業のみが享受できるメリットであり、未上場の中小企業・ベンチャー企業にはあまり関係がない。

取引先からの信頼性が高まる

企業価値はその算出方法からも分かるとおり、純資産額や将来的なキャッシュフロー、収益のあり方を反映して評価される。それゆえ、企業価値が高いことは、それだけ財務状況が安定していることを示しているともいえる。

そのような企業であれば事業の失敗・倒産といった事態は起こりにくいと考えられるので、取引相手は売上債権を問題なく回収できると考えることができる。取引先に「安心してお付き合いができる」と思ってもらえれば長期的に安定した商取引・契約を継続しやすく、財務上の健全性をより強固にすることも可能となる。

企業価値を高める4つのポイント

「企業価値」を簡単に解説!時価総額との違いや算定方法は?
(画像=THE OWNER編集部)

では、企業価値を高めるためには、どうすればいいのだろうか。

1. 収益力を高める

企業価値を高めるためにまず重要なのは、収益力を向上させることだ。そのためには、経営戦略をしっかり検証し、営業力を高める必要がある。また、アウトソーシングや生産管理などによってコストを圧縮することも、収益力を高めることにつながる。

2. 投資効率を高める

投資効率を高めることも、企業価値の向上には有効だ。必要のない資産を保有していなければ、企業価値が高まるからだ。具体的には、在庫や遊休資産を見直すことが必要になるだろう。

3. 財務を改善する

企業価値を高めるためには、財務の改善もポイントになる。企業価値は、株式価値と負債価値を足し合わせたものなので、負債を減らせば企業価値は高まることになる。

4. エンゲージメントを高める

ここでいうエンゲージメントとは従業員と企業のつながりの強さを意味し、従業員が企業理念を理解し、企業に対して信頼感や貢献意欲を持っている状況を指す。エンゲージメントが高い企業ほど優秀な人材が流出しにくく、それだけ収益性、生産性を高める環境が整っていることを意味する。

例えば近年、人材の離職を防ぎ、より長く継続して就労し続けてもらうために社内通貨制度を導入している企業が増えている。社内通貨制度とは、企業が自社の従業員を対象に発行する社内限定の通貨のことで、使用することで企業側が用意した商品・サービス、特典の利用が可能となる。社内通貨を従業員に渡すことでエンゲージメントを高め、企業に貢献してくれる優秀な人材の確保につながる。そのことが企業の収益性・生産性アップ、さらには企業価値の向上にもつながるわけだ。

しっかりと経営を行い、企業価値を高めよう

企業価値の算定方法は複数あり、事業の実態や内容に応じて適切な方法が選ばれることになる。企業価値を高めるためには、収益や投資効率の向上、財務の改善などが有効だ。

企業価値を高めることには、M&Aや融資で有利になる、倒産リスクが低下するなど、大きなメリットがある。しっかりと経営を行って、企業価値を高めていこう。

(提供:THE OWNER