話す技術よりも重要な「聞く」技術

聞く技術,山口真由
(画像=THE21オンライン)

財務官僚から弁護士へ、そして現在は数々の報道・情報番組でコメンテーターを務め、講演会でも活躍している山口真由氏。的確に要点をまとめ、平易な形で聴き手に届ける語り口には定評がある。そんな山口氏のアウトプットのエッセンスを凝縮した『思い通りに伝わるアウトプット術』が発刊された。ここでは、そんな山口氏が「話すよりもむしろ大事」だという「聞く技術」を聞いた。

内容よりも言葉選びが致命傷になることも!

報道番組におけるコメンテーターの仕事、大人数を前にして語る講演、会議での発言──多様な場面で「伝える」ことに携わる山口真由氏。その語り口はシンプルで無駄がなく、それでいて親しみやすい。その「端的に言葉を響かせる」コツとは。

「最大の秘訣は、話すことを事前に決めることだと思います。定まらないまま話し出すと、着地点がわからなくなって無駄に言葉を重ねてしまいます。ですから私は毎回、出演する番組の構成案が届いたら、『ここは言いたい』というポイントを押さえておきます」

その際は全体のバランスを見ることが大事、とも。

「『端的に』とは言っても、言いたい部分に関してはある程度時間をかけることが必要です。そこで、その部分以外の、例えば専門外の領域に関してはある程度コンパクトにまとめ、そのぶん言いたいことに使う時間の配分を厚く取ります。これならばくどい印象にはなりませんし、毎回同じ方法で話すことで、こちらの得意分野が周囲に伝わりやすくもなります」

もう一点、気をつけているのは「言葉選び」だ。

「まず、ネガティブなニュアンスの言葉は使わないこと。以前、財務省の先輩が講演で高齢者対策を語った際、『高齢者の方は』ではなく『老人は』と連呼し、聴衆との間に明らかに溝を作っていました。内容自体が素晴らしかっただけに残念です。また、高齢の方に対しては、カタカナ言葉が壁になることも。『アンビバレントな感情』と言いたいときは、『怒りと安堵、矛盾する二つの気持ち』などと、言い換えることも大切です」

人名や地名などの固有名詞にも気を遣う必要がある。事前に調べて読み方をメモしておくことも。

「特に団体名や人名は、間違うと失礼にあたります。『関西(かんせい)学院大学』を『かんさいがくいん』と発音した日本大学の内田前監督が猛烈な非難を浴びたのは、記憶に新しいところですね」

思い入れのあるテーマほど抑えめに

一方、せっかくの用意を無にする落とし穴が「メンタル」。いざ人前に出ると、緊張で内容が飛んでしまうことはままある。

「緊張でうわずった声を自分の耳で聞いて『私、あがってる!』とますます頭が真っ白に……となるのは困りものです。高い声や早口の口調は、内容も軽く響きがちです。そこで私が気をつけているのが『入り際』。出だしだけ意識して『1拍空けてから話し出す・できるだけ声を低くする・ゆっくりと話す』ことを心がけています」

会議や講演など、聞き手の顔が見える場で有効な対策もある。

「好意的な姿勢で聞いてくださる人を見て話すことです。本来は全員を均等に見るべきですが、苦虫をかみつぶしたような顔の人を見てしまうと『折れる』ので危険(笑)。興味深げな表情・態度の人を見たほうが、平常心を保てます」

また、意外なところで足を引っ張るのが「思い入れ」。

「自分の関心事や、私的経験の絡んでいることは熱く語りたいものですが、周囲との間に温度差がありすぎると話がかみ合わず、伝わりづらくなります。ここは感情的になりすぎないよう抑制が必要。特に、『怒り』を露わにするのは危険です。あえて憤りをこらえて理性的に語っている、という様子のほうが、はるかに聞き手の心に響きます」

このように、伝えるという行為には感情が大きく影響する。自分のみならず、相手の感情を斟酌することも欠かせない。

「法律上の交渉では特に重要なポイントです。論理的な説得はもちろん不可欠ですが、相手が『一方的に言いくるめようとしている』と感じてしまうと、まとまるものもまとまりません。相手の状況や背景に留意して、どのポイントで心を動かせば合意点に結びつくかを考えます」