(本記事は、加藤俊徳氏の著書「脳が若返る最高の睡眠 寝不足は認知症の最大リスク」小学館の中から一部を抜粋・編集しています)

日本人,キャリアウーマン
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日本の女性の睡眠時間は世界一短い

経済協力開発機構(OECD)の2018年の調査では、「不眠大国」である韓国を抜いて日本が世界で最も睡眠時間が少ないことが指摘されました。ちなみに日本の女性が1番、2番目に睡眠時間が短いのは日本の男性でした。よって、日本人の睡眠時間が世界一短いのも当然です。

下図1にあるように「平成29年 国民健康・栄養調査結果の概要」(厚生労働省)の報告では、日本の女性の睡眠時間は劣悪です。この20歳以上の睡眠時間の概要から最も寝不足に陥っている40〜49歳の男女の統計を抜粋しました。子どもが小学校高学年になる頃の40〜49歳の女性の52.4%が6時間未満の睡眠であることが分かります。同じ睡眠時間の男性は48.5%ですから、更年期に差し掛かる時期の女性に劣悪な寝不足が続いていることが分かります。

脳が若返る最高の睡眠: 寝不足は認知症の最大リスク
(画像=脳が若返る最高の睡眠: 寝不足は認知症の最大リスク)
図1

例として、3歳の子どもを持つ40代の母親の生活パターンを述べます。

朝6時に起きて、洗濯をして、朝食を作って、自転車の後ろに子どもを乗せて保育園に送り届ける。それから出社して、仕事。子どものお迎えは、18時から19時。その後、買い物、料理、食事、入浴、食事の後片付けと、家事が続き、子どもを寝かし付けて、明日の準備をすると、就寝は24時。この生活で、睡眠時間は6時間です。

「小さな子どもを育てながら働いている母親の睡眠時間は、6時間以内になってしまう」ということが、多くの母親の生活パターンです。

そして、子どもが小学校に入ると、習い事に付き合うことでさらに忙しくなります。スイミング、サッカー、ピアノなど。そして学習塾への子どもの送り迎えでへとへとです。

さらに、母親の寝不足は、子どもが中学生・高校生になるまで続きます。中高生の子どものために、昼のお弁当を作る必要があります。

しかも中高生の在校時間は小学校時代より長いことが多いのはご存じの通りです。運動部の部活動に入り、朝練などがある場合、母親は、その分朝早く起きて、準備をしなければなりません。子どもが高学年になり、受験勉強などが重なれば、子どもたちは夜遅くまで勉強するうえに、母親は精神的にも気を遣うことで、自身の快眠を阻害する要因にもなり得ます。

女性の寿命の長さには質の良い睡眠が関係している

このように、日本の女性が世界一の寝不足状態である一方で、厚生労働省が2018年に発表した「平成29年簡易生命表」によれば、平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.26歳と女性のほうが約6年長く、過去最高を記録しています。健康寿命も2016年のデータで男性72.14歳、女性74.79歳とこれもやはり女性のほうが約22年以上長いのです。

私は、女性の睡眠の質のよさが、女性の長寿の理由ではないか、と考えています。

簡単に言うと、夜中に目が覚めることなく、深い眠りにつける。すなわち、女性は睡眠時間が短くとも効果的に睡眠をとることができるということです。

ではなぜ、女性の睡眠は男性の睡眠より優れているのでしょうか?

女性は出産・育児・生理周期などがあり、男性に比べて、一生を通じて女性ホルモンが激しく変動します。その変動により、睡眠が大きく影響されます。

まず、女性の生理は、平均で約12歳から始まり50歳ぐらいまで毎月続きます。生理後の2週間は女性ホルモンの「エストロゲン」の効果でぐっすり眠りやすく、排卵期には、もう1つの女性ホルモンの「プロゲステロン」のパワーで、昼間も眠い時があります。この2つの女性ホルモンは、妊娠の準備をするために働いているのですが、同時に、睡眠の質を高める効果を持っているのです。一方、男性ホルモンの「アンドロゲン」は、レム睡眠には効果的に作用しますが、女性ホルモンほどの睡眠パワーは期待できません。

さらに女性には、妊娠と子育てがあります。妊娠が進むにつれて、おなかの中の子を育てるために、2つの女性ホルモンが分泌されます。それまで、生理周期によって交代で分泌されていた女性ホルモンが同時に出ることになり、そのパワーで、妊娠中の女性はよく眠れるのです。

出産後と閉経が女性の睡眠を一時的に乱す

女性は胎児がおなかにいる時はよく眠れていても、出産後は状況が一変します。胎盤が娩出(ベんしゅつ)され、女性ホルモンの分泌が激減します。さらに授乳が始まり、母親は寝不足に陥りやすくなります。こうして、「産後うつ」を発症しやすくなります。産後うつは、日本女性心身医学会の調査によれば10〜15%の女性が出産後に罹患しているとのことです。

出産時期を過ぎ、次の大きな変化は閉経です。これまで、女性を眠らせていた2つの女性ホルモンの分泌が下がりはじめます。このために起きるのが、更年期障害です。ほてりや頭痛・便秘・めまい・肩こりなどとともに、不眠の症状を訴える人が多くなります。これまで女性を眠らせていた強力なパワーがなくなるのですから、寝不足の人が多くなるのは、当然のこととも言えます。

女性の睡眠は、加齢に伴う女性ホルモンの変化によって、大きく左右されます。

産後期間と閉経期は特に、エストロゲンの欠乏により、うつ病のリスクが高くなると言われています。

女性よりも男性は軽度認知障害(MCI)になりやすい

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女性の睡眠が男性の睡眠よりも優れている理由に戻りましょう。前節でお話ししたように、更年期(平均で約50歳)までは、女性ホルモンのパワーで女性は男性よりも睡眠の質が高くなり有利です。

さらに、それ以降も女性の睡眠の方が男性より優れていると言われているのですが、その理由は、いったい何なのでしょう? 更年期を境に、女性ホルモンの分泌が低下しても、それを補うものは何なのでしょうか?

その前に、男女の脳の衰え方の違いについて、見ていきましょう。

軽度認知障害(MCI)は、アルツハイマー型認知症の前段階としても起こり、記憶しているはずのことを忘れたり、計算が低下するなど明らかな認知能力の低下がある状態です。この障害になる確率は、男性のほうが女性よりも高いことが分かっています。男性は、軽度認知障害から認知症に進行する一方で、女性は、健常な認知状態から急激に認知症に進行するのではないかと考えられています。

米国メイヨークリニックのピーターセンらは、軽度認知障害の有病率を調べた結果、認知症のない70〜89歳の高齢者のうち約16%がMCIに罹患していたとしています。また、下図2が示すように、各年齢別に見てみると、男性では、年齢とともに軽度認知障害が増加し、男性の有病率は、女性に対してオッズ比1.52と高い数字を示していました。オッズ比とは2つの群を比較して、ある事象の起こりやすさを示す統計学の尺度で1.0より高い数字ではより起こりやすいことを示します。

脳が若返る最高の睡眠: 寝不足は認知症の最大リスク
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図2

そして、有病率は、結婚したことがない被験者で高くなっていました。85〜89歳では女性のMCIは有病率が約20%に対して、男性は約40%で約2倍になっています。さらに、下図3で示すようにMCIの有病率は男女ともに教育年数の増加とともに減少していました。これは、しっかり教育を受けることが、その後の生涯においても脳を強く保てることを示唆しています。つまり、「孤独にならず人を愛し、よく学び続けることが、脳を若くする」ということです。教育歴が9年以下の男女では女性の有病率が約20%に対して、男性は約40%であることから教育歴の短さは女性よりも男性のMCIの発症に影響していることを示しています。

脳が若返る最高の睡眠: 寝不足は認知症の最大リスク
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図3

この研究報告から、男性は、女性よりももっと中年の段階から記憶力を強化して高齢での衰えを予防する必要があります。

女性が男性よりも軽度認知障害になりにくい理由は「外出」

男女の脳の強さが異なるのは、認知機能だけではありません。女性を眠らせている理由は、次の2つの日中の活動が、要因と私は考えています。

第1の要因は、「外出」です。「平成29年国民健康・栄養調査結果の概要」で発表された、要介護になるリスクが高い「低栄養傾向の者」の割合とそれらの外出の有無について調べた結果があります。低栄養傾向の者とはBMIが20kg/㎡以下のやせ過ぎの人のことで、要介護に加え、同時に認知症のリスクも大幅に高めます。したがって、この低栄養傾向の者の増減を調べることによって、認知症のリスクの高い人の増減が分かるのです。この調査で65歳以上の低栄養傾向の割合は16.4%になっています。そして、低栄養傾向の者の週に1回以上の外出の有無との関連を見てみると、下図4のように、女性は、65〜74歳でも75歳以上でも、外出ありの群となしの群の間で、低栄養になる率の差が小さく、65〜74歳と75歳以上の比較では、外出の有無によって低栄養になる率の変化が少なくなっています。

脳が若返る最高の睡眠: 寝不足は認知症の最大リスク
(画像=脳が若返る最高の睡眠: 寝不足は認知症の最大リスク)
図4

男性では、外出なしの群では30.8%、または26.1%と、外出しない群が低栄養に陥っていることが示されています。一方、外出あり群は10.3%、または13.0%と、外出なし群に比べて2分の1〜3分の1に低栄養の割合が減少しています。

特に、65〜74歳では、外出なしの男性の30.8%が低栄養であるのに対して、女性は15.8%とほぼ2分の1の低い数値を示しています。

統計的には78歳前後からアルツハイマー型認知症の罹患率が急激に高くなると言われています。また低栄養状態は認知症リスクが高く、その進行を早めるとも考えられており、発症10年前の外出率の低さは、女性よりも男性が軽度認知障害から認知症に移行していくことを加速している可能性があります。

また、外出は、視覚系を刺激するとともに、運動になります。さらに、友人に会って会話をしたり買い物をしたりすることで、脳の多くの部分を刺激します。そして、社会とのつながりを実感できます。家の中にいては、社会は見えませんし、その変化にも気づきません。そして、自然の変化にも気付きません。

発表された概要の報告では、64歳までは男女ともに外出なしはほとんとありませんでした。ところが、65歳になり定年を迎えると、外出の機会が大幅に減ります。定年で外出しなくなる生活は先述したように、女性よりも男性の方が増えています。男性は仕事への依存度が高く、退職することで周囲への感心も低下する傾向にあります。しかし、女性はそれまでの仕事からの切り替えがスムーズにいっていると考えられます。

さらに、多くの女性は周囲への関心が高く、外出先で多く会話をして刺激を脳が得られることで、脳を強化していると考えられます。

そもそも、赤ちゃんはよちよち歩きからしっかり歩行できるようになり、多くの情報を行動することで得ます。その結果、脳が成長していくわけです。ですから、外出しなくなることが脳の衰えを引き起こすことは容易に説明できます。

腸のことだけ考える』
加藤 俊徳
1961年、新潟県出身。医学博士。脳内科医。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。発達脳科学・MRI脳画像診断・認知症などの専門家。1991年に開発した脳活動計測「fNIRS法」は世界700カ国以上で脳研究に使用されている。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像法の研究に従事。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、1万人以上の診断、治療を行う。

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