(本記事は、加藤俊徳氏の著書「脳が若返る最高の睡眠 寝不足は認知症の最大リスク」小学館の中から一部を抜粋・編集しています)
健康脳になるための食事
①ポリフェノールと食物繊維とトリプトファン
睡眠障害を改善するために、近年、注目されているのは、果物と野菜の摂取です。
これまでに、果物と野菜摂取量の増加が、糖尿病、心臓病、脳卒中、および一部のがんを予防することが明らかになっています。また、うつ病のない人では、うつ病の人よりもマメ科植物・果物・野菜の摂取量が多く、お菓子の摂取量が少ないことをスペインのアルバータヒメネス高等教育センターのグレイスらは報告しています。
果物と野菜に含まれるポリフェノールが、腸と脳の調節系、概日リズムへよい影響を介して睡眠効果を上げると考えられています(ぶどう・りんごなど)。また、果物と野菜の摂取が睡眠に及ぼす影響は、メラトニンとセロトニンの含有量に関連すると考えられています(バナナ・そば・大豆など)。セロトニンは、腸で90%が作られ、腸の蠕動(ぜんどう)運動を引き起こしています。
また、食べ物によって腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)が著しく変化することや、腸と脳が密接につながっていることが、明らかになってきました。
腸内細菌は、脳の活動にとって、重要な仕事をいくつもしています。たとえば腸内のセロトニンの分泌を助け、脳内のセロトニンの前駆体(ぜんくたい)をつくります。そして、この腸内細菌の食料になっているのが、果物と野菜に含まれている食物繊維です。また、食物繊維は肺の機能を高め、便通など胃腸の健康に役立ち、メタボリックシンドロームのリスクを減らす効果も明らかになっています。
野菜は生で食べるだけでなく、煮たり焼いたりして摂取することも重要です。ごぼう・人参・サツマイモなどを煮物にして、たっぷり食べてください。
次の食物も腸内細菌を良好にします。
- 【ヨーグルト】 発酵乳・乳酸菌・ビフィズス菌
- 【発酵食品】 納豆・キムチ・漬け物・味噌(みそ)
- オリゴ糖
セロトニンは、必須アミノ酸のトリプトファンからつくられ、そのトリプトファンは、気分の改善や、双極性障害などに対する抗精神作用を持つことも報告されています。トリプトファンは体内ではつくれないアミノ酸なので、必ず食物からとることが必要です。
お勧めは赤身の魚や納豆などの豆類です。
- 【魚】 マグロ赤身・カツオ赤身・鮭
- 【肉】 豚肉・牛肉・鶏肉
- 【大豆製品】 納豆・豆腐・豆乳
- 【乳製品】 牛乳・チーズ・ヨーグルト
- 【その他】 玄米・そば・バナナ・ブラックチョコレート
②オメガ3脂肪酸
脳の中では、不飽和脂肪酸という、常温では固まらない油であるオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸が特に重要な役割をしています。この2つは、脳の神経細胞の「細胞膜」をつくっている重要な材料なのです。この2つが不足すると、細胞膜の活性が落ち、神経細胞同士のつながりができにくくなります。
オメガ3脂肪酸は、魚や植物に含まれる油で、オメガ6脂肪酸は、ゴマ油・コーン油などに含まれています。オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は、バランスよくとることが必要です。
この50年、日本では、オメガ3脂肪酸の摂取が減り、オメガ6脂肪酸の摂取が増えています。昔はアジやサンマやなどの青魚を、季節ごとにたくさん食べており、エイコサペンタエン酸(EPA)というオメガ3脂肪酸がたくさん摂取できていましたが、食事の欧米化により、魚や野菜の摂取が減っているのです。
オメガ3脂肪酸は、以下の食物に含まれています。
- 【魚】 アジ・サンマ・サバ・いわし・鮭
- アマニ油・エゴマ油(熱を加えないで摂取)
- クルミ・かぼちゃの種
③鉄分
人の体では、ミネラルという微量元素が働いています。ミネラルは、栄養の分解や合成・代謝において、酵素の活性を上げるなどの仕事をしています。中でも、睡眠に大きな影響を与えるのが、鉄分です。赤血球に含まれるヘモグロビンは、ヘム(鉄)とグロビンというタンパク質でできています。鉄分が不足すると、酸素を運べなくなり貧血になり、自ずと疲れやすく活動性が低下します。端的にいえば、顔色が蒼白になり、元気がなくなります。
鉄分欠乏は、認知機能が低下しやすく、世界保健機関(WHO)は、「鉄分を補給することは、認知症に対する最も費用対効果のよい治療法である」と推奨しています。貧血を起こしていない場合でも、血液中の血清鉄(けっせいてつ)やフェリチン値が低い場合があり、隠れ鉄欠乏の場合があります。この隠れ鉄欠乏でも、精神的に不安定になりやすいことが指摘されています。
実際に、鉄分が欠乏することで、呼吸が浅くなり、パニックを起こしやすくなります。また、鉄分は、赤血球の酸素輸送に重要な役割をするだけでなく、セロトニンとドーパミンをつくる酵素活性を上げる役割もしています。ですから、鉄分が不足すると、この2つの重要な脳内物質をつくれなくなります。
さらに、鉄分の不足によって、精神疾患を合併していなくとも睡眠の質が低下するという報告があります。足がむずむずして眠れないムズムズ脚症候群に罹患し、眠れないこともあります。
また、不調を訴える高齢者が、鉄剤の補充だけで元気になることもあります。よく医者の不養生と言いますが、数カ月前、我が両親の血液検査をしてみると2人とも立派な鉄欠乏性貧血でした。慌てて、2カ月ほど鉄剤を処方したところ、畑に出ても疲れなくなったり、歩行距離が伸びたりしました。両親の血液検査の数値をみてみると、1年足らずの内に鉄分不足が進行していたことが分かりました。また、高齢者は鉄分が欠乏しやすいのと同時に、ミネラル、ビタミン不足にもなりがちなので、ご注意ください。
女性は生理の出血のために、貧血に対する注意が必要ですが、ランナーにとっても気をつけたいことです。ランニングは、地面に着地する時のショックで、体重の2〜3倍の負荷が片膝にかかり、赤血球を傷つけやすいのです。ですから、体重の重い方、ランニングシューズのクッションが弱い方は、特に注意が必要です。
鉄分は鉄製のナベやヤカンを使用することでも摂取できますが、次の食物からもとれます。
- 【肉】 牛や豚の赤身肉・レバー
- 【魚】 マグロ・カツオの赤身
- 【貝類】 アサリ・シジミ・カキ
- 【野菜】 ほうれん草・小松菜・枝豆・そら豆
- 【その他】 豆乳・鶏卵・ごま
④補助食品
4つ目のポイントは、サプリメントの摂取です。これは、私自身、20歳の頃からいろいろと試しています。まず最初に試したのは、煮干しです。毎日、煮干しを丸かじりします。すると、1日の食事量や食事の内容が、それだけで変わってきます。その後、レシチン、カルシウム、クエン酸など、様々に試しました。このいろいろ試すことが大切で、食べ物の重要性を自覚し、体感力がついてきます。
近年、愛用しているサプリメントは、ホタテから高精度に精製された「プラズマローゲン」です。このサプリは青魚に多く含まれ健康に良いとされるドコサヘキサエン酸(DHA)、EPAも含んでいて、神経細胞の膜成分、特に、脳の白質の老化防止に役立つと予測しています。実際に、九州大学の認知症患者に対する研究でも成果を上げています。
栄養に関しては、全てを書ききれませんが、特に重要な栄養素は、①〜④にあげたものです。
そして最後に、不眠につながる、食生活上の3つの悪習慣について説明します。一部重複しますが、この3つが睡眠を妨げます。これは、2016年に米国・ペンシルベニア州立大の研究で報告されているものです。
- マーガリンのなどに含まれるトランス脂肪酸(アメリカでは禁止されています)の摂取
- 塩分のとりすぎ
- 野菜の摂取量が少ないこと
これらは、絶対に避けましょう。
⑤食事の時間
5つ目のポイントは、夕食を就寝の3時間前までに、特に20時までに済ませることです。入眠時に食物の消化が済んでいないと、消化器に食べ物が残ってしまいます。そして、これにより、脳は腸との連絡を密にとり続けなければならず、腸の休息だけでなく、脳の休息も夜遅くにずれこむことになるからです。
私は夜11時に寝て朝6時過ぎに起きる生活に変えてから、朝食の美味しさが全く変わりました。「朝食が、こんなに美味しく感じられるのか!」と驚いたほどでした。
また、朝食をしっかり摂ることも重要です。朝の光の働きと同様に、「腹時計」が起動して、体内時計を整えてくれます。毎日朝食を摂ることは、概日リズムを整えることなのです。
また、1日3食を同じ時間に摂ることも大事です。毎日同じ時間にすることで、ここでも、概日リズムが整います。最後に食事の量です。食事の量と時間は、睡眠の時間にも質にも影響します。食べすぎて肥満になると、前頭葉の働きが低下することも報告されています。