(本記事は、加藤俊徳氏の著書「脳が若返る最高の睡眠 寝不足は認知症の最大リスク」小学館の中から一部を抜粋・編集しています)

運動習慣は、脳内に多大な利益をもたらします。

「海馬」は、記憶や学習機能に関係し、感情のコントロールにも関係するエリアですが、この海馬は有酸素運動により活性化されます。また、快楽ホルモンといわれるドーパミンや睡眠に重要な役割を果たすセロトニンなどの脳内物質も運動すると分泌されます。人と動物の両方の研究において、ランニングマシンを利用した中強度の有酸素運動は、脳の大脳基底核(だいのうきていかく)や、海馬、線条体(せんじょうたい)、前頭前野(ぜんとうぜんや)などでのドーパミンの合成や受容体発現、神経伝達を増加させると報告されています。

また、老化やアルツハイマー型認知症の改善に関しても、好影響の報告があります。これはマウスでの研究ですが、運動が、脳のグリンパティックシステムを活性化して、Aβの脳組織への沈着量を減少させることが明らかになっています。また、自発運動が、アルツハイマー型認知症のマウスの脳萎縮を遅らせ、空間記憶の課題のパフォーマンスを向上させることもわかってきました。

そして、有酸素運動が、神経栄養因子(BDNF=神経細胞に細胞の外から働く、水に溶けるタンパク質物質の総称)の増加や、海馬での神経細胞の増加を促すことが分かってきました。

加齢やアルツハイマー型認知症では、海馬は、痩せ細って萎縮いく一方で、運動をすると、栄養がいきわたり脳内物質の分泌も増加し、海馬の体積が増えることも報告されています。

また、運動による体の疲労は、ホメオスタシスの面からも、睡眠に効果をもたらします。ホメオスタシスは、前にも触れましたが、日中の脳の活動量に対して、夜間人の脳を眠らせる重要な要素です。寝不足や疲労があると、それを回復するためにホメオスタシスが働きます。体の疲労度が高いほど、よく眠れます。

いい仕事をする人は毎日、適度な運動をする

運動によって脳の活動量を増やして、生活の質を上げる効果については、多くの実例があります。

iPS細胞の開発でノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学の山中伸弥(やまなかしんや)教授は、その1人です。山中教授は、現在もiPS細胞による複数の治療研究に邁まい進しんしていますが、同時に、2019年3月に開かれた東京マラソンに出場し、3時間30分を切る記録で完走しました。世界的な研究生活とランニング生活を両立させています。

そしてもう1人、ランニングを、その創造的な制作活動に生かしている日本人がいます。村上春樹氏です。

村上春樹氏は、『ノルウェイの森』などの文学作品で現在の日本を代表する作家です。

村上氏は、毎日ランニングか水泳を、1〜2時間して、夜10時に寝て、朝5時に起きる生活をしているそうです。

彼は、朝の時間を執筆にあてています。夜明け前の早朝に起き、軽い朝食をはさんで、昼近くまで執筆に没頭し、午後にはランニングか水泳を、時には両方をしています。この早寝早起きとランニングの生活を25年以上続けているようです。

彼は小説を執筆するうえで、「体力が芸術的感性と同じくらい必要です」と語っていますが、「早寝早起き」と「7時間以上の睡眠時間」の効果も大きいと思われます。

日本の最良の知性とも言える2人が、ランナーであることに、あらためて驚きます。

運動系脳番地は、頭のてっぺんにあります。この運動系脳番地は脳全体の発達・成長に大きな影響を与えることが分かっています。

ランニングや運動を日常生活に取り入れている人は、この運動系脳番地の活性化により、脳全体の活性化を実現しているのです。

さらに、ランニングやウォーキングは、リズム運動なので、脳内のセロトニンを増やしている可能性があります。セロトニンは、落ち着いた覚醒をもたらす重要な物質です。そして、日が沈むとセロトニンから、抑制物質であるメラトニンがつくられるのです。

適切な睡眠が失われると昼間に眠気が起こり、口数が減り、判断力が低下し、持続的な注意力の維持が困難になります。しかも、24時間も起きていれば、アルコールを飲んだ時のように脳の活動は低下します。仕事ができる人たちの多くは早寝早起きを実践し、具体的には、夜9〜10時に寝て、朝5時〜7時に起きる生活をしています。多忙にもかかわらず7時間の睡眠は確保しています。

ビジネスの世界で成功者となるためには継続的に仕事のクオリティーを高く保つ必要があります。このために適切な睡眠時間を確保し続けることは必須の条件です。

一般的に夜の10時から午前2時までが睡眠のゴールデンタイムといわれ、この時間帯に深い眠りを得られれば翌朝快調な状態で目覚めるとされています。また、もっとも死亡率が低い睡眠時間は7時間で、短くなるほど死亡率は高くなっていきます。逆に9時間を超えるような長時間睡眠も健康的とはいえないデータが出ています。

人は、地球という星に生まれ、24時間で1回の自転をするという環境で、生活をしてきました。季節変動はありますが、約12時間ごとに昼と夜が同時間で繰り返されるという環境です。そして、人の性能をもっともよく発揮する方法として、昼の活動と夜の休息というリズム=「概日リズム」がつくられました。この概日リズムを守ると、睡眠の利益をしっかり受け取ることができるのです。

腸のことだけ考える』
加藤 俊徳
1961年、新潟県出身。医学博士。脳内科医。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。発達脳科学・MRI脳画像診断・認知症などの専門家。1991年に開発した脳活動計測「fNIRS法」は世界700カ国以上で脳研究に使用されている。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像法の研究に従事。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、1万人以上の診断、治療を行う。

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