その「うつ状態」は食事が原因かも!?

栄養型うつ,奥平智之
(画像=THE21オンライン)

「うつ状態」とひと口に言っても、その要因は様々だ。更年期障害によるものや、認知症によるものもある。中でも、近年、ビジネスパーソンのうつで注目されているのが「栄養型うつ」だ。いったい、どういうものなのか? 専門家の奥平智之医師に聞いた。

3割の人の症状が栄養指導により改善

疲れやすい、気分が晴れない、眠りが浅い……などのうつ状態は、精神疾患としてのうつ病ではなく、栄養の問題が原因かもしれません。その場合、食事療法などで栄養状態を改善すれば、うつ状態が治ることがあります。

うつ状態を引き起こす栄養素不足には鉄欠乏や亜鉛欠乏などがあり、栄養の問題に起因するうつ状態のことを「栄養型うつ」と呼んでいます。

「栄養状態を改善するだけでうつが治るのか?」と疑問に思われる方もいるかもしれません。

私の専門は精神科ですが、10年以上、実際に栄養医学の知見を取り入れた治療を行なっています。

例えば、産業医として勤務している企業では、栄養指導を取り入れる前は、受診者のうち面接だけで症状が改善した人は全体の2割だけでしたが、栄養指導を始めると、その割合が3割に増加しました。また、メンタルクリニックで投薬治療を受ける人も5割から3割に減少しました。つまり、全体の3割の人が、栄養医学的アプローチの恩恵を大きく受けたのです。

血液検査の数値が栄養状態の目安になる!

では、なぜ、栄養の問題でうつ状態になるのでしょうか。

要因は主に二つあります。

一つは、全身の細胞の中にあり、エネルギーを産生する工場の役割をしているミトコンドリアが、三大栄養素(脂質、タンパク質、糖質)に加えて、ビタミンB群、鉄、マグネシウムなどの栄養素を必要とすることです。これらの栄養素が不足すると、効率良くエネルギーを作れなくなり、うつ状態を引き起こすことがあります。

もう一つは、脳内ホルモンの生成にも栄養素が必要なことです。「幸せホルモン」のセロトニンややる気を起こすノルアドレナリン、「ときめきホルモン」のドーパミンなどの脳内ホルモンによって、心のバランスは保たれています。だから、栄養素が不足して脳内ホルモンがうまく作れないと、うつ状態の原因になるわけです。

代表的な栄養型うつには、「Bタンパク(ビタミンB群+タンパク質)欠乏うつ」「鉄欠乏うつ」「亜鉛欠乏うつ」「マグネシウム欠乏うつ」「ビタミンD欠乏うつ」の五つのタイプがあります。

圧倒的に多いのは「Bタンパク欠乏うつ」です。丼物やラーメンなど糖質が多い食事が中心になると、タンパク質が不足します。また、糖質の代謝にビタミンB1を使うので、ビタミンB1の必要量も増えます。

女性に多いのは「鉄欠乏うつ」です。生理のある女性の約9割は、鉄欠乏と考えていいでしょう。

上に挙げた五つ以外にも、コレステロール欠乏にも注意が必要です。コレステロールは、ビタミンDや、ストレスと戦う副腎皮質ホルモンであるコルチゾール、また、性ホルモンの材料になります。コレステロール値は低いほど健康だと思っている人も多いのですが、低すぎても不調の原因になるのです。

栄養状態は、実は健康診断の血液検査の結果が参考になります。「基準値内」だからといって、栄養状態に問題がないとは言えません。

例えば、一般的には肝機能の指標とされる「ALT」はビタミンB6、「γ-GTP」はタンパク質の指標として解釈でき、腎機能の指標とされる「BUN」はビタミンB群とタンパク質の指標と解釈できます。

私の栄養指導では、これらの数値が1桁なら赤信号、15未満なら黄色信号、20程度で青信号です。

栄養型うつ,奥平智之
(画像=THE21オンライン)

ストレスの多い現代人はタンパク質を多めに摂ろう

うつ状態にならないために食事で気をつけるポイントは、まず、「高タンパク低糖質」を意識することです。

そのためには、肉や魚、卵をしっかり食べること。肉や魚、卵には、ビタミンB群、亜鉛、鉄が豊富に含まれています。丼物、ラーメン、パスタなど、炭水化物の食事でお腹を一杯にせず、高タンパクの食事を優先するようにしてください。

次に、「抗炎症・抗酸化食材」。酸化とは、ストレスによって活性酸素が発生し、細胞が錆びることです。その状態が続くと、炎症が起きます。ストレスや炎症があると、タンパク質やビタミンB群、亜鉛、マグネシウムなどの栄養素の需要が増すため、栄養不足に陥りやすくなります。それを防ぐ手段として、抗酸化のためにはビタミンCを、抗炎症のためには魚油に含まれるEPAなどのオメガ3脂肪酸を摂取するといいでしょう。

ビジネスパーソンの場合、3食しっかり食べていても、栄養素が不足しがちです。なぜなら、前述の通り、ストレスがかかると栄養素の必要量が増すからです。不調を改善したいなら、まずは、国が定める摂取量よりも多めに摂ってみましょう。食事でまかなえないぶんは、サプリメントを活用しましょう。

《取材・構成:前田はるみ》
《『THE21』2020年2月号より》

奥平智之(おくだいら・ともゆき) 日本栄養精神医学研究会会長/医療法人山口病院副院長
精神科医。漢方医。認知症専門医。企業の産業医。日本大学医学部卒業後、同大学医学部精神神経科、東洋医学科に入局。都立広尾病院の神経科を経て、埼玉県川越市にある山口病院に勤務。2016年に日本栄養精神医学研究会を創設。『血液栄養解析を活用! うつぬけ食事術』(KKベストセラーズ)など、著書多数。(『THE21オンライン』2020年02月28日 公開)

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