深刻な少子高齢社会が進む中で、人口減少も問題になっている。人口の減少は国内での消費の減少に直結し、働き手不足の問題も引き起こす。
このような状況を打破するために、現地法人を設立し海外進出を図ることも、企業にとっては現実的な選択肢の一つだ。確かに海外展開には、競合が少ないブルーオーシャンで販路を拡大できる可能性がある。また、国によっては税率が低いなどのメリットがある。
しかし現地法人設立には、注意しなければならないデメリットも存在する。思わぬ落とし穴を避けるためにも、海外進出を検討する際はその目的を明確にし、展開方法を事前に検討しておくことが大切だ。今回は、海外に現地法人を設ける目的と、その際の注意点について解説する。
現地法人とは?
まずは、現地法人の基本を押さえておこう。現地法人とは、日本にある本社とは別に海外に設立した子会社のことだ。現地法人は独立した会社なので資本金があり、当事者となって海外で商業活動を行うことができる。
つまり、現地法人は日本の本社とは独立した営利活動を行うことができるため、銀行からの資金調達や人材の確保もスムーズになる。現地法人は、本社の基本的な機能をすべて備えたミニチュア版と考えていいだろう。
海外進出では、本社の社員を駐在員として派遣したり、支店を現地に置いたりすることもあるが、現地法人は本社とは独立した一企業として営利活動を行えることが最大のメリットであり、他の選択肢との相違点である。
現地法人を設立するのはなぜか?
現地法人がどのようなものか理解できたら、現地法人の設立のタイミングを慎重に検討したい。
海外進出を検討する際は、現地法人を設立するだけのメリットが本当にあるかどうかを考えるべきである。営利活動が直接関係しない現地の情報収集、人材管理や本社との連絡業務のみであれば、駐在員の派遣で事足りるかもしれない。
後述するが、現地法人の設立には注意点もあるため、以下に挙げる現地法人設立の利点を踏まえて、これらの要素が現時点で本当に必要な段階にあるかどうかを確認する必要がある。
1.自由に営利活動を行うことができる
現地法人は日本の本社から独立した会社であるため、制約を受けることなく営利活動を行える。また、現地の法律の下で会社登記を行うため、さまざまな許認可なども受けやすくなる。その分登記などの手間がかかることや、設立に対する種々の制約があることを覚えておきたい。
2.法人税を軽減できる
現地法人は海外で独自に経済活動を行うため、原則として本社がある日本国内の税法に縛られることはない。現地の法人税率が日本よりも低ければ、法人税を軽減できることになる。現地での事業規模が拡大し売上・利益が伸びれば、その分メリットも大きくなる。
3.人材コストを削減できる
現地法人なら賃金体系を現地の法律の下で決められる、人材コストを抑えられる可能性が高い。これは、特に労働賃金が安いアジア圏で大きなメリットとなる。
現地に駐在員を派遣する場合は日本の給与体系で賃金を支払う必要があるが、現地法人の場合はその制約がないため、人材コストを削減することができるのだ。
この点でも、事業規模が拡大し現地の従業員数が増えた場合、現地法人設立のメリットが大きくなる。
現地法人設立の際の注意点
現地法人のほうが他の選択肢よりもメリットが大きいと判断できれば、設立に向けて準備を進めることになる。現地法人は設立後の動きはスムーズになるが、設立までのプロセスが他の選択肢よりも複雑だ。
また現地法人の設立には、さまざまな規制が関係してくる。ここでは現地法人の設立時、また設立後に影響する規制などの注意点を紹介する。
外資規制とは?
現地法人の設立にあたっては、現地の外資規制をまず調査する必要がある。外資規制とは、各国の国内市場を外国資本から守るために設けられている規制のことだ。現地法人の設立に際しては、出資比率が制限されることがある。また、現地法人設立後の土地取得にも規制がかかることもある。
外資規制は、国や業種によって内容が異なる。まずはターゲットとしている国・業種における外資規制を確認し、現地法人設立に向けて始動することが重要だ。
業種による外資規制
業種による外資規制は国によって個別に設けられているが、全体の傾向として国民に直接影響を及ぼすと考えられる業種については、規制対象となっていることが多い。
たとえば、公共交通機関や道路整備事業、マスメディアなど公共性の高い業種については、多くの国で会社設立やその出資比率についての制限が設けられている。また国土を外資から守るという意味で、多くの場合不動産業についても規制の対象になっている。さらに、各国共通で兵器製造など国際法で禁止されている業種については外資規制が設けられている。
一方で、アジア圏を中心に製造業については外国資本による出資比率に制限を設けていない国が多い。工場などの建設・稼働によって大規模な雇用を生み出す製造業については、多くの国で外国資本が参入しやすい仕組みになっている。しかし製造業においても、国によっては工場建設のための土地取得に対する規制や、環境規制が設けられていることもある。
このように各国の法制度は異なるが、規制が少ないほど現地法人設立などによって外資が参入しやすいと言える。
出資比率規制
現地法人について、出資比率に規制を設けている国や業種もある。出資比率100%が認められている場合は、本社の完全子会社として意思決定権を持つことになるが、業種によっては外国資本の出資比率を49%までとするなど、現地法人の意思決定に関して制限を設けている国もある。
アジア諸国では、製造業において外資の出資比率100%を認めている国が多いが、サービス業や建設業、金融、保険業について出資比率制限を設けている国も多い。出資比率は現地法人の経営方針に影響を与えるため、設立を検討する際はあらかじめ確認しておくべきである。
土地所有規制
現地法人の土地所有については、国によって判断が大きく分かれる。
たとえば、アメリカでは基本的に外国資本の現地法人が土地を所有することに規制がないため、自由に土地を取得することができる。シンガポールやバングラデシュなども比較的自由だ。
また、政府による認可を要するという方法で土地取得に規制を設けている国も多い。マレーシアはその方針を採用しており、投資額にもよるが土地・建物ともに政府の認可を受ければ取得できる。
一方で、現地法人による土地の所有を認めない国も多い。中国では土地はすべて政府管理下に置かれているため、土地の使用権しか認められていない。
資本金規制
現地法人を設立するための資本金についても、その額に制限が設けられている場合がある。
海外資本の現地法人の場合、基本的には大きな資本金額での会社設立が条件となる場合がほとんどだ。地域によって最低資本金額が異なる場合もあるので、注意が必要である。たとえば、中国では地域ごとに最低資本金額が設定されており、北京市では現地法人設立のために最低10万米ドルの資本金が必要になる。
資本金の最低金額が高い場合は、当初から事業計画をしっかり立てておくことが重要である。
国別の留意点
ここまで見てきたように、現地法人の設立については国ごとに規制や条件が異なる。現地法人設立のための留意点を国別に紹介しよう。
1.アメリカ
アメリカは、基本的に外資規制が少ない国と言える。原則的に外資による投資を自由に行うことができ、外国資本の現地法人による土地の所有も認められている。
ただし、国家安全保障に危険が及ぶと判断される場合には、出資規制を受ける場合もある。また、発電や銀行業など特定の9分野は外資規制の対象となる。
留意すべき点としては、さまざまな民族が混在して居住しており、税制や所得比率も州ごとに大きく異なることが挙げられる。外資規制が少ないが、現地法人設立後のビジョンを明確に持っておく必要があるだろう。
2.タイ
タイには、外資規制が強化されている面と緩和されている面がある。
外資規制が強化されている点は、タイでは土地取得については海外資本が50%未満でなくてはならず、それに加えてBOI(タイ投資委員会)や工業団地公社の認定を受けなくてはならないことだ。
一方で、BOIの認可を受けることで、法人税の軽減や輸入税の免除など外資参入のための優遇措置も設けられている。また、海外資本100%の現地法人を設立することもできる。
現地法人設立によるタイへの進出を検討する場合は、BOIの認可が受けられるかどうかが重要なポイントとなる。
3.ベトナム
安い労働力が注目されるベトナムだが、現地法人設立については規制が多い。
製造業については外国資本100%の現地法人を設立できるが、土地所有は認められていない。土地はすべて国家の管理下に置かれているため、現地法人に認められるのは土地の使用権のみだ。
ベトナムでは環境規制も設けられており、現地法人設立の際には「環境影響評価書」を提出しなければならない。また現地法人設立後も、環境への取り組みがチェックされることを覚えておこう。
現地法人設立でリスクを避けるためには?
ここまで、現地法人の意味と設立に際しての注意点を見てきた。
現地法人を設立することで、事業展開の自由度が増し、利益を拡大できる可能性がある。一方で、現地法人を設立するためには、設立後まで考えた経営ビジョンを持つことが重要であり、事業規模も考慮に入れたタイミングの見極めも重要だ。
現地法人は、設立時と設立後にさまざまな規制を受ける。国や地域によっても異なるそれらのリスクを回避するためには、現地法人設立へと舵を切る前に入念な調査が必要である。(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER 編集部