ディーラーの「次世代の経営者」の意識を変えた

ボルボ・カー・ジャパン,木村隆之
(画像=THE21オンライン)

――プレミアムなブランドにするために、商品価格を上げることもしたということですが。

木村 誤解していただきたくないのは、単純に値上げをしたわけではなくて、お支払いいただく金額に対して満足していただける装備を標準化して、購買価格を上げたということです。実際、金額に対する装備の満足度は、各ブランドの中で1位です。価格以上に価値のある装備をつけているので、その意味では、値上げはしていないとも言えます。

――例えば、どういう装備なのでしょう?

木村 ボルボに特徴的なのは、安全装備の他、革シートやシートヒーターなどです。

――プレミアムブランドには有名ドイツブランドなどもあります。ボルボがプレミアムブランドになると、それらと競合することになると思いますが?

木村 ボルボとドイツブランドには根本的な違いがあります。それは、ドイツブランドは「走る・曲がる・止まる」という技術を中心にしているのに対して、ボルボは人を中心にしていることです。「Designed around you」という表現をよく使っていたこともありますが、人がどう感じるかを大切にしているのです。新しい技術ができたからクルマに載せようという発想ではなく、人を見て、その人の課題を解決しようというアプローチです。

我々はクルマを造っているわけではなく、販売をしているので、販売の面で人を中心にすることで、ボルボをプレミアムなブランドにしてきました。つまり、ディーラーの接客などを変えて、顧客満足度を高めてきたのです。

日本のような成熟市場で「ボルボしか買わない」というお客様を増やすためには、商品が良いだけでは不十分。ディーラーの対応がとても重要です。

――とはいえ、ディーラーは別会社ですよね。

木村 直営店も8店舗ありますが、それ以外は別会社です。

――別会社の意識改革をした?

木村 その通りです。新しい考え方に対応できないディーラーもありましたが、そうした会社とは契約を打ち切りました。「顧客満足度を高めましょう」と言っているのに、それについてきてくれないディーラーは、お客様にとっても良くないディーラーですから。

社長就任時にはディーラーは54社あったのですが、今は43社になっています。ディーラーを減らすと短期的には売上げが落ち込むので、従来のように3年ごとに交代する社長では切り込めないところでした。

――具体的には、どういうディーラーとの契約を打ち切ったのでしょうか?

木村 やはり顧客満足度が低いディーラーですね。あとは業績。成熟市場において売れないディーラーというのは、顧客満足度が低いから売れないんです。

――ディーラーとの契約を打ち切ったことで減った販売店の数は、どうしたのでしょう?

木村 実力のあるディーラーに店舗を増やしていただきました。

1店舗しか経営していなかったディーラーも多かったのですが、そのディーラーが、例えば3店舗経営するようになると、同じ1台のクルマを仕入れたときに、それが売れる可能性が3倍になります。また、本部機能はそれほど変えなくていいので、経営効率も上がります。多店舗展開はディーラーにとってもメリットがあるのです。

店舗数については、社長就任以来ずっと、日本全体で100商圏、つまり100店舗だと言い続けています。それ以上は増やしません。店舗を増やすことで販売台数を増やす考えはありません。店舗当たりの販売台数を増やすことを目指しています。ただ、スウェーデンらしい内装に改装していただいたり、店舗によっては場所を変えていただいたりしたことはあります。

店舗を増やさないということは、販売店の近くに別の販売店ができてお客様を取られることがないということですから、ディーラーにとっても安心だと思います。

――ディーラーの顧客満足度を高めるために、御社はどのような取り組みをしているのですか?

木村 例えば、各ディーラーの次世代の経営者を集めて一緒に勉強をするマネジメントスクールを開いています。今は皆、「木村塾」と呼んでいます(笑)。

紳士服の生地を作っているゼニアという会社がイタリアにあります。家族経営で連綿と続いている会社で、その家訓に「同じことを続けていくのではなく、代替わりをするときに、若い経営者が新しい感性で、会社を時代に合ったものにしていかないといけない」という意味のものがあります。まさにその通りだと思います。

「親の世代を否定して、自分はもっと会社をよくしてやる」という次世代の経営者が、今は少ないんです。でも、それでは会社を継ぐ意味がありません。新しい世代になったら、経営を新しくしないといけない。そこで、「販売ではなくサービスをする」「他業種のブランドビジネスはどういうことをしているのか」「従業員満足があってこそ顧客満足があって、その先に中長期的な利益がある」「『ヒト・モノ・カネ』ではなく『ヒト、人、ひと』」などということを、木村塾で学んでいただいています。

木村塾は2015年から始めて、今では参加者の半数以上が会社を引き継ぎ、経営者になっています。ですから、当社とディーラーの方向性が、かなり揃ってきました。

木村塾で学ぶ内容を噛み砕いたエッセンスは、店長向けにも教育しています。「木村塾 for 拠点長」と呼んでいます。

――全国で開催しているのですか?

木村 全国から東京に呼んで開催しています。これまでに「木村塾 for 拠点長」に参加した店長は60人ほど。木村塾に参加した経営者が送り出すことが多いようです。

――店長に教育していることで最も重要なことは?

木村 そもそも店長の位置づけを変えることが大事です。経営者には、店長は販売のトップだとしか思っていない人が多いのですが、本当は店舗の経営者であり、従業員の育成者であり、お客様から見れば「ミスター・ボルボ」なんです。店長はそれほど大事な人なんだ、ということから始めています。

――年に2回、サーキットを貸し切って、ボルボや他社のクルマをディーラーの社員たちが乗り比べる研修もしているとか。

木村 ボルボのお客様の平均年齢は50代前半で、クルマを何台も乗り継いでこられていますから、クルマに詳しい。そういう方に対して、ボルボの良さや他社のクルマとの違いを自分の言葉で話せるようになるための研修です。

座学で商品研修をすると、どちらのほうがトランクが大きいとか、室内空間が広いとかという話になってしまいます。そんなことは、プレミアムなクルマを求めるお客様にとっては、大したことではありません。ある程度の広さがあるとか、性能が良いとかは、当たり前のことだと思っているので、わざわざ尋ねない。自分の体験だけが、お客様に響くんです。

――木村社長はトヨタ在籍時に、レクサスの国内展開の立ち上げに携わっています。その経験は活きていますか?

木村 私は顧客満足と人材開発の担当者だったので、まさに顧客満足向上や、それができるディーラーの人材育成の面で、一番活きていますね。サーキットを貸し切っての研修もレクサスでやっていたことです。

もちろん、当時レクサスでやっていたことを、すべてそのままボルボでやっているわけではありません。例えば、営業のロールプレイングのコンテストでは、演技が上手な人ではなく、本当に実力のある人が勝てるように、3人ずつチームにして、お客様役の役者も3~4人同時に入ってくるし、電話もかかってくるというように、実際の店舗と同じ状況でするように変えています。

その他、ミステリーショッパーが定期的に販売店を訪れることや、先ほどお話しした「木村塾 for 拠点長」も、当時はやっていなかったことですね。