「何を言ってはいけないのか」は危険な発想

「何を言ってはいけなくて、何を言っていいのかを知りたい」

パワハラについての話をしていると、よく、こういうことを聞かれます。ただ、「何を言っていいのか、いけないのか」という発想は、少々危険です。

2019年に成立した「パワハラ防止法」が定めている「職場のパワハラ」の定義は以下のとおりです。

職場において行われる、1優越的な関係を背景とした言動であって、2業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、3労働者の就業環境が害されるものであり、1から3までの要素を全て満たすもの。

これを読めばわかるように、「何を言ってはいけないのか」ではなく、こうした条件にひっかかるような言動は何であれ慎まなくてはならないということなのです。

たとえば、業績が低迷する部下に「なぜ、目標が達成できないのか?」とその原因を問うのは、業務指導の一環として認められるでしょう。でも、同じセリフを大声で怒鳴りつけるように、1日に何度も何度も周りに聞こえるように言うことは、労働者の就業環境を害するものだと判断されても仕方がありません。

「いじめ」を指導だと勘違いしていないか

一方で、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とされています。

つまり、業績不振や怠慢などを指摘したり改善指導したりすることは認められています。ただし、あくまでも適正にやってくださいね、ということです。

では、適正な指示や改善指導とは、どういったものなのでしょうか。

もちろん、これもケースバイケースではあります。

ただ、大前提として一つだけお伝えしたいことがあります。パワハラをしがちな人の特徴として「いじめと指導を混同している」ことが多いということです。

必要以上に長時間にわたって叱責する。人前でこれ見よがしに怒鳴りつける。ミスを繰り返す社員を無視する……。こうした行為を行う人は、無意識的であっても相手に精神的なダメージを与えようとしているのではないでしょうか。

これは「いじめ」であり、「指導」ではありません。

もちろん、同じ間違いを繰り返す人にはときに「叱責」が必要なケースもありますが、目的は行動を改善してもらうことであり、恥をかかせたり、精神的にいたぶることではありません。

「精神的に苦しめてこそ、反発心で奮起するはず」という昭和のスポーツマンガのような発想は、非常に危険です。