鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

「家族経営」について、日本人はあまり良い印象を持っていません。お家騒動や非効率性、社長一族が私服を肥やすといったイメージがあるからでしょう。しかし近年、海外の経営学は家族経営に注目しており、日本の同族会社を研究しています。家族経営には、大企業や上場企業にない強みがあるからです。今回は家族経営の強みに焦点を当て、どのように活かしていくべきかを考えていきます。

欧米で「ファミリービジネス(家族経営)」が注目されている

家族経営
(画像=Mentari Merah Studio/Shutterstock.com)

家族経営は、日本では現在でも「非効率的」「古くさい」と思われがちですが、海外では1990年代から研究対象の1つとして注目されていました。

2000年前後から事業承継をテーマにした論文が次々と発表され、現在はスイスのIMDやイギリスのオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、アメリカのケロッグ経営大学院が中心となって家族経営を研究しています。その研究対象には日本の同族企業も含まれているのですが、それには以下のような理由があります。

日本の老舗企業の9割が家族経営

2016年の中小企業白書によると、日本には約358万社の企業があります。また、帝国データバンクのデータから、業歴が100年を超える老舗企業が同年で2万8,972社あることがわかっています。2019年には老舗企業数が増加して3万3,259社になり、その約98%が非上場企業です。

日本経済大学大学院の特任教授である後藤俊夫氏は「日本の老舗企業の9割以上がファミリービジネス(家族経営)だ」と述べています。

日本は世界の中でもダントツの長寿企業大国

世界的に見ても、日本の老舗企業数は群を抜いています。2008年5月に韓国銀行が発表した「日本企業の長寿要因および示唆点」という報告書によれば、世界41ヵ国で創業200年以上の企業は5,586社あり、その53%の3,146社は日本に集中します。2位のドイツ837社、3位のオランダ222社と比較しても、その数は圧倒的です。

日本の企業の9割超は中小企業で、そのほとんどが家族経営です。これらを踏まえると、家族経営の強みを見直し、活かしていくことが今後の日本経済を支え、雇用や消費の拡大につながっていくと言えます。

大企業には無理!家族経営ならではの強み3つ

では、どういった点が家族経営の強みなのでしょうか。昨今のファミリービジネスの研究では、以下の3点を家族経営の強みとしています。

1.意志とスピードで変革できる

大企業や上場企業では、株主と経営陣は別です。このため、経営陣は株主の顔色を伺いながら経営を行わなくてはなりません。

また、株主は安定的な利益と配当を要求します。そのため、時代に応じた改革が必要であっても、現時点で既存事業が安定した収益を上げていれば、経営陣は新たな投資や事業の立ち上げを行うことができません。加えて、株主は経営陣ほど経営や事業に関する情報を持ち合わせていません。この「情報の非対称性」を埋めることが非常に困難なので、経営改革が必要であっても株主の理解を得にくいのです。

しかし、家族経営ならば柔軟に経営の舵取りができます。家族経営では、オーナー(株主)とマネジメント(経営執行者)が同じだからです。また、大企業のような情報の非対称性が存在しません。そのため、状況の変化をスピーディに判断し、決断した方針を素早く実行に移すことができるのです。

2.既存資源で新たな投資ができる

どんな企業でも、業績は常に右肩上がりにはなりません。必ず業績が落ち込む時がやってきます。この時、新たな事業の立ち上げなどを迫られますが、大企業や上場企業だとうまくいかないことがあります。出資者である株主に対する責任があるため、投資をするにしても投資期間を設定せざるを得ないからです。

しかし、実際に新規事業が軌道に乗るまで時間がかかります。そのため、芽を出す前に撤退することになり、「何も生まない投資」になりやすいのです。

一方、「株主=経営陣」である家族経営ならば、自分たちの資金繰りとスケジュールによって投資期間や撤退のタイミングを決めることができます。親が子どもの成長を見守るように、新たな事業の成長をゆっくり長い目で待つことができるのです。

3.経営陣の責任感の強さから信頼を得やすい

信頼を得やすいことも家族経営の特徴です。大企業や上場企業の経営陣は、株主総会の決議で決まります。多くの株主が好むのは、「安定的に利益を上げ、配当を出してくれる経営陣」です。その期待に応えられる経営陣は生き残り、それができなければ退場しなくてはなりません。つまり経営陣は、株主の意向でいくらでも変わってしまうのです。

しかし、企業経営の責任者は経営陣です。金融機関や取引先から見れば、安定しているように見えて実は不安定な状況の中で、融資や契約、取引をしなくてはなりません。

一方、家族経営の会社は株主と経営陣が同じです。親から子に経営のバトンが渡された後、苦境に陥ったとしても、株主総会で早々に首を切られることはありません。むしろ責任を果たすべく、経営の場に留まり、最後まで債務や支払いの責任を取ろうとします。

この強い責任感の背景には「長年かかわってきた事業と人を大事にしたい」という思いがあり、それが強い信頼につながるのです。

家族経営の企業が成功する3つのコツ

家族経営ならではの強みがあるといっても、それに甘えていては成功は望めません。また、家族経営には弱みもあります。以下の点に気を付け、弱みを意識し強みを生かすことで、はじめて家族経営は成功するのです。

1.対立を恐れない

家族経営の特徴に、「家族ならではの距離の近さと情の深さ」があります。家族も人間関係の一種であり、距離が近くなりすぎると感情的なぶつかり合いが生じます。家族経営の成功例として知られる星野リゾートや、日本酒「獺祭」で有名な旭酒造にも激しい親子対立がありました。

日本には「和を以て貴しとなす」という文化があるからか、家族内の対立を避ける人が少なくありません。しかし、家族経営の成功を目指すなら「対立はあって当たり前」と心得ましょう。

親と子は生きた時代や経済の状況が異なるため、価値観が異なるのが普通です。人間は、若いうちはリスクテイクをして挑戦することを好みますが、歳を取ると気力・体力が衰え、人生の残り時間に対する不安から保守的になるものです。つまり時代背景や年齢、価値観の違いを考えれば、対立が起きて当然なのです。

先代と後継者が、それぞれ経営に真剣に向き合うほど対立は激しくなります。企業の成長を願うなら対立を避けず、徹底的に議論しましょう。

2.公私の区別をつける

家族経営がずさんになる原因の一つが、「公私混同」です。家族が経営陣であり株主であるという状況だと、どうしても甘えが出ます。

たとえば、会社の備品や経費をプライベートで使ってしまう、能力を評価するのではなく情で人事を決めてしまう、社長が親や配偶者のいいなりである、などです。トップの姿勢は従業員の姿勢にも影響するため、公私混同が常態化すると会社の業績が悪化したり、取引先や地域からの信頼を失ったりすることになります。

家族の情をうまく使えば従業員や地域社会から信頼を得られますが、悪く使うと家族経営の崩壊を招きます。会社の成長や信頼の維持を第一に考え、公私の区別はつけるようにしましょう。

3.先代は「見守る姿勢」を、後継者は「尊敬」を忘れない

「対立を恐れるな」と書きましたが、それはあくまでも会社の成長のためです。意見の食い違いはあっても、家族として、また仕事人としてお互いを思う気持ちを忘れてはなりません。意見や考え方を否定することと、人格そのものを否定することはまったく別です。

先代が後継者に経営権を譲った後、不安で口出ししたくなることもあるでしょう。そんなときは、「今はあいつの時代だ、今はあいつの時代だ、今はあいつの時代だ…」と自分に繰り返し言い聞かせて、出勤日を徐々に減らし、じっと見守るようにしましょう。

後継者側も慢心してはいけません。いくら熱心に勉強し、経験を積み、成果を残したとしても、その基礎を作ったのは先代とその周囲の人たち、さらにはその前の世代の人たちです。自分が一から起業していたら、事業は頓挫していたかもしれません。前の世代の人たちへの尊敬と感謝の気持ちを忘れず、次世代につなげるつもりで事業に取り組みましょう。

「承継」ではなく「永続」を目指そう

現在、家族経営では事業承継が緊急の課題となっています。中小企業の経営者が高齢になり、2025年には半分以上が後継者不在のまま廃業するとも言われています。M&Aで事業の継続を検討する企業も増えてきましたが、会社の理念や風土、周囲からの信頼の維持は親族承継以外ではなかなか難しいものです。

家族経営を維持していくならば、「承継」ではなく「永続」を目指しましょう。承継を目的にしてしまうと、節税対策や納税資金の工面といったお金の問題の解決が優先されてしまいます。目先の問題に焦点を当てると、当面の事業承継はうまくいっても、その後の経営の継続が難しくなるおそれがあります。

経営の継続では、ときに株主の数を減らす必要に迫られたり、親子間の対立が起きたりするものです。当事者は面倒に感じるかもしれませんが、事業を継続することで雇用が維持されたり、取引先や金融機関の収益に貢献したり、地域のインフラとしての役割を果たしたりすることができます。

永続を主眼に置くと、自社の社会的な存在意義が明確になり、目先のトラブルの解決方法も見えてきます。

永続を目的とした経営計画や理念は、航海地図のようなものです。自社の事業が生む価値を長く社会に還元するためにも、永続という概念を親族内で共有してみてはいかがでしょうか。(提供:THE OWNER

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)