「老後に一人になっても生活できるだろうか……。」将来の健康に対する不安を持っている読者は多いだろう。運動をすべきだと思っても、習慣がないとなかなか始められないものだ。

そこで、出演したNHKの番組『みんなで筋肉体操』での「筋肉は裏切らない!」という台詞でも有名な筋トレの専門家・谷本道哉氏に、誰でも簡単にできる、健康寿命を延ばす筋トレの方法を教えてもらった。(取材・構成:林加愛)

※本稿は『THE21』2020年4月号より一部抜粋・編集したものです。

ILLUSTRATION:勝山英幸

筋トレ,谷本道哉
(画像=THE21オンライン)

筋肉は何歳からでも太くすることができる

筋トレ,谷本道哉
(画像=THE21オンライン)

「いつまでも元気に動ける身体でいたい」と思うのは、万人共通の希望でしょう。40代のビジネスパーソンなら、近年話題の「70歳定年」も意識されているだろうと思います。

70歳でもバリバリ働ける身体を準備するには、40代こそ最大の好機。というのも、筋肉の衰えは30代から始まり、一気に加速するのが50~60代。40代は、衰えにブレーキをかけるのに最適のタイミングなのです。

とはいえ、50歳を過ぎた方も手遅れというわけではありません。筋肉は何歳からでも鍛えれば強くなるからです。

筋肉細胞の数は減っていくのですが、太くすることはできます。また、幹細胞を筋肉細胞に変えることもできます。幹細胞とは、新しい細胞の元になる細胞のことです。

その最適な方法が筋トレです。中でも生活機能の維持に必須なのが足腰の強化。具体的には、立ち上がる力を支える、腿の前とお尻の筋肉のトレーニングが最も大事です。これらを鍛えるには、「スクワット」が最適です。

次に大事なのは、速く歩く機能。高齢期に入ってから速く歩けなくなると、その後の寿命が短くなるというデータもあります。

速く歩くためには、脚を前に振り出すときに使う腸腰筋を鍛えましょう。腸腰筋は腹筋の奥にあります。椅子に座って足を上げる「レッグレイズ」が、腸腰筋と腹筋の双方に効きます。

後ろに蹴る力も重要です。これを強くするため、ふくらはぎを強化する「カーフレイズ」も併せて行ないましょう。

この3種目を行ないつつ、日常生活でも積極的に歩くことをお勧めします。

疫学研究によって、筋力に加えて心肺持久力、いわゆるスタミナも、健康長寿の重要な条件であることがわかっています。心肺持久力は、普段から体をよく動かすことで維持できます。活動量を増やすことで、年齢を重ねたときの体力のベースを培うことができるでしょう。

「やるか、すぐやるか」選択肢は二つだけ

この3種目はいずれも自分の体重のみを負荷としたトレーニングです。道具もウォームアップも必要なく、その場でできます。

ですから、運動習慣がこれまでなかった方の選択肢は二つだけ。「やるか、すぐやるか」です。

時間がかからないのも利点です。それぞれ10~15回繰り返すとして、3種目で3分。2周行なっても6分程度。2日に1回行なえば十分です。そのかわりしっかり追い込むこと。

間に1日空けるのは、筋肉に回復の時間を与えるため。この過程で筋肉が強化されます。毎日行わないぶん、毎回しっかりと。  

3周以上行なうのはお勧めしません。1セットのトレーニングの質が落ちるからです。筋トレは回数よりも質が大事です。

最初から張り切りすぎないこともポイント。翌日の筋肉痛がつらすぎて挫折することになりがちだからです。

もし腰痛や関節痛などを持っているなら、それを我慢することは厳禁。痛みの起こらない範囲で行なってください。

筋トレを行なうタイミングは自由ですが、強いて言うなら、空腹時は力が入りづらいので避けたほうがいいでしょう。

逆に、食後はそれほど気にしなくて結構です。全身運動なら、全身の筋肉に血液が回ってしまい、消化不良を起こすおそれがありますが、筋トレの負荷は局所的なので大丈夫です。

もう一つ、適さないと思われるのが入浴後。リラックスして力が出にくくなります。また、入浴で血管が拡張していますので、持続的な力発揮で血流を制限するスロートレーニングには向かないかもしれません。