「世界は誰かの仕事でできている。」「バイトするなら、タウンワーク。」など、誰もが見聞きしたことがある有名コピーの数々を生み出してきた梅田悟司氏。
現在は、クリエイターとして培ったコミュニケーションやコピーライティングの技術を活かしながら、大企業とベンチャー企業の協業によるイノベーション創出や、組織の成長を支援している。
広告代理店時代はディレクターとしてチームをまとめ、現在も組織同士をつなぐ役割を果たす梅田氏に、チーム運営に求められるコミュニケーションのあり方について聞いた。(取材・構成:塚田有香)
※本稿は『THE21』2020年4月号より一部抜粋・編集したものです。
本当に大切なのは「伝え方」ではない
梅田氏は、「チーム運営はコミュニケーションにすべてがかかっていると言っていい」と話す。
「ただし僕は、『伝え方』が大事だとは思いません。どんな言葉を使うか以前に、『私はこれを伝えたいのだ』という確信を持って、自分の意見を発信できるかどうかが重要です。
言葉とは、人間が考えたことを形にしたものに過ぎません。ならば、まずは自分の意見を育てる必要がある。そのためには、頭の中で無意識のうちに発している『内なる言葉』に意識を向けること。そして、本当に自分が納得し、自信を持って物事を語れるまで自分自身と向き合う。これがコミュニケーションの質を高めるために最も重要です。
いくら上司がチームの雰囲気を良くしようと飲みニケーションをしても、内容のない話を聞かされた部下は『ムダな時間だった』と感じるだけ。上司の口から『俺は仕事において、やっぱりこれが大事だと思う』といった『意見』が一つでも出れば、部下もその時間をムダとは感じません。
上司・部下間のディスコミュニケーションは、上司側が本当に伝えたいことを持っていないために発生するケースがほとんどです」
上司が嫌われるのは自分で考えていないから
意見がないことに加え、「反応」しかできない上司も多いと指摘する。
「『反応』とは、何かに対するリアクションでしかない。そこに自分の意見はありません。
咄嗟の思いつきで発言したり、相手の言葉尻を捉えて茶化したりするのが典型的な反応型コミュニケーションで、これは往々にして部下に嫌がられます。他者に反応しているだけなので、その時々で言うこともブレます。部下が『この前と言っていることが違うじゃないか』と不信感を抱くのも当然です。
自分の中にある沸々とした想いや信念と対峙し、それを言葉にすれば、ブレることがありません。反応ではなく、意見によって、人と人が向き合うことが大事です」
また、上司の中には、上から言われたことを下にそのまま伝える「伝達」しかしない人も少なくない。
「伝達ならメールで済む話。上司がやるべきことは、情報に自分なりの解釈を加え、意見として部下に伝えることです。上から言われたことを伝える場合でも、自分はその意味をどう理解しているのか、自分たちの部署としてどのようなスタンスで取り組むべきなのか、といった解釈を加える。すると、話を聞いた部下たちも納得できます。
上司が部下にバカだと思われる最大の原因は、『この人、何も考えてないな』とバレることです。だから、自分はきちんと考えていると示すためにも、常に言葉に解釈を加える。それには、やはり日頃から自分の思考と向き合い、『内なる言葉』の解像度を高めることが必要です」