矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

改正新型インフルエンザ等対策特別措置法は「緊急事態宣言」の発出、解除を国の権限としたうえで、感染防止策の実行を都道府県に委ねた。結果、地方自治体の首長たちの存在感が高まる。
社会活動、経済活動における自粛や休業要請の対象業種、範囲を決定するのは都道府県の首長たちである。私権の制限と経済損失を伴う「要請」は知事の名で発せられ、同時に独自の補償や支援策が発表、実行される。
新型コロナウイルスは人口の過度な集中がもたらす社会的リスクの大きさとともに、国民生活における地方自治の役割と機能を国全体で見直す契機となったと言えよう。

19日、政府の地方制度調査会(地制調)は将来の人口減に対応した地方自治の在り方に関する答申案をまとめた。焦点となったのは「圏域構想」の扱いだ。これは「個々の市町村は行政のフルセット主義から脱却、一定規模を持った中枢都市とその周辺の市町村を一つの生活圏、経済圏を形成する新たなマネジメント単位とし、行政機能のコンパクト化とネットワーク化をはかる」ことを狙いとする。
ベースとなったのは総務省の有識者会議が提唱した「自治体戦略2040年構想」、国もこれを後押しする。しかし、全国知事会、全国市長会など地方6団体はこれを現行市区町村制度の解体を目指すものとして反発、「自治体間連携はテーマごとに進めるべき」との主張で一致する。地制調はそうした立場に配慮、広域連携の必要性を強調しつつも「圏域構想」に関する具体的な言及を見送った。

20日、全国知事会は「緊急事態宣言」の解除を見据え、政府への提言をとりまとめた。提言では、臨時交付金の積み増し、ワクチンの早期実用化、検査体制の確立、観光振興に向けての支援などを要望するとともに、宣言の解除に際しては「圏域の一体性への配慮」を求めた。
ウイルスにとって行政区分など何の意味もなさない。その押さえ込みには多くの人々にとっての日常的な移動範囲、つまり、「圏域」単位における対策が必要ということである。

そう、現実の生活に根差した地域の範囲を考える時、また、人口の絶対縮小が避けられない地方の将来を考える時、「圏域」という単位は極めてリアルであり、行政単位としてのメリットは小さくない。
もちろん、“町” は経済と行政における合理性だけで括られるべき “区画” ではない。歴史、文化、ことば、自然、そして、それを継承してきた人々の精神性が重要な構成要素である。とは言え、経済、教育、医療、交通、防災、治安、上下水道など社会インフラの維持は人々の暮らしの前提でもある。その意味において国と地方、地方における地域と地域の関係性についてあらためて問い直す必要があるだろう。“圏” の効率性と “町” の独自性をどう両立させるか。圏の重複、圏からの漏れによる非効率への最適解はあるか。新型コロナウイルスがもたらした “非日常” は未来に先手を打つための戦略をじっくり考える絶好の機会である。

今週の“ひらめき”視点 5.17 – 5.21
代表取締役社長 水越 孝