2019年9月期のサイバーエージェントの決算は、ある意味で注目を集めることとなった。売上高が過去最高を更新したのも理由の1つだが、それ以上にAbemaTVの赤字が注目を浴びているのだ。AbemaTVは現時点で大きな赤字を出しており、サイバーエージェントは他の部分で収益を上げることで、会社全体で利益を上げている。この「先行投資」はいつまで続くのだろうか。AbemaTVのビジネスモデルとともに解説する。

Abema TVは年200億円の赤字、それでも投資を続けている

AbemaTV
(画像=sharafmaksumov/stock.adobe.com)

サイバーエージェントの2019年9月期の決算は、大きな話題を呼んだ。それは過去最高の売上高4536億円を発表したからではない。それよりも注目を集めたのは、利益面だ。サイバーエージェントの2019年9月期の連結営業利益は308億円。前年度の301億円からは微増となっている。しかし、その数字以上に目を引くのが、AbemaTVの赤字額203億円だ。

AbemaTV事業は2016年9月期に99億円の赤字を出して以降、毎年200億円もの赤字を出し続けている。インターネット広告をはじめとする他の部分が赤字を補うことでカバーしているが、それでも累計の赤字は700億円にまで膨れ上がっている。

サイバーエージェントの藤田社長は、この赤字をあくまで「先行投資」としてとらえており、現時点ではさらに先行投資を続けていくと明言している。実際、2020年9月期の第一四半期決算においても、50億円の赤字を出している。

AbemaTVの赤字は本当に大丈夫なのか?

AbemaTVは、ここまでの赤字を出しているが、本当に投資に見合った効果が出ているのだろうか。検証してみよう

先行投資が必要なAbemaTVのビジネスモデル

まず、AbemaTVのビジネスモデルについて整理しよう。AbemaTVは、インターネットを通じて動画を視聴するサービスであり、その収入源は「広告収入」および「課金収入」そして「周辺収入」となっている。一方、支出としては「コンテンツ制作費」「システム開発・運営費」等があると推測される。この中でも特にお金がかかるのが「コンテンツ制作費」だろう。

動画配信サービス事業のポイントは、「いかにユーザーを集めるか」であり、各社がそこに大きく資金を投入している。AbemaTVも、ユーザーを集めるために、良質なコンテンツの開発と、広告宣伝に力を入れていることが考えられる。実際、2019年9月期の決算を見てみると、売上高約60億円に対し、売上原価195億円、販管費が55億円となっている。売上原価の大部分がコンテンツ制作費であると推測される。つまり、AbemaTVは、現状売上高の約3倍ものコンテンツ制作費を使ってコンテンツを作っているのだ。

この動画配信サービス事業は、コンテンツ制作も含め、多額の先行投資が必要というのは、業界共通である。同事業の世界最大手であろうネットフリックスも、1997年の創業以来赤字を続けており、黒字化したのは、2003年である。AbemaTVに関しても、ある程度の期間赤字が続くのは、ある意味織り込み済みだと言えるだろう。

赤字でも着実に成長はしている

しかし、AbemaTVがただ赤字を垂れ流し続けているだけかというと、もちろんそのようなわけではない。様々な取り組みをしており、着実に成長していることがうかがえる。

その代表的なものが「コンテンツ作り」だろう。AbemaTVは若年層に強い、ということもあり、ニュース速報やドラマに加えて、恋愛リアリティショーなどに力をいれている。実際、同社の恋愛リアリティショーは、女子中高生の3人に1人が視聴しているようだ。同様に、過去見逃した作品を見ることができるオンデマンドの配信増加にも力を入れている。さらには、共同出資者であるテレビ朝日で宣伝番組を作るなど、露出の拡大にも力をいれている。

このような取り組みもあり、ユーザー数は順調に増加している。アプリのDL数は累計で4800万DLを超え、WAU(1週間あたりのアクティブユーザー)も1000万人を超える水準になっており、当初藤田社長が目標としていた数字は達成しつつある。有料会員数も、60万人近くまで成長しており、投資に対する効果はまずまず出ているといえそうだ。(2019年12月時点)

もちろん利益面を改善する取り組みも行っている。たとえば広告枠の拡充などがその代表的な施策だろう。また直近では、公営ギャンブルを放送することで、自社の関連事業への誘導を行い、グループ全体での収益化も目指している。もちろん、有料会員の増加も収益には貢献しているだろう。

なぜサイバーエージェントはAbemaTVに投資するのか

売上やユーザー数は順調に増えているものの、それ以上に費用がかさんでおり、AbemaTVは赤字から脱却できていない。では、なぜサイバーエージェントはここまでAbemaTVに固執するのだろうか。その理由は主に2つある。

インターネット広告の規模が拡大している

1つ目は、インターネット広告の市場規模が拡大しているということだ。インターネット広告の市場規模は、インターネットの拡大とともに年々増加しており、2019年には2兆円を超えたと言われている。日本の広告費が約6.9兆円だから、すでにインターネット広告は広告のうち3割を占めているのだ。

さらに象徴的な出来事が、2019年に起こった。テレビ広告とインターネット広告の広告費が逆転したのだ。テレビ広告はこれまで約2兆円の市場規模を維持していたものの、近年は微減となっており、2019年度は約1兆8600億円にとどまっている。今後、テレビ離れが進み、インターネット広告がさらに伸びるのは明白だろう。そういった意味で、インターネットの広告チャネルを拡大していくことには、合理性があるといえるだろう。

5Gの普及により、ますます「動画の時代」がやってくる

伸びているインターネット広告の中でも、特に、「動画」に将来性があるかもしれない。

もともとインターネットで動画を見るようになったのは、iPhoneをはじめとするスマートフォンの普及と、4Gという高速通信規格ができて動画の配信に耐えうるだけの通信が可能になったからだ。さらに2020年から、新しい通信規格である5Gが導入されると、ますます動画の優位性が生まれる可能性がある。

5Gは4Gに比べ、最大20倍の通信速度を誇り、かつ、通信の遅延がなくなるというのが特徴だと言われている。このため、5Gに変わることで、より高画質な動画やより大容量の動画を配信することが可能になる。そして、動画視聴の際の電力コストや通信コストが下がることも、動画の拡大を後押ししている。

これにより、動画広告もさらなる伸長が予想されている。2019年には約2500億円だった動画広告市場が、2023年には約2倍の約5000億円に達すると予想されているのだ。その観点からも、動画配信サービスを強化したいというのは、理にかなっていると言えるだろう。

サイバーエージェントは、傘下にインターネット広告事業やゲーム事業など、様々なインターネット関連事業を持っている。これらの企業が今後発達していくためにも、動画は欠かせないだろう。そういった動画事業の中心として、AbemaTVは期待されているのだ。

AbemaTVは今後収益化できるか?

では今後、AbemaTVは先行投資が実り、大きな収益をもたらしてくれるのだろうか。予想してみよう。

競合も投資を続けており、いきなりの市場奪取は難しい?

まず、動画配信サービス事業をとりまく環境を見てみよう。ある調査によると、2018年におけるAbemaTVの認知度は約31%であり、動画配信サービス事業の中では、中堅の位置を占めている。上位は、HuluやAmazon Prime Videoなどの海外勢が占めている形だ。特にHuluとAmazon Prime Videoの認知度は50%を超えており、まだ水をあけられている状況であると言える。国内では、dTVやU-NEXTが現時点では競合にあると言えるだろう。

そして、彼らも積極的にユーザー獲得を狙っている。特に海外勢は、絶大な投資をしているのだ。上段で、AbemaTVの製作費は190億円と述べたが、ネットフリックスでは、2020年度は約1兆9千億もの金額をコンテンツに投資すると言われている。同様に、Amazon Prime Videoの製作費も、2018年度には5500億円に達していると言われている。アメリカのTVネットワーク大手であるABCやCBSよりも多い費用を投下し、一気にユーザーを獲得しようとしているのだ。

もちろんネットフリックスやAmazon Prime Videoがグローバルでの投資なのに対し、AbemaTVは日本がメインという違いがあり、製作費が高ければ質の高いコンテンツができるわけではない。しかし、このような多量の投資を仕掛けてくる外資勢と闘うことは、決して簡単な方法ではないと言えるだろう。

他事業とのシナジーには期待が高まる

一方、AbemaTVには、他者にはない強みがある。それは、サイバーエージェント参加のサービスと、協業ができるということだ。

その1つの取り組みが、前半で紹介した公営ギャンブル動画の配信だろう。AbemaTVが公営ギャンブルを配信し、関連会社である、公営ギャンブルのチケット販売サイトに顧客を誘導することで、そこの収益を上げるという方法だ。実際、2019年4月の放映依頼、順調にAbemaTV経由の取扱高は伸びており、2020年9月期の第一四半期の取扱高は17億円となっている。

このようなモデルが、公営ギャンブルのみならずゲームや他のメディア、さらには既存のインターネット広告などサイバーエージェント傘下の企業との間で進むことにより、AbemaTV単体ではなくトータルで利益を上げることができる。このように他事業との連携が進めば、AbemaTVの収益力も高まってくるだろう。

AbemaTVは日本発の動画配信プレーヤーとして成功できるか

毎年200億円もの赤字を垂れ流しながらも、AbemaTVは独自コンテンツの拡充などで、ユーザー数を増やしてきた。5Gが浸透し、動画の時代となる2020年代にさらなる飛躍が求められている。とはいえ、AbemaTVの赤字の主な要因であるコンテンツ制作費は、海外の巨人であるネットフリックスなどに比べるとまだまだ低く、今後も競争は激化していくと考えられる。

その中で、サイバーエージェント傘下の企業、サービスとのシナジーを活かすことで、独自路線をとることができれば、AbemaTVにもチャンスがあると言えるだろう。今後も、AbemaTV、そしてAbemaTVを取り巻く動画配信サービスから、目が離せなくなりそうだ。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部