◉実業家としての成長
カルロス氏は、1965年には彼が一代で築きあげる財閥の基礎、グルーポ・カルソを設立します。
「カルソ」はカルロス氏自身と彼の愛する妻、ソウマヤさんの名前にちなんで名づけられました。
そして創業から少し経ち、1980年代にグルーポ・カルソは大きな成長を遂げることとなります。
カルソはタバコ・自動車部品・飲食雑貨チェーンと多岐に渡って企業買収を繰り返し規模を拡大しました。特に買収しタバコ会社はグルーポ・カルソにとって豊富な資金源となり、キャッシュフローの流動性の確保に貢献します。
一方、1982年に起きたメキシコ債務危機の際にも、同社は多くのメキシコ国営関連企業が機能麻痺する中で精力的に投資を行います。そして1984年にグルーポ・フィナンシエロ・インバルサを設立し、それ以来メキシコ国内の金融事業も担ってきました。この頃になると、カルロス氏は不動産・産業・商業など様々な分野で活躍し、名の知れた実業家となります。
実はカルロス氏には不動産王としての側面もあり、ニューヨークのアップタウンや郊外に多くの不動産を持つのみならず、グルーポ・カルソはメキシコ全土に20、首都メキシコシティ限っても10ものショッピングモールを展開しています。
ちなみにカルロスの父親も事業の成功を収めた後に、メキシコシティのダウンタウンで多くの不動産を購入しました。そしてその多くが今では莫大な価値になっています。
◉民営化の波に乗って財産の拡大
1990年代に入るとメキシコには国営企業の民営化の波が押し寄せます。これは絶えず買収を繰り返して会社を大きくしてきたカルロス氏にとって、絶好のチャンスが来た事になりました。
カルロス氏はアメリカの通信会社SBCとフランスのテレコムと協力し、メキシコ国営の固定電話会社テルメックス(TELMEX)を公開入札によって買収します。そしてテルメックスは彼らにとってまさにドル箱となりました。
メキシコ国内全域をカバーする一大企業であり(現在メキシコでの国内シェア90%)、また、アメリカなどの北米圏への出稼ぎ労働者たちがメキシコ国内に国際電話を掛けるときに必ずテルメックスを経由します。国際電話では発信国の通信会社から受信国の通信会社に対して「接続料金」を支払う仕組みになっており、海外に多くの労働者がいるメキシコの状況はテルメックスにとって圧倒的に有利となります。この事により何もせずともメキシコへの国際電話がある度に、接続料金による収入が入ります。
なお少し話は脱線しますが、テルメックスは小林可夢偉選手が所属するF1のレーシングチーム、サウバーのスポンサーでもあります。
機会があればF1カーに光るテルメックスの青いロゴに注目してみてください。また、今期30年ぶりに登場したメキシコ出身のレーサー、セルジオ・ペレスのスポンサー候補としても一時話題となりました。
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◉世界戦略とForbes(フォーブス)トップへの道
テルメックスの成功を皮切りに、カルロス氏の世界戦略とForbes(フォーブス)トップへの道のりは開かれる事になります。
後にカルロス氏はテルメックスの携帯電話部門を切り離し、アメリカ・モビルを立ち上げました。企業買収をしつつ固定電話、携帯、さらにはケーブルテレビなど次々と通信産業で手を広げます。規模そのものも膨れ上がり、今ではアメリカ・モビルをはじめとする電話通信事業はカルロス氏の資産の大部分を占めています。
カルロス氏が若いころに設立したグルーポ・カルソも国際的なコングロマリットに成長し、製造業や販売業に限らず、太陽光発電・石油開発・水利施設・鉄道などの大規模インフラも手掛け、財閥としての地位を確固たるものにしています。
また、メキシコの債務危機の時に積極的に投資を行ったことから分かるように、カルロス氏は不振に陥った状況をチャンスとして捉える力の強い人物です。
2008年には経営不振に陥ったニューヨークタイムズ紙に対して225億円の支援をし、その後少しずつ出資比率7.5%にまで増やし2012年には筆頭株主にとなります。他にも2012年には業績不振に陥っていたアルゼンチンの石油・ガス最大手YPFの株式を6.6%取得しました。
◉メキシコ市場独占への批判
カルロスの資産の大部分を占める通信事業ですが、その内訳を見てみると実に面白いことに気づきます。
まず売り上げの36%がメキシコで占められています。そして利益率を見るとメキシコ以外では多くてもせいぜい11%なのが、メキシコでの電話事業の利益率は65%にも及びます。このような事が可能なのも、カルロス氏が率いるメキシコの電話事業が市場をほぼ独占しているからです。
このためにメキシコの電話料金はOECD加盟国の中で最も高いという有り様です。そして料金が高すぎる為に、メキシコの100人当たりの電話回線契約数は近隣のメキシコよりも貧しい国より少ないのです。
2006年にはメキシコ国内の他の電話会社が公正取引委員に対して回線接続料のあまりの高さから独占を訴える裁判まで起こしました。その結果カルロス氏の行為は不当な独占であると最高裁で認められ、最終的に罰金と回線接続料の引き下げが命じられています。
またメキシコ国内では貧富の格差が大きく、個人資産が国のGDPの7%にも相当することから富の独占に対する批判も少なくないようです。