7月に入り、企業業績にスポットが当たりやすい時期になりました。特に下旬以降は、主力の3月決算企業等の四半期決算が発表されるはこびになっており、投資家としては気の休まらない季節になりそうです。
現在は、決算発表が本格化する季節の直前という位置付けですが、実は「前哨戦」は始まっていて、2月決算企業を中心に、5月末を期末とする四半期決算の発表が本格化しています。7/9(木)にはセブン&アイ・ホールディングス(3382)、ファーストリテイリング(9983)の発表が、7/10(金)には安川電機(6506)の発表が行われました。
今回の「日本株投資戦略」では、5月末を期末とする四半期決算が好調な銘柄を抽出してみました。足元決算発表を行った銘柄については、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う内食需要拡大を追い風にした食品スーパーなど、好業績の銘柄も少なくないようです。これらの銘柄は短期的には「好材料出尽くし」感から軟調な銘柄もあるようですが、新型コロナウイルスの感染が再拡大する兆しをみせており、意外に買い場になっている銘柄も少なくないように思われます。
四半期決算好調で「新型コロナ」感染再加速でも怖くない銘柄は!?
それではさっそく好業績銘柄の抽出を行ってみたいと思います。スクリーニング条件は以下の通りです。
(1)東証上場銘柄(新興市場を含む)であること。
(2)時価総額300億円以上の銘柄であること。
(3)2月末または、5月末、8月末、11月末を本決算期末とする銘柄であること。
(4)2020年5月末を期末とする四半期決算の発表が終わった銘柄であること。
(5)直近四半期(累計)の営業増益率が今期の会社予想営業増益率を上回っている銘柄であること。
(6)直近四半期(累計)の営業増益率が前年同期比10%超の銘柄であること。
上記のすべての条件を満たした銘柄を直近四半期(累計)の営業増益率の高い順に並べてご紹介したものが表1となっています。
(3)の条件は、一見、様々な決算期の銘柄を対象としているようにみえますが、(4)にありますように、いずれも5月末を四半期決算末とし、6月中旬から7/8(水)に決算発表が行われたという点で共通する銘柄となっています。
ご存知の通り、2020年3~5月は「緊急事態宣言が解除されるまでの約3ヵ月」の期間であり、日本経済がもっとも厳しい逆風にさらされていた時期ということができます。表1に多くの食品スーパーが含まれているように、これらの銘柄は、新型コロナウイルスの感染拡大という環境が逆に追い風になった銘柄ということができます。
また、ドラッグストアなどは、マスクや衛生用品等に「特需」が発生し、好業績になった企業もあるようですが、インバウンド消費の比率が高い企業は、その減少と相殺されてしまう場合も多かったようです。
表1 四半期決算好調で「新型コロナ」感染再加速でも怖くない銘柄は!?
コード / 銘柄 / 株価7月10日 / 直前四半期営業増益率 / 今期予想営業増益率 / 事業内容
<8168> / ケーヨー / 753 / 1030.3% / 224.0% / ホームセンター(千葉)
<3222> / ユナイテッドスーパーマーケットホールディングス / 1,221 / 417.8% / 6.9% / 食品スーパー(首都圏)
<8198> / マックスバリュ東海 / 2,306 / 237.6% / 17.5% / 食品スーパー(静岡)
<9948> / アークス / 2,476 / 131.7% / 7.6% / 食品スーパー(北海道)
<9974> / ベルク / 7,610 / 110.8% / 7.7% / 食品スーパー(埼玉)
<6196> / ストライク(8) / 5,000 / 77.6% / 18.6% / M&A仲介
<2742> / ハローズ / 3,295 / 74.9% / 2.8% / 食品スーパー(山陽、四国)
<3050> / DCMホールディングス / 1,271 / 70.4% / 0.8% / ホームセンター
<9842> / アークランドサカモト / 1,841 / 37.7% / 2.3% / ホームセンター(新潟)
<4187> / 大阪有機化学工業(11) / 2,832 / 35.2% / 1.0% / 半導体向け等化学品
<2471> / エスプール(11) / 661 / 29.9% / 24.7% / 営業支援
<3141> / ウエルシアホールディングス / 8,800 / 29.4% / 2.6% / イオン系ドラッグ大手
<9843> / ニトリホールディングス / 21,920 / 22.3% / 4.4% / 家具・インテリア
<7649> / スギホールディングス / 7,480 / 20.8% / 0.8% / ドラッグストア(愛知)
<2734> / サーラコーポレーション(11) / 556 / 15.8% / 6.2% / ガス販売等
※各社株価データ、公表財務データをもとにSBI証券が作成。直前四半期は2月決算銘柄の場合2020年3~5月期、8月決算銘柄の場合2019年9月~2020年5月期、11月決算の場合2019年12月~2020年5月期の累計業績データ。今期予想営業増益率は会社予想営業利益の増益率。銘柄名右のカッコは本決算が何月かを示し、数字のない銘柄は2月決算銘柄となっています。なお、アークランドサカモトの決算期末は2/20です。また、事業内容のカッコ内は、小売店等の主要出店地域ですが、他の地域に出店している場合もあります。
抽出銘柄の投資ポイント
一般的に、小売業でも衣料品等「不要不急」的商品が中心の企業は不調です。日本経済新聞社が集計した2020年3~5月決算企業50社の最終損益は2008年以降で初の赤字でした。
これに対し、食品スーパーは好調でした。例えば、「マルエツ」や「カスミ」などの食品スーパーを擁するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(3222)は7/7(火)に決算発表を実施し、2021年2月期・第1四半期(2020年3~5月期)の営業利益が78億円弱と前年同期の5倍超に急拡大したことが明らかになりました。2000年以降、我が国の食料支出に占める家庭内食の比率は2割未満で推移してきましたが、4月には2割を大きく超えてきたとの分析があります。食品スーパーの多くはこうした流れが追い風になり、逆に外食企業は強い逆風をあびる形になりました。
もっとも、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスの場合、決算発表後の3営業日の株価は続落と冴えない展開になりました。決算発表直前の3営業日で15%超も上昇し、期待先行となっていた面もありますが、好決算は新型コロナウイルス拡大による内食需要拡大の流れに恵まれた「追い風参考値」とみられ、持続性に乏しいとみられたのかもしれません。
しかし、7/9(木)に東京都の新規感染者数が220人以上の「過去最高」となり、7/10(金)は243人とさらにその記録を上回っており、新型コロナウイルスの感染拡大は再加速の兆しをみせています。仮に外出の自粛を伴うような措置が再び取られたり、人々の自発的な自粛活動が本格化した場合、内食需要が再び盛り上がり、表1の銘柄の多くに再び追い風が吹く可能性もありそうです。
なお、その他の好業績銘柄としてはニトリホールディングス(9843)があげられます。在宅勤務を推奨する企業が増えており、机や椅子の販売が増えたようです。勤務形態の見直しは中長期的に進む可能性があり、追い風はもう少しの間続くかもしれません。また、エスプール(2471)では、電子商取引(EC)通販の発送を代行する事業の業務量が増え、業績の好調につながったようです。
なお、大阪有機化学工業(4187)は半導体用レジストの原料である高品質アクリルモノマーで世界シェア7割を占める「グローバル・ニッチ・トップ企業」的存在です。半導体市場の拡大が追い風になり、業績も好調で、株価は歴史的な高値圏にあります。
図1 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(3222・日足)
図2 大阪有機化学工業(4187・日足)
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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