シンカー:緊急事態宣言下の4-6月期の大きなマイナス成長は既にマーケットに織り込まれているとみられる。新型コロナウィルス問題が緩和していく中で、景気が底を這って回復のないL字型を回避できるかにマーケットは注目してきた。注目は信用サイクルが強い状態を維持できるのかだった。信用サイクルが堅調であれば、雇用・所得環境は底割れず、新型コロナウィルス問題が終息に向かうなかで需要は復元し、景気には回復力が生まれる。政府・日銀は、企業向けの流動性対策を大幅に拡充し、信用サイクルの防衛に全力を尽くす方針の下での政策の下支えで、4-6月期の中小企業貸出態度DIは+19に改善した。政府・日銀の政策などに支えられて、何とか堅調な信用サイクルは維持でき、景気はL字型を回避し、7-9月期にはGDPもしっかりリバウンドするだろう。景気の回復が、緩慢なU字型から迅速なV字型に進展するためには、需要の牽引役が必要になる。注目は設備投資サイクルが再び強さを取り戻すのかだろう。4-6月期の実質設備投資は前期比-1.5%と2四半期ぶりのマイナスになったが、実質GDPを大きくアウトパフォームし、実質設備投資の実質GDP比率が示す信用サイクルは堅調さを維持していることになる。4-6月期の実質設備投資の実質GDP比率は17.2%へ、1-3月期の16.1%から大きく上昇し、1992年4-6月期以来の水準となった。短期の業況感に左右されない、人口動態にともなう労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクス・5Gを含む技術と産業の革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発が大きな後押しとなっているとみられる。企業は新型コロナウィルスの影響は一過性と判断し、金融機関の資金融資に対する警戒感も大きくないため、長期的な視野の投資拡大は止めるわけにはいかず、まだ設備投資サイクルは上向きを維持できると考える。新型コロナウィルス問題が終息への方向性が維持できれば、堅調な信用サイクルが生み出す景気回復の力を、強い設備投資サイクルが生み出す需要の牽引力で、景気回復は緩慢なU字型から迅速なV字型に進展していくだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

4-6月期の実質GDPは前期比-7.8%(年率-27.8%)となった。

昨年10月の消費税率引き上げと年初からの新型コロナウィルス問題などにより、3四半期連続のマイナス成長となった。

実質消費は前期比-8.2%と、3四半期連続のマイナスで、この間の実質GDP成長率の弱さの主な原因になった。

4・5月の緊急事態宣言による経済活動の停止の下押しが、サービスを中心に極めて強く出た。

海外経済の活動停止の影響で、実質輸出も同-18.5%と極めて弱く、2四半期連続のマイナスとなった。

日用品や保健・衛生用品などの需要があり、実質輸入は同-0.5%と輸出対比でかなり強く、実質GDP前期比に対する外需の寄与度は-3.0%と極めて弱くなった。

数度の補正予算などがあったが政府支出が停止した民間経済を支えきれなかった。

実質政府消費は-0.3%、実質公共投資は+1.2%と控えめであった。

緊急事態宣言下の4-6月期の大きなマイナス成長はマーケットにすでに織り込まれているとみられる。

4・5月は経済活動の急激な収縮が月次データで確認できるが、緊急事態宣言解除後の6月には強いリバウンドがみられた。

消費税率引き上げ後からの景気の下方への動きは5月に底を打ったとみられる。

ゲタの効果が極めて大きく、7-9月期の経済活動の回復がそれほど強くなくても、7-9月期の実質GDPは年率+10%台のリバウンドとなるだろう。

新型コロナウィルス問題が緩和していく中で、景気が底を這って回復のないL字型を回避できるかにマーケットは注目してきた。

注目は信用サイクルが強い状態を維持できるのかだった。

信用サイクルをうまく示すのは日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIである。

信用サイクルはコロナウィルス問題の影響を強く受けたサービス業の事業拡大を左右するため、失業率に先行する指標である。

信用サイクルが堅調であれば、雇用・所得環境は底割れず、新型コロナウィルス問題が終息に向かうなかで需要は復元し、景気には回復力が生まれる。

政府・日銀は、企業向けの流動性対策を大幅に拡充し、信用サイクルの防衛に全力を尽くす方針の下での政策の下支えで、4-6月期の中小企業貸出態度DIは+19に改善した。

政府・日銀の政策などに支えられて、何とか堅調な信用サイクルは維持でき、景気はL字型を回避し、7-9月期にはGDPもしっかりリバウンドするだろう。

景気の回復が、緩慢なU字型から迅速なV字型に進展するためには、需要の牽引役が必要になる。

注目は設備投資サイクルが再び強さを取り戻すのかだろう。

経済ファンダメンタルズの改善と民間投資を喚起する成長戦略が徐々に効果を発揮し、設備投資サイクルもようやく天井を打ち破ってきた。

実質設備投資の実質GDP比率は既に+16%の天井を打ち破り、バブル崩壊後の最高水準までようやく上昇した。

この天井をなかなか打ち破れなかったことが、過剰貯蓄として総需要を破壊する力となっている異常なプラスの企業貯蓄率の低下を妨げる要因となっていた。

短期の業況感に左右されない、人口動態にともなう労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクス・5Gを含む技術と産業の革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発が大きな後押しとなっているとみられる。

4-6月期の実質設備投資は前期比-1.5%と2四半期ぶりのマイナスになったが、実質GDPを大きくアウトパフォームし、実質設備投資の実質GDP比率が示す信用サイクルは堅調さを維持していることになる。

4-6月期の実質設備投資の実質GDP比率は17.2%へ、1-3月期の16.1%から大きく上昇し、1992年4-6月期以来の水準となった。

企業は新型コロナウィルスの影響は一過性と判断し、金融機関の資金融資に対する警戒感も大きくないため、長期的な視野の投資拡大は止めるわけにはいかず、まだ設備投資サイクルは上向きを維持できると考える。

日銀短観などの設備投資計画でも、デジタル投資を中心に堅調な動きが確認できる。

政府の経済政策などの支援もあり、コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するだろ。

新型コロナウィルス問題が終息への方向性が維持できれば、堅調な信用サイクルが生み出す景気回復の力を、強い設備投資サイクルが生み出す需要の牽引力で、景気回復は緩慢なU字型から迅速なV字型に進展していくだろう。

表)GDPの結果

GDPの結果
(画像=内閣府、SG)

図)信用サイクル

信用サイクル
(画像=日銀、総務省、SG)

図)設備投資サイクル

設備投資サイクル
(画像=内閣府、日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司