資金繰りが苦しくなるなど、会社が経営不振に陥った場合は、会社を破産とすることで経営者は悩みから解放されるだろう。会社が破産すれば負債を帳消しにできるため、新しい会社を立ち上げて再起を図ることもできる。
破産というと個人破産をイメージする人が多いが、会社破産は個人破産と異なる点が多々ある。メリットや手続きの流れなど、会社破産に関する正しい知識をしっかり身につけ、もしもの時に備えておこう。
会社破産とは?
これ以上支払えなくなった負債を、手持ちの資産でできるかぎり清算する手続きを破産という。法人格が破産する場合は法人破産であり、対象が会社に限られる場合は会社破産だ。
債務超過や手形の不渡りなどで、会社経営を続けることが困難になった場合に、法的な手続きを踏んで清算する債務整理手段の一つである。会社破産の手続きを行うことで、原則としてすべての資産や負債が清算される。
会社破産の効果
個人破産の場合、清算後も個人がなくなることはない。1人の人間として再スタートを切ることができるため、再起を促す意味で設けられている制度と言えるだろう。一方で会社破産の場合は、清算後にその会社は消滅する。破産後に同じ会社で再スタートを切ることはできない。
ただし、基本的には破産した会社の経営者個人に、破産の影響は及ばない。会社の破産は、あくまでも会社という法人格が清算をする手続きであり、経営者は別のものとして扱われるからだ。
会社の破産により影響を受ける対象としては、会社の財産と従業員が挙げられる。破産する際は、負債を帳消しにするために、すべての財産が現金化されて、債権者への支払いなどに充てられる。会社自体が残らないため、個人破産のように自由財産を残す必要がない。
財産を換金して生まれた現金は、会社との雇用関係が終了する従業員への賃金や退職金にも充てられる。ただし、十分な額の現金が残らなかった場合は、従業員への未払い賃金などが発生する。
会社破産のメリット・デメリット
会社破産には、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。主なものを紹介する。
会社破産のメリット
会社破産により得られる最大のメリットは、経営者が精神的な苦しみから解放されることだろう。経営不振に陥っている会社の経営者は、融資先や従業員の給料などについて、朝から晩まで頭を悩ませている。返済が滞れば、債権者の取り立てに追われることも考えられる。
個人破産でよく見られるような、闇金業者などからの悪質な取り立てはないとしても、取引先やリース会社などの債権者からひっきりなしに催促を受ける状況は、多くの経営者が精神的なダメージを受けるだろう。経営者の家族に対しても、悪影響を及ぼしかねない。このような状況から抜け出せることは、大きなメリットと言える。
ゼロから再出発できることも、会社破産のメリットだ。会社が破産しても経営者が消滅するわけではないため、新たな会社を立ち上げて別の事業に着手したり、会社員になったりと、個人としてやり直せることも大きなメリットと言えるだろう。
会社破産のデメリット
会社破産を行うことで、会社自体や会社のさまざまな財産をすべて失うことになる。何代にもわたって引き継がれてきた会社なら、自分の代で会社を終わらせることは無念だろう。苦しみから解放される代償として、それまで築き上げてきたものがなくなることも忘れてはならない。
世間からの信用を失いかねないことも頭に入れておこう。個人として失うものはなくても、「会社を破産させた経験がある人」というレッテルを貼られることは、新しく事業を起こす際に足かせとなる可能性がある。
また現在の制度においては、多くの中小企業で経営者が会社の負債を個人保証する形をとっている。個人保証とは、借入の際に経営者が連帯保証人になることであり、借入がある会社のほとんどは経営者が保証人となって銀行や公庫からお金を借りている。
会社破産自体は経営者に何の影響も与えないが、経営者が個人保証している場合は、会社破産に伴って経営者も個人破産しなければならないケースが少なくない。
会社の経営が苦しくなると、経営者個人が消費者金融などからお金を借り、会社の運転資金に回すケースも多い。このような場合も、会社破産と同時に個人破産に追い込まれる。
個人破産はすべてを清算できる会社破産と異なり、滞納税や健康保険料などは免責の対象にならない。ブラックリストにも掲載されてしまうなど、その後の人生に大きな影響を与えるおそれがあるため注意が必要だ。
破産以外の「倒産」方法3つ
業績不振によって債務の返済が困難になり、事業を続けられない状態のことを一般的に倒産という。倒産する会社が選択できる、破産以外の法的な再生方法を確認しておこう。
1.民事再生
法的な再生方法としては、最も一般的である。民事再生法に基づいて手続きが進められ、個人事業主から株式会社まで利用できる。民事再生のメリットは、現在の経営陣が会社の経営を引き続き主体的に行えることだ。財産を管理処分する権利も、現経営陣が有する。
自社資本や営業利益を使って自力で債務を弁済する方法のほかに、自社のスポンサーへ事前に再生計画を提示し同意を得て進める方法や、民事再生後にスポンサーを探す方法などがある。
2.特別清算
債務超過の疑いがあり、通常の清算手続きを行えない株式会社が、裁判所の関与のもとで清算を行う方法だ。株式会社のみが選択できる方法であり、清算方法としては破産と似た側面を持つ。
破産の際は破産管財人が処理を進めるのに対し、特別清算の場合は特別清算人が進めることが大きな違いである。通常、破産管財人は弁護士が選任されるが、特別清算人は会社の元代表がそのまま就任することが多いため、自主的に清算を進められることがメリットである。
3.会社再生
株式会社のみが行える方法であり、特に大企業で行われるケースが多い。原則として経営陣の総入れ替えを必要とするほか、更生計画案により100%減資され、株主にも大きな影響を与える。
担保権の取り扱いに関しても、民事再生では担保権が別除権として扱われるのに対し、会社再生の場合は担保権も更生担保権として手続きに取り込まれる。したがって、担保権者であっても手続外で優先的に債権を回収することはできない。
破産手続きの流れ
会社が破産する場合は、どのようなステップで進められるのだろうか。順を追って紹介する。
- 必要書類や資料などを収集し、破産申立の準備をする。
- 裁判所に申し立てを行う。一般的には、弁護士が代理で行うことになる。
- 裁判官による破産審尋が行われる。経営者も面談に参加する必要がある。
- 破産手続きが開始され、破産管財人が選任される。
- 破産管財人による調査が行われ、財産は可能な限り現金化される。
- 調査や現金化と平行し、必要に応じて何度か債権者集会が開かれる。
- 換金終了後、各債権者に法的な順序で配当が行われる。
- 換金・配当が終了すれば破産手続きが完了し、法人が消滅する。
破産にかかる費用
会社破産にかかる費用は、実費と弁護士費用に分けられる。実費は裁判所に支払う各種費用であり、弁護士に手続きを依頼しない場合でも発生する費用だ。金額の目安としては、申立印紙代が約1,000円、官報公告予納金が約1万5,000円、破産管財人の予納金が約20万円~となっている。
破産管財人に対する予納金とは、最低報酬を保証するためのお金であり、案件が複雑になるほど高額になる。大きな破産事件の場合は、100万円以上かかるケースもある。弁護士に手続きを依頼する場合は、着手金として支払う弁護士費用も必要になる。相場は最低50万円ほどで、案件の規模や複雑さによっては、さらに高額になる。
なお法人破産の手続きには、マニュアルに沿って進められ比較的短期間で終了する「少額管財」と、ある程度の時間を必要とする「一般管財」がある。前述の予納金や弁護士費用の目安は、少額管財の場合のものだ。多くの事案は少額管財で済むが、大企業が破産するようなケースでは一般管財となり、費用もさらに高くなる。
破産を成功させるポイント
破産手続きの際は、各種契約の処理を確認されるため、事前にできることは済ませておこう。賃貸借契約の解約で戻ってきた保証金の明細など、裁判所から聞かれそうなものはきちんと保管しておくことが重要だ。リース契約や光熱費・通信契約の解除、売掛金の回収、従業員との雇用契約の解除なども、事前に済ませておく必要がある。
また、会社の財産を不当に安く売却したり、第三者に無償提供したりすると、破産管財人が否認権を行使し、行為の効力が失われることがあるため注意しよう。否認権を行使されると、売買や贈与の効果を失うばかりでなく、犯罪行為と見なされるおそれもある。
特定の債権者にのみ債務の返済を行ったり、会社の不動産隠しを行うために名義を変更したりする行為も不正行為に該当する。法人破産では、個人破産のように免責不許可事由を気にする必要はないが、不正には刑罰が科される場合があることを覚えておこう。
万が一に備えて
会社破産は、経営者が再起できる最も有効な方法の一つである。失うものも大きいが、会社を残そうとしてさらに状況が悪化することを防ぐ意味でも、選択肢の一つとして頭に入れておこう。
破産手続きは専門的な知識や経験を求められることが多いため、専門家に相談するのがおすすめだ。精神的に追い詰められる前に弁護士などに相談すれば、後はほぼすべての手続きを進めてくれるため、気持ちも楽になるだろう。(提供:THE OWNER)
文・八木真琴(ダリコーポレーション ライター)