要約

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

信用と設備投資の堅調なサイクル、政府・日銀の政策などが支えとなり、デフレ完全脱却の方向性は維持されるだろう。企業活動活性化と財政拡大によるネットの資金需要の復活を前提条件として、それをマネタイズして働く金融緩和の効果も強くなり、マネーが循環拡大する力のリフレサイクルも強くなるだろう。内需とマネー拡大の力をコンセンサスより強くみている。新型コロナウィルスの感染者の再度の増加で警戒感が残って経済活動の回復が後ずれしている。しかし、重症者や死者はそれほど増加しておらず、経済活動の回復は続き、年末と来年前半に2度の経済対策も実施されるだろう。年後半以降の成長率はペントアップ需要もあり強くリバウンドするだろう。オリンピック実施とグローバルな景気回復下の2021・22年には景気はV字回復し、デフレ完全脱却となろう。企業の成長期待の上振れによる投資拡大をともなう内需主導の自立的な成長となろう。

成長-外需から内需主導の自立的な形に進化しつつある

グローバルな景気見通しは更に弱くなり、国内でも新型コロナウィルスの感染者の再度の増加で警戒感が残って経済活動の回復が後ずれするため、2020年の実質GDP成長率を-3.1%から-3.9%へ下方修正した。しかし、重症者や死者はそれほど増加しておらず、経済活動の回復は続き、年末までには更なる経済対策も実施されるだろう。年後半の成長率はペントアップ需要を含めて強くリバウンドするだろう。堅調な雇用所得環境に支えられ、新商品・サービスの投入もあり、消費は回復していくだろう。企業の設備投資サイクルも堅調さを取り戻すだろう。原油安などによる交易条件の改善も支えだ。グローバルな景気回復の後ずれを反映し、オリンピックが開催される2021年の成長率は+3.3%から+3.6%へ上方修正した。2022年にデフレ完全脱却となろう。外需ではなく、消費と設備投資が両輪の内需拡大が成長を自立的に牽引するだろう。

図)GDPの内訳

GDPの内訳
(画像=内閣府、SG)

労働: 信用サイクルに支えられ景気は回復のないL字型を回避

日本経済は輸出・製造業から内需・サービス業中心に変化し、在庫サイクルより信用サイクルの影響を強く受けている。日銀短観中小企業貸出態度DIは、信用サイクルとして、雇用の拡大を牽引するサービス業の動向を表し、失業率に明確に先行する。DIは異次元な金融緩和などでバブル崩壊後の圧倒的な高水準に到達し、信用サイクルは既に天井を打ち破った。ウィルス問題が下押しリスクだが、政府・日銀は流動性対策を既に大幅に拡充した。DIは改善しており信用サイクルは腰折れず、景気が回復のないL字型となるのは回避されるだろう。ウィルス問題終息後に企業活動は再活性化し、失業率が2%程度に低下する中で賃金上昇が強くなり、内需は強く拡大するだろう。技術革新は労働生産性向上の力になり、実質所得を増加させるだろう。

図)日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率

日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率
(画像=総務省、日銀、SG)

企業:設備投資サイクルが強くなり景気回復はV字型に

異常なプラスの企業貯蓄率が示す弱い企業活動が、総需要を破壊する力として内需低迷とデフレの長期化の原因だ。アベノミクスによる内需の回復、労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発などにより、企業貯蓄率はマイナスに向けた低下トレンドに入るだろう。設備投資サイクルを示す実質設備投資のGDP比率はバブル崩壊後初めて16%の天井を打ち破り、企業の成長・インフレ期待が上振れ始めた。ウィルス問題下でも生産性向上のための企業の投資活動は堅調であるようだ。企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、経済対策の効果と合わせて、景気回復をU字型からV字型に変えるだろう。外需の弱さに対して内需は強く、貯蓄・投資バランスとして、国際経常収支の黒字額を抑制してくだろう。

図)設備投資サイクル

設備投資サイクル
(画像=内閣府、総務省、SG)

潜在成長率:雇用から資本へのバトンタッチ

潜在成長率はアベノミクス後に+1%程度への緩やかな上昇が続き、構造的回復が進行しつつある。労働投入量の寄与度がプラスに転換し、アベノミクスの成長戦略の柱である女性・高齢者・若年層の雇用拡大が進行し、少子高齢化による長期低迷からの脱却を示す。現在はウィルス問題で潜在成長率は一時的に低下したとみられる。労働需給逼迫による効率化・省力化の必要性、コスト削減が限界になる中で利益率を更に上昇させる新商品・サービスの開発の必要性が企業の投資行動を刺激し、いずれ資本投入量の押し上げが更に強くなるだろう。ウィルス問題終息後に企業の期待成長率の上昇が明らかになるだろう。最終的に、投資活動とイノベーションで生産性が大きく押し上げられれば、人口減少でも成長を続けることができるようになる。

図)潜在成長率

潜在成長率
(画像=内閣府、SG)

表)日本経済見通し

日本経済見通し
(画像=SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司