10月1日に発表が予定される日銀短観9月調査は、大企業・中小企業ともに、業況判断DIのリバウンドが予想される。半面、事業計画などでは、依然として先行きの需要の弱さが意識されると予想される。短観は、次期政権が誕生してから初めての大型経済指標になるので、政府にその結果がどのように受け止められるかも注目される。

見通し
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リバウンドが進む

前回6月の日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが▲34(前回比▲28ポイント悪化)と劇的に悪化した。次回9月調査は、最悪期を脱して大幅にリバウンドして、業況は▲24へと+10ポイントほど改善する予想である(図表1、2、3)。鉱工業生産統計をみると、7月から生産回復が進み、予測指数でも8・9月と回復傾向は続く見通しになっている。自動車の生産再開が大きく牽引し、中国など海外の生産活動も回復が進んでいる。半導体需要も増加してきており、筆者は製造業のマインド回復が進んでいるとみている。これが、業況判断の改善にどこまで反映されるかが注目される。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所
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非製造業については、筆者は回復が遅れるのではないかという見方を持っていた。しかし、月次調査のクイック短観では、8・9月がともに予想外に回復する結果となっている。そこで、今回の予測では、非製造業でも割とリバウンドが進んで、業況判断DIは▲4と前回▲17から+13ポイントも回復する予想した。とはいえ、非製造業では、旅行レジャー・飲食など個人サービスが依然として需要不足に苦しんでいる。改善するのは、4・5月の緊急事態宣言によって、人為的に活動が抑え込まれた事業所サービスの分野だろう。最近でも、企業間取引は活動量が増えている。従って、BtoBの分野を中心に、非製造業でもかなりの業況改善が見込めるのではないか。

2020年度事業計画と雇用悪化

短観での注目点は、企業の慎重な見方が、2020年度あるいは2020年度下期にどのように表れているかという点にある。確かに、マインド面では最悪期を越えたことへの安心感が示されるだろうが、これで大丈夫という感覚にはほど遠いだろう。なぜならば、多くの企業は、今後の需要回復が鈍いとみると考えられるからだ。2020年度の売上・経常利益計画では、コロナ感染が峠を越えたとしても、依然として売上減・利益減が続くような見方が、数字に表れてくるに違いない。それを製造業・非製造業ごとにつぶさに確認していくことが、短観を分析する際には重要になってくる。

もうひとつ、目下の注目点は、今後到来する雇用悪化の度合いを考えることである。今のところ、労働力調査などの雇用データはほとんど悪化していない。しかし、水面下では巨大な調整圧力が生じていることは間違いない。だから、日銀短観の雇用判断DIでは、その余剰感に注目して、今後の雇用悪化の度合いを見定めておく必要があるだろう。

設備投資計画は堅調

短観の各種データで堅調なのは設備投資であ る。大企業の製造業・非製造業はともに2020年度の設備投資計画は、6月調査でプラスを維持した。毎回の修正状況から予想すると、9月調査は引き続きプラスを維持するものの(図表4)、6月調査から下方修正となることが見込まれる。

第一生命経済研究所
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これだけ需給ギャップが広がってしまうと、 それが設備投資の過剰感となり、更新投資を含めて新規設備投資に慎重になってもおかしくないからである。特に、中小企業などのダウンサイド・リスクにはより大きくなるとみられる。

短観は景気判断の有力材料

10月1日に短観が発表されると、そのタイミングは次期政権が誕生して初めての大型経済指標ということになる。自民党総裁選では、4~6月の実質GDPが前期比年率▲28.1%と大幅に下落したことへの言及が多かった。そこから、一転して景気がリバウンドしていることは、次期政権が新たに景気認識を行うときに有力な判断材料となるだろう。おそらく、危機対応の無利子無担保融資や、持続化給付金などの効果が、景気悪化に歯止めをかけたと評価されると考えられる。

また、日銀にとっても、追加緩和を短観結果で急かされるというよりは、一定の成果を確認する方向になろう。そして、リバウンドの具合から、長期戦への対応としてどんな金融措置措置をオペなどを通じて行えばよいかを再検討することになろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生