ちょうど10年前の2010年に「次の10年の住宅産業」と題して当該コラムを投稿した。どうしてこうも、小職が投稿する時に大きな「インパクト」が起こってしまうのだろうか。景気や時代の波が繰り返さているなか、改めて「次の10年(2020年代)の住宅産業」を予測していきたい。
2010年代の新設住宅着工の平均は、91.0万戸(年度計平均)
リーマンショック後の2009年度の新設住宅着工数は、約77.8万戸となった。「もう年間100万戸に戻ることはない」と思いつつ、徐々に年間80万戸、70万戸台に落ち込んでいくものと予測をしていた。
結果的には、100万戸に回復することはないという部分だけが当たったものの、80万戸台が5回、90万戸台が5回となり、2010年代の平均は90万戸を超えた。2000年代の平均が112.8万戸だったことを考えれば、10年間で着工数(総数)が約2割減少している。この傾向が次の10年間に当てはめると、2020年代は「年平均73万戸」と計算される。仮に、新型コロナウイルスの影響を大きく受けている2020年度でも80万戸台の着工数となる見込みである(国土交通省「住宅着工統計」7月末時点の季節調整値年率を参照)。それが、2020年代は「年平均73万戸」となるとすると、2020年代後半には60万戸台に突入していることになる。年間70万戸とすると、月平均5.8万戸となり、コロナ禍による緊急事態宣言下にあった2020年5月単月の着工数約6.3万戸より5,000戸程度低い(約1割減)数字となる。したがって、このような厳しい状況を想定しながら、次の10年を見据えた事業計画を立てる必要がある。
ウィズコロナ/アフターコロナで変わる住宅トレンド
この10~20年は「職住近接」がトレンドとなり、都市部へ人口の集中が一段と進んだ。タワーマンションはその一つの象徴ともいえる。その一方で、地方移住といったニーズも徐々に増えつつあった。ただし、その場合には多くが現在の仕事から離れる(脱サラ・離職等)ケースが多かった。
コロナ禍での「新しい生活様式」として、リモートワークが推奨されたことによって、「オフィスで仕事をしなければいけない」という見えない呪縛から解き放たれ、在宅勤務が一気に加速した。これによって、「住with職」というワークスタイルに異を唱える固定観念がなくなったことによって、ワークスタイルの幅が一気に広がった。これらの変化は今後脱サラせずに、「with職(サラ)」しながら地方移住という選択肢が広がったといえる。人口の地方への移動が増えることで本当の意味での「地方創生(再生)」が現実味を帯びてきた。次の10年では人口減が加速する地方において、少しでもその歯止めをするためにも、就業環境の整備は一つのポイントと考えられる。
また、住宅の室内にも大きな変化がある。住宅に求める空間として「ワークスペース」という考え方がトレンドとなっている。「3LDK+W(Workspace)」といった間取りや、「LDKW」といったリビングダイニングキッチンでありながらワークスペースにも対応できるインテリアや仕事空間の演出といったことが当たり前のように求められるデザインが今後のトレンドになると考えられる。
このように、住まいで働くスタイルを考える住まい手は、在宅時間が長くなることから、より住宅に快適性を求め、仕事のしやすい環境を整えることになり、より「住まい方」や「住まい」そのものに投資するものと考えられる。そして、そのような傾向は新築住宅だけではなく、現在居住の住宅リフォームや、住み替え等による中古住宅購入時のリフォームなどにも浸透していくであろう。
これまでは「家」の住まい環境への無関心が、住宅の質の向上に繋がっていなかった。新型コロナウイルスを契機とした変化の波を利用して、日本の住文化を大きく変えるチャンスがやってきたと考えられる。
次の10年は、住宅着工数が大きく減少するという「ピンチ」にあって、住宅産業にとっての最大の「チャンス」がやってきたといえる。単なる住宅物件の紹介をするだけではない、住宅のスペックを理解(インスペクション)し、新しい生活スタイルに見合った住まい方を提案できる企画提案型の住宅提供事業者(住宅プロデューサー/住宅コンシュルジュ:新築や中古住宅を問わず、物件からインテリア・住まい方を提案する事業者)がこれからの住宅産業に必要になるものと考える。
住宅産業も「サブスクリプション型」へ
生活や働き方の多様化が進むことで、「定住型の住まい」にこだわる層は一定数減少していくことも考えられる。住宅も「所有」から「賃貸(利用)」という方向に進むことが考えられる。ただし、現在の一般的な賃貸住宅の契約期間は2年程度となっている。子育てのステージや転職など、様々なライフイベントに見合った場所・サイズ・住宅の種類を選びたいというニーズと、賃貸住宅の契約更新期間が現実的にマッチしていないといった声も聞かれる。そこで、サブスクリプション型の住宅利用というビジネスも視野に入れて検討すべき時代になったといえる。多居住型のサブスクリプションサービスはいくつかあるが、時間軸でのサブスクリプションサービスは今のところない。従来型の賃貸ではなく、次の時代のニーズにあわせた新しい住宅利用の在り方が問われている。従来までの商習慣などが根本から崩れるという思考回路のチェンジができるだろうか。。。次の10年の住宅産業の命運はこの部分にかかってきていると考える。
2020年9月
理事研究員 菅原 章