新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、アパレル業界の上場企業において初となる「コロナ倒産」が大手アパレル会社のレナウンで起こった。アパレル業界における同社の頓挫は「終わりの始まり」に過ぎず、アパレル大量倒産がこれから本格化する可能性も否定できない。

コロナ禍でのアパレル企業破産の危機!レナウンが民事再生法適用へ

アパレル
(画像=zephyr_p/stock.adobe.com)

英国の名門ブランド「バーバリー」と袂を分かって以来、アパレル大手の三陽商会が業績不振に苦しんできたことは広く知られているが、同業のレナウンが2020年5月15日に東京地裁に対して民事再生法の適用を申請したというニュースは、まさに青天の霹靂だったのではないだろうか?

レナウンの凋落は栄枯盛衰の典型的パターン

民事再生法はいわゆる「再建型」の法的整理であり、レナウンという会社自体は今後も存続することになろう。原則として、現経営陣がマネジメントを継続することも可能だ。とはいえ、裁判所によって監督委員が選任されるケースが多く、民事再生法の適用後は、経営陣だけで経営に関わる重要事項を決めることは難しくなる。

経営の継続が望ましくないと裁判所側が判断すれば、経営権が管財人に移ってしまうし、監督委員の同意を得ずに経営陣が身勝手な行動に出た場合には、再生手続きが中止されて裁判所の権限によって破産が宣告されることもある。

しかも、アパレル業界大手で起こった民事再生法適用の申請は、レナウン自らが申し出たものではない。レナウンの子会社で、債権者であるレナウンエージェンシーによって申請されたのだ。

言ってみれば、子会社によって経営続行が不可能だとタオルが投げ込まれ、試合終了のゴングが鳴ったわけである。コロナ禍におけるアパレル大手企業レナウンの負債総額は、138億7,900万円に上った。

これから先は長く険しい経営再建の道のりが待ち構えているわけだが、レナウンの凋落は栄枯盛衰の典型的パターンとも言えるだろう。かつての同社は、アパレル業界における絶対王者として君臨していたからだ。

アパレル業界の中でバブル期には世界最大企業として栄華を極める

レナウンの前身は、アパレル業界における伝説的な経営者である佐々木八十八氏によって、1902年に創業された繊維雑貨卸売業「佐々木営業部」である。レナウンという商標を用いるようになったのは、昭和天皇が皇太子時代に英国を訪問した答礼として、1922年に英国皇太子(後のウィンザー公)が訪日したのがきっかけだという。

レナウンの歴史

社名は、英国皇太子が乗船していた超弩級戦艦の船名「レナウン号」が由来となっている。もともと船名は縁起がよいものと考えられていたうえ、レナウンという言葉には「名声・栄光」といった意味がある。当時、繊維産業の先進国であった英国にあやかるという思いも込めて、英国皇太子来日の翌年に商標として採用した。

第二次世界大戦の影響でいったんは会社が消滅したものの、終戦直後に再発足。1960年代を迎えると、アパレル業界におけるレナウンの快進撃が始まった。

テレビ普及の時代をいち早く予見し、積極的に番組提供スポンサーになって知名度の拡大を図った。小林亜星氏が作曲したCMソング「ワンサカ娘」が話題を集める一方、テレビCM「イエイエ」が大流行し、全日本CM協議会においてグランプリも受賞している。

1970年代に入ってからは紳士服の分野にも進出し、今日のダーバンへとつながっている。また、傘のマークで知られるゴルフウェアブランド「アーノルドパーマー」も大ヒットを遂げ、1980年代後半から日本がバブル経済に突入していく最中で、レナウンの栄華はクライマックスに達した。

決算期の変更に伴って10ヵ月間という変則決算ではあるものの、2019年12月期における同社の売上高は502億円にとどまり、2期連続で純損失を計上しているが、バブルのピークである1990年の売上高は2,317億円に上った。

レナウンは、日本はおろか、世界を見渡しても最大手のアパレル企業となっていたのだ。しかし、バブル崩壊以降、レナウンは凋落の一途を辿っていく。

百貨店やショッピングモールの長期休業がとどめを刺す

高度成長期に確立された、週末のデパート客をターゲットとした販売戦略が、アパレル業界にとって主流のスタイルであったが、消費者の生活スタイルに変化が生じていったことも、レナウンにとっては大きな試練となった。

同社の隆盛は、デパートの繁栄とリンクしていたのだ。レナウンの店舗を誘致すれば来店客が自ずと集まるので、デパート側は何かと同社の機嫌を取っていた。

失われたデパート文化

デパート文化が花開いている間は、デパートとレナウンのwin-winの関係が続いたが、“失われた20年”と呼ばれる日本経済の長期低迷が、その関係を途絶えさせた。日本経済のデフレが進行するとともに、消費の中心がデパートから郊外型のショッピングモールへとシフトしていったのだ。

大手百貨店の「そごうグループ」が2000年に経営破綻したり、大手デパートの経営統合が相次いだことが象徴するように、バブル崩壊以降にデパートの衰退が始まったのだ。同じ船に乗っていたレナウンが運命をともにするのは、半ば当然のことだったとも言えよう。

レナウンは、2005年に投資ファンドのカレイド・ホールディングスから出資を受けていたが、すぐに底をつき、2010年には中国の繊維大手企業の山東如意科技集団の傘下に入った。2013年には追加出資を受け、山東如意科技集団の子会社となった。

続くレナウンの低迷

これで息を吹き返すかと思いきや、レナウンはさらに低迷し続ける。山東如意科技集団に導かれて中国での出店に注力したものの、完全にアテが外れて計画大幅未達のまま、2014年には中国市場からの撤退を余儀なくされた。

親会社となった山東如意科技集団も、米中貿易戦争の煽りを受けるなどで業績が悪化。その影響からか、山東如意科技集団の子会社である恒成国際発展は、レナウンに対する支払いを果たせなかった。

レナウンはこの売掛金の未回収によって、2019年12月期に53億2,400万円もの貸倒引当金を計上している。恒成国際発展が支払えない場合は、親会社の山東如意科技集団が債務保証をする取り決めが交わされていたが、履行されなかったという。

このような経営状態の中、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言によって、日本中の商業施設が臨時休業を迫られ、レナウンの経営はさらに悪化してしまったのである。依然としてレナウンではデパートにおける売上が大半を占めており、4月の既存店月次売上は前年同期比で約8割も減少した。

SPA(製造小売)の台頭で既存のアパレル全般が劣勢に

こうして振り返ってみると、もともとレナウンの経営はジリ貧であり、新型コロナウイルスの感染拡大は、あくまでとどめを刺しただけにすぎないことがわかる。

SPAに苦戦するアパレル産業

そもそも、米国のGAPや日本のユニクロなどによる、SPA(specialty store retailer of private label apparel:製造小売)というビジネスモデルが台頭して以来、既存のアパレル企業は概して劣勢を強いられてきた。

アパレル商品の企画から製造・小売までを一貫して手掛け、コストはもちろん機会損失や不良在庫のリスクを抑えて高い収益性を保つユニクロなどに対し、昔ながらのテナント商売はあまりにもぜい弱だ。コロナ休業のような非常事態が発生すると、その脆さが露呈してしまう。

コロナ休業はユニクロの既存店売上高にも大きな打撃を及ぼしているが、運営会社であるファーストリテイリングの場合は、川上から川下まで自社ですべてコントロールできる。つまり、経営上の深傷を負わないように迅速な対処が可能なのだが、デパートと運命共同体の既存アパレルはほとんどなす術がないのである。

アパレル業界の中でもデパート出店ブランドは苦戦

東京商工リサーチによれば、デパートにテナント出店している大手アパレル12社の2019年度の本決算は8社が減収、6社が最終赤字となった。増収だった2社は、「23区」や「Jプレス」などを手掛けるオンワードホールディングスと、「パーリー・ゲイツ」や「ジル・スチュアート」などを展開するTSIホールディングスだ。

もっとも、オンワードHDの増収は前期に連結子会社化したギフト関連事業などがけん引したもので、デパートにおける売上は前期比で2ケタの減少となっている。

昨年10月の消費税の増税、暖冬による冬物商戦の苦戦、コロナ休業といった苦難が続いたのも確かだが、大手アパレル12社の売り上げ不振は足元だけの現象にとどまらず、2016年以降顕著になっている。

2020年の夏にアパレルの倒産ラッシュが発生する!?

2020年6月5日には、レナウンの直営工場としてスーツなどを製造していたダーバン宮崎ソーイングが東京地裁に民事再生法の適用を申請し、連鎖倒産の第1号となったが、こうしたアパレル業界での連鎖倒産が広がることも懸念されている。新型コロナウイルスによる休業に伴う2020年4〜5月の売上喪失が夏場に経営を直撃する可能性があり、アパレル業界にとって正念場となりそうな気配だ。

決して大袈裟な話ではなく、コロナ禍に起因するアパレルの破産ラッシュが勃発しうるわけである。経営破綻は免れたとしても、異業種によるM&Aや弱者同士の合従連衡といった動きが活性化することも考えられよう。

いずれにしても、アパレル業界に大きな変化の波が押し寄せていることは間違いない。一方で、生活に必要な衣食住の一つに該当する衣料品へのニーズが消失することは考え難く、先々を見据えれば、SPAをさらに深化させたような新しいビジネスモデルのアパレル企業が登場する可能性もあるだろう。(提供:THE OWNER

文・大西洋平(ジャーナリスト)