(本記事は、中山 亮氏の著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』2020年8月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

マニュアルとトリセツはどう違う?

社長、僕らをロボットにする気ですか?
(画像=marzky-ragsac-jr/stock.adobe.com)

いかがでしょう。
世の中、マニュアルによって受けている恩恵はたくさんあるんです。

なんとなくマニュアルの存在意義や本質的な意味がおわかりいただけたでしょうか。

「マニュアルはそんなに″悪者″じゃないな」と思えるようになってきましたか?

では、ここからはもっとビジネス寄りの視点でお話ししていきましょう。

本来、マニュアルが一番″輝く″べき「仕事」というフィールドです。

改めて聞きます。あなたの会社で、マニュアルはどの程度導入されていますか?会社にはどんなマニュアルがありますか?

そのマニュアルはどういう内容ですか?マニュアルがある会社も少なくはないと思いますが、たいていのマニュアルは「取扱説明書」のような内容ではないでしょうか。電化製品などについてくるアレですね。いわゆる「トリセツ」です。

家電のトリセツは、主に製品の構造やその機能を説明するものです。「電源のスイッチはこれです」「扉を開けるにはこのボタンを押してください」「掃除の際にはこのカバーを外してください」など、その家電の使い方が書かれています。

でも、仕事において、「このスイッチは電源です」という記述があっても仕方がありません。なぜなら、「パソコンを使って資料を作る」という仕事はあっても、「パソコン(そのもの)を使う」という仕事はないからです。仕事で必要なのは、「製品の使い方」ではなく、「その製品で何をするか」「今やりたいことに製品をどう使うか」ということです。

つまり、マニュアルには「機能の使い方」ではなく、「その機能を仕事でどう使うか」が書かれていなければなりません。それがないマニュアルは、よいマニュアルではないと言えます。

シンガーソングライター・西野カナさんの歌に『トリセツ』という歌があります。

「不機嫌になったら、とことん付き合ってあげましょう」とか、「小さな変化にも気づいてあげましょう」とか、「何でもない日にちょっとしたプレゼントをあげると効果的」などというように、女性が男性に対して、自分をどう取り扱ってもらいたいか、どう取り扱ったら喜ぶか、ということが歌われています。

その歌詞を見たとき、トリセツの意味がよくとらえられていて驚きました。

トリセツは、言ってみれば「作った側の観点」で書かれたものです。『トリセツ』の歌詞には、「私のことはこう取り扱ってね」ということが書かれているわけですが、まさに″私目線″の内容です。

でも、マニュアルはそうではありません。というか、そうであってはいけません。

マニュアルは「相手側の観点」、つまり使う側の立場で書かれていなければダメなんです。

トリセツの「私のことはこう取り扱ってね」というスタンスに対して、マニュアルには「あなたはこう動けばいいんだよ」というスタンスが求められます。

それに、″私目線″で書かれたトリセツは、作った側の要望や希望が並べられていますが、それを実行する側は結構大変です。要望や希望が多いほど迷いますし、負担も大きくなります。

けれどもマニュアルは、使う人が迷う必要のないところで時間を浪費せず、楽に動けるようになるために存在します。

そこがトリセツとマニュアルの大きな違いです。

また、実際のところ、家電を買った後で、トリセツを隅々まで読んでから製品を使う、という人は少ないんじゃないでしょうか。

たいていの家電は、基本的な機能なら、トリセツを読まなくても本体を見ただけで感覚的に使えます。エラー表示が出たり、「故障かな?」と思ったときに初めてトリセツを見た、というのもよく聞く話です。きっと、どこのご家庭でも、ビニールに入ったままでしまわれているトリセツがあるんじゃないかと思います。

トリセツがそんな扱いを受けるのは、使う側に「読まなくても使える」「使っていればそのうちわかる」という意識があるからです。

しかし、マニュアルがそうなってはいけません。

たとえば、何かの製品を利用するマニュアルの場合、その製品の利用目的を達成するために、誰でも、何度やっても同じ使い方ができるような内容のマニュアルになっている必要があります。

目的達成のために、その製品を正確に、確実に、合理的に使えるように書かれているべきですし、必ず読まれるような内容、状態になっていなければならないんです。

そして、マニュアルを見れば、悩んだり、迷ったりすることがなくなり、使う人が確実に楽に動けるようになる。それが本来の正しいマニュアルです。

そのような正しいマニュアルであれば、使う人は毎回マニュアルを見ることになります。

だって、マニュアルどおりにやれば、仕事を確実に、しかも楽にこなせるようになるんですから。ビニールに入ったまま、しまい込まれるようなマニュアルではダメなんですね。

″目的″に応じた″行動″が明示され、
求められる″結果″を、
誰もが″再現″できるツール

これが、本来の正しいマニュアルの姿です。あなたの会社のマニュアルは、きちんと当てはまっていますか?

ところで、この『トリセツ』という歌は西野カナさん自身が歌詞を書いているようです。

彼女、若いんですよね。毎日マニュアルに囲まれているうちの会社の社員ならともかく、若い彼女がこんな″渋い″歌詞を歌にするなんて逸材すぎます。

うちの会社に来たら、間違いなく即戦力です。

ぜひ一度、マニュアルとトリセツのあり方についてお話ししてみたいところです。

「型」には「箱」と「基本」がある

「組織をもっと効率化させたい」

営業の現場で、お客様からよく伺う言葉です。

その具体的なアプローチとして、マニュアルの導入を考えるのは正しいことだと思います。

しかし、残念なことに、多くの方がこう考えているようなんです。

「組織を効率化する」=「社員を型にはめる」ものだと。

結論から言うと、社員を型にはめようとして作るマニュアルは、企業の中で定着することはありません。なぜなら、型にはめられる側である現場の人たちからすれば、決して気持ちのいい施策ではないからです。

当然ですよね。これこそ、まさにみなさんが嫌がる「ロボット化」ですから。

現場での理解が得られない状態では、マニュアルを定着させるのはまずムリです。

そのうえで言います。

僕たち2.1では、「マニュアル=型」と考えています。

ただし、この「型」は「型にはめる」という意味での型じゃありません。

型には2つの意味があります。

ひとつは「箱」です。

箱には、「決まった大きさ」や「サイズ」、「規格」などというイメージがあります。「型にはめる」という場合の型は、こちらの意味で使われるものです。

もうひとつの意味は「基本」です。

これは、武道や伝統芸能、スポーツなどで規範となる方式を指します。名人や師範などによって生み出された技法、表現形式のことで、いわゆる「規範動作」です。

型と聞いて、空手の型を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、まさにそれです。

空手の型には、その長い歴史の中で、磨かれ、受け継がれてきた「技」と「心」の″基本″が詰まっています。そして、それが空手の″極意″にも通じています。型こそ基本であり、すべてのよりどころなわけです。

つまり、「マニュアル=型=基本」なんです。

型には「目的×行動×結果」が入っているべし!

ただし、2.1が考える型は、武道などの型と少し違うところがあります。

マニュアルの作り方については第三章で詳しく説明しますが、2.1のマニュアルで大きなポイントとなるのが、次の3つの要素です。

①目的
②行動
③結果

2.1が作るマニュアルには、この3点の要素が必ず入っています。

これがどう重要なのか、具体的に説明しましょう。

たとえば、飲食店の業務として「トイレ掃除」がありますね。トイレ掃除は「何のためにやるのか?」といえば、「お客様がいらしたときに、トイレがキレイだと気持ちがよく、おもてなしの気持ちを表すことにもなる」ためです。これが①の「目的」です。トイレ掃除に取り組む「姿勢」と言ってもいいでしょう。

次に、「どのように掃除するのか?」といえば、「モップで床を水拭きする」「ぞうきんを替えて3回磨く」など、掃除の手順や方法が挙げられます。これが②の「行動」です。

業務の「目的×行動」を明確にすること。

マニュアルの基本ですね。

でも、世の中のマニュアルには、この基本的なポイントすら書かれていないものがたくさんあります。

さて、掃除を担当したスタッフが、「掃除、終わりました。1時間かけてピカピカにしました!」と報告したとします。

ピカピカのトイレ。仕上がりとしては申し分ありません。

でも、それでいいんでしょうか?

トイレ掃除に1時間?

いやいや、あり得ません。

ほかにも仕事がたくさんあるのに、トイレ掃除に1時間もかけている場合ではないんです。

そのマニュアルには何が足りなかったんでしょうか?

それが③の「結果」です。

その業務の「所要時間」や「期限」、終わった後の「状態」も明確になっていなければ、作業時間は5分で早いけど雑に終える人、丁寧だけどのんびりやって1時間で終える人、というように、担当者によって程度やクオリティに違いが出てきます。

個人の力量や読解力によって業務の結果が変わってしまうマニュアルは、いいマニュアルではありません。トイレ掃除の場合、たとえば「掃除時間は15分で」(所要時間)、「開店30分前までに(期限)、「床、壁、便器、洗面台を清掃し、トイレットペーパーの交換・補充ができている」(状態)、というように、その業務に対する結果設定をすることが重要です。

このように、「目的×行動×結果」という3つの要素のかけ算が、2.1のマニュアル=型なんです。

一方、武道の型の場合、含まれる要素は「目的×行動」の2つです。

僕はずっと剣道をやっていたんですが、たとえば「面打ち」の練習では、「何秒以内に何回振る」とか「何分間振りつづける」というように、「目的」とそれに対する「行動」がすべてでした。「剣道がうまくなる」ということが「結果」といえばそうかもしれませんが、明確なゴールがわかりません。「いつかうまくなる」というぼんやりした目標に向かって頑張りつづけるのはしんどいものです。

それに、たとえば空手の型を一生懸命やっても、それで試合に必ず勝てるかどうかはわかりません。でも、型=マニュアルは、「勝つこと」を結果として設定します。試合に勝つことが前提にあるわけです。

これが、2.1の型と武道の型との違いです。

ちなみに、トリセツにはほとんど「行動」しか入っていません。

社長、僕らをロボットにする気ですか?
中山 亮
株式会社2.1代表取締役
内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー
長崎大学大学院を修了後、株式会社アルファシステムズに入社。SEとして従事。その後、株式会社リクルート、プルデンシャル生命保険株式会社に勤務。住宅情報誌の提案営業でのMVP受賞、業界の上位1%の保険営業マンに贈られるMDRTの称号などを獲得後、部下のマネジメント業務を行いながら組織づくりにおけるマニュアルの重要性に気づく。しかし、多くの企業に戦略的なマニュアルが無く、そのことで生産性が妨げられ、人材の活躍までも妨げられている事実に気づき、2014年、企業の人材育成や業務の改善を、マニュアル導入によって実現するサービスを発案し、株式会社2.1を創業。代表取締役に就任。これまで500社以上の企業に対し、マニュアルによる業務改善を行い、2019年より、内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザーに就任。

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