シンカー: Go to トラベルなどの特殊要因があった旅行関連以外の財・サービスには価格引き下げの大きな動きはみられていない。自粛ムードが続く中では、値下げに対して消費者が強く反応することは期待できない。一定量の需要が確保できているのであれば、価格を引き下げず、売上高を維持しようと企業は考えるだろう。需要の大きな減少は物価下落圧力だが、需要の価格弾力性が大きく低下していることが逆に物価を支える方向に作用しているとみられる。企業は販売数やシェアより利益率を重要視するようになり、一時的な需要の弱さによる値下げに踏み切るハードルを上げ、価格弾力性を考慮した価格戦略が広がるとみられる。需要の回復とともに、供給対比での需要の強さが生まれ、物価動向はデフレよりもインフレへの方向性も持つ可能性がある。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

シンカー: Go to トラベルなどの特殊要因があった旅行関連以外の財・サービスには価格引き下げの大きな動きはみられていない。自粛ムードが続く中では、値下げに対して消費者が強く反応することは期待できない。一定量の需要が確保できているのであれば、価格を引き下げず、売上高を維持しようと企業は考えるだろう。需要の大きな減少は物価下落圧力だが、需要の価格弾力性が大きく低下していることが逆に物価を支える方向に作用しているとみられる。企業は販売数やシェアより利益率を重要視するようになり、一時的な需要の弱さによる値下げに踏み切るハードルを上げ、価格弾力性を考慮した価格戦略が広がるとみられる。需要の回復とともに、供給対比での需要の強さが生まれ、物価動向はデフレよりもインフレへの方向性も持つ可能性がある。

8月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比-0.4%と、2か月連続の0.0%の後、3か月ぶりに下落に転じた。

8月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)は同-0.1%と、7月の同+0.4%から低下し、2017年4月以来の下落となった。

確かに、新型コロナウィルス問題による経済活動の停滞で、需要が大きく減少し、物価には強い下落圧力がかかっているように見える。

しかし、8月のお盆休暇の宿泊などの旅行関連の価格の季節的な大きな上昇が、今年は旅行客の減少により抑制されたテクニカルな要因の影響が大きかったとみられる。

更に、Go to トラベルによるキャンペーンが価格の引き下げととらえられた。

宿泊料が同-32.0%となり、Go to トラベルの影響を除くとコア消費者物価指数の前年同月比を0.0%となり、下落のすべてを説明できる。

一方、その他の財・サービスには価格引き下げの大きな動きはみられていない。

自粛ムードが続く中では、値下げに対して消費者が強く反応することは期待できない。

一定量の需要が確保できているのであれば、価格を引き下げず、売上高を維持しようと企業は考えるだろう。

需要の大きな減少は物価下落圧力だが、需要の価格弾力性が大きく低下していることが逆に物価を支える方向に作用しているとみられる。

今後は、新型コロナウィルス問題の終息の方向性が見えてくれば、需要は通常の生活を取り戻す中で、雇用・所得が維持されていることにも支えられ、しっかり回復していくとみられる。

更に、グローバル生産体制のリスクの見直しと改変が進行する可能性がある。

危機管理の在庫手当てを含め、安定した供給体制に対するプレミアムが上昇するだろう。

ソーシャルディスタンシングへの意識も、サービス業を中心に供給を制約することになるだろう。

企業は販売数やシェアより利益率を重要視するようになり、一時的な需要の弱さによる値下げに踏み切るハードルを上げ、価格弾力性を考慮した価格戦略が広がるとみられる。

需要の回復とともに、供給対比での需要の強さが生まれ、物価動向はデフレよりもインフレへの方向性も持つ可能性がある。

原油価格の急落の影響があった2015・16年の後、2017年以降のコアコアCPI前年同月比のトレンドをみると、しっかりと上昇幅が拡大していたことが確認できる。

一方、原油価格の再度の下落と新型コロナウィルス問題による需要の大幅な減少で、現在の物価上昇率はトレンドを大きく下回っている。

今年の物価がテクニカルに弱ければ弱いほど、先行きの需要下支え効果と前年同月比の裏が出て、来年の物価上昇率は高くなりやすい。

来年後半には日本のコアコア消費者物価指数の前年同月比はこれまでのトレンドラインに回帰し、来年末には1%程度まで上昇幅が拡大している可能性があろう。

そして、その時までには、コロナショックによるデフレ現象が一時的であったことが分かるだろう。

図)コアコアCPIとトレンド

コアコアCPIとトレンド
(画像=総務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司