要旨

● 7-9月期法人企業景気予測調査を見ると、20年度計画では、売上高が前回調査から下方修正も、経常利益が非製造業を中心に前回調査から小幅上方修正。

● 前回調査から最も売上高の上方修正率が大きかった業種は「学術研究、専門・技術サービス」と「小売」。「学術研究、専門・技術サービス」には新型コロナ関連の学術研究や専門・技術サービスに関連する業種が含まれている可能性がある。小売は、新型コロナの感染予防対応に関連したスーパーや家電量販店、ホームセンター、ドラッグストア等で上方修正されたと推察される。「情報通信」や「パルプ・紙・紙加工品」も小幅の上方修正。オンライン・EC化に伴う情報通信の需要増、加工食品やEC向け段ボール需要増等が下支えしていることが予想される。

● 増益計画は、自転車等を含む「その他輸送機械」と「紙・パルプ・紙加工品製造」のみ。円高や原材料安、リストラ等に伴うコスト減が主因と推察される。黒字転換の「石油・石炭製品」は、原油価格反転に伴うマージン改善や在庫評価損が縮小したことが予想される。また、売上高計画が上方修正された「情報通信」、「小売」以外にも、製造業では「化学」「情報通信機械」、非製造業では「電気・ガス・水道」「卸売」「金融保険」等が上方修正されていることにも注目。

● 日銀が10月1日に公表する9月短観の収益計画(大企業)も今期業績見通しを読み解く手がかりとして注目したい。

見通し
(画像=PIXTA)

非製造業で利益計画が上方修正

9月11日に公表された7-9月期法人企業景気予測調査は、8月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10億円以上の大企業約4千社に対して行った景気予測調査であり、今期業績計画の修正度合いを予想するための先行指標として注目される。

そこで本稿では、10月下旬からの四半期決算発表でコロナ渦でも比較的堅調な今年度計画が見込まれる業種を予想してみたい。

下図は、法人企業景気予測調査の調査対象企業(全産業、除く金融)の各調査時期における売上高と経常利益計画の年度見通しの推移を見たものである。まず売上高を見ると、20年度は前回調査から下方修正計画となっている。このことから、四半期決算でも売上高が上方修正となる業種には注目が集まるものと推察される。

一方の経常利益は、前回調査では前年比▲23.5%減益計画となっていたものの、今回は同▲23.2%と前回調査から小幅に上方修正されている。このことから、10月下旬からの四半期決算発表では、多くの業種で減益計画が出てくることが予想される中、計画が上方修正となる業種には注目が集まるものと推察される。

景気予測調査から見た今期業績見通し
(画像=第一生命経済研究所)

上方修正期待の「紙パ」「情報通信」「小売」「専門サービス」

以下では、10月下旬からの四半期決算で売上高の上方修正が期待される業種を見通してみたい。下表は20年度の業種別売上高計画前年比を前回4-6月調査と今回7-9月調査で比較し、この3ヶ月の修正状況を見たものである。結果を見ると、20年度に増収計画の業種はないものの、前回調査から最も上方修正率が大きかった業種は、「学術研究、専門・技術サービス」であり、前年比▲8.2%→▲6.6%と+2.2pt の上方修正となっている。それに続くのが、「小売」の同5.9%→▲4.4%と+1.5ptの上方修正となっている。

まず、「学術研究、専門・技術サービス」には、①学術的研究,試験,開発研究、②法律,財務及び会計などに関する事務や相談,デザイン,文芸・芸術作品の創作,経営戦略など専門的な知識サービス、③広告に係る総合的なサービス、④獣医学的サービス,土木建築に関する設計や相談のサービス,商品検査,計量証明,写真制作などの専門的な技術サービス、をそれぞれ提供する事業所が含まれる。したがって、新型コロナ関連の学術研究や専門・技術サービスに関連する業種が含まれている可能性がある。また、小売については、商業動態統計から類推するに、新型コロナの感染予防対応に関連したスーパーや家電量販店、ホームセンター、ドラッグストア等で上方修正された可能性がある。

さらに、「情報通信」や「パルプ・紙・紙加工品」も減益ではあるが、小幅の上方修正となっている。これは、オンライン・EC化に伴う情報通信の需要増、加工食品やEC向け段ボール需要増等が下支えしていることが予想される。

景気予測調査から見た今期業績見通し
(画像=第一生命経済研究所)

増益計画は「紙・パルプ・紙加工品」「その他輸送機械」

続いて、経常利益計画から20年度の業績を牽引することが期待される業種を見通してみよう。

結果を見ると、増益計画となっているのは、自転車等を含む「その他輸送機械」(前年比+39.8 %)と「紙・パルプ・紙加工品製造」(前年比 2.1 %)のみである。ただ、いずれも売上高は下方修正となっているため、円高や原材料安、リストラ等に伴うコスト減が主因と 推察される。なお、黒字転換の「石油・石炭製品」は、原油価格反転に伴うマージン改善や在庫評価損が縮小したことが予想される。

また減益計画ではあるが、経常利益の上方修正幅が大きい業種として、売上高計画が上方修正された「情報通信」、「小売」以外にも、製造業では「化学」「情報通信機械」、非製造業では「電気・ガス・水道」「卸売 」「金融保険 」などが上方修正されていることにも注目だろう。

なお、日銀が10月1日に公表する9月短観の収益計画(大企業)は法人企業景気予測調査に比べて聞き取りのタイミングが若干遅いことから、9月短観における大企業の収益計画も期末決算と来期業績見通しを読み解く手がかりとして注目したい。 (提供:第一生命経済研究所

景気予測調査から見た今期業績見通し
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣