読書をしても、内容を忘れてしまう。アウトプットに活かせない。そもそも読むのが遅い……。読書を習慣にしたくても、そんな悩みを持つ人は多い。多くの本から学び取り、それを確実に活かすにはどうしたらいいのだろうか。1年に1,000冊読み、400本の記事を書くコラムニストの尾藤克之氏に、アウトプットに活かす読書術についてうかがった(取材・構成:林加愛)。
※本稿は『THE21』2020年7月号より一部抜粋・編集したものです。
読書のゴールはアウトプットにあり
「読書術」というと、「速く読む方法」を連想される方が多いでしょう。昨今、巷では「速読」「瞬読」などテクニカルな読書法が注目を浴び、講座に通う人も増えているようです。
しかし、速く読むこと自体にさほど意味はないと思います。私自身は書籍紹介記事を多数書いていることもあり「1冊10分」で読む術を持ってはいますが、速さ自体に価値を置いているわけではありません。
本は本来、「好きに読んでよい」ものです。自分に合った方法で読むのが一番ですし、「読み始めたら最後まで読まなければ」「名著だそうだし、読んでおかないと」などの義務感も必要ありません。
読みたい本を選び、楽しみながら読んでこそ、読書は幸福な体験となります。それは結果として、速く深く読むことにもつながるでしょう。
そうした読書が最終的に「身になる」わけですが――そこに至るにはもう一つ、必要なプロセスがあります。それは、反復することです。読んでいる間にどれほど没頭しても、記憶はすぐに薄れるもの。
有名な研究なのでご存じの方も多いでしょうが、記憶の残存についての「エビングハウスの忘却曲線」によると、人は何かを学んだ後、20分でその内容の42%を、1時間後で56%を、1日後には67%を忘れてしまうそうです。
忘却を防ぐには、間を置かずに何度も読み直すことが必要です。24時間以内に10分間復習、一週間以内に5分復習、という具合に反復・咀嚼すれば、内容は記憶に定着し、真に「身になる」読書となるのです。
この反復に、もっとも効果を発揮するのが「アウトプット」です。概要と感想を書き出す、人に話す、読書会で共有するなどの方法で、読書体験を出力すること。読書を始めるときはいつも、ここをゴールに設定しましょう。
ラクで楽しい本が発見を連れてくる!
さて、「そもそも読書に慣れていない」という方も多いでしょう。近年、日本人の「読書離れ」が進んでいることは確かです。しかし皆が文章に触れなくなったわけではないはずです。
ほとんどの人は日々多くのネット情報を読んでいますし、ビジネスパーソンならば資料やレポートの長い文章にも目を通すでしょう。ですから、読書を楽しむことは決して難しくありません。
まずは「どんな本が読みやすいか」を探ることから始めましょう。私も読書に親しみ始めた頃、その探索をしました。小学2年生で、夏休みの宿題の読書感想文を書いたときのことです。
1冊でよいところを「1日1冊×夏休みの日数=42冊」の感想文を書いて提出、区に表彰されてしまったのですが(笑)、それは「どんな本を好むか」を知る原体験となりました。
最初は中高生が読むようなライトノベルに手を出しましたが、7歳にわかるはずもなく挫折。次に偉人伝を読みました。豊臣秀吉の伝記が面白かったので、そこから信長、家康……と関連人物を追いました。
すると、秀吉の伝記だけでは理解の及ばなかった部分が、別の角度から補強されていくのです。合戦の概要や時代背景などが、2冊、3冊読み重ねるごとに立体的に見えてくる。この経験は極めて刺激的でした。こうして私は歴史好きとなり、現在に至っています。
このように、最初から難しすぎるものを選ばず、そのときの自分が楽に読めるものを選ぶことが大切。次いで、同じレベルの何冊かにあたってみます。その中で「面白い」と感じるものに出会えたら、同テーマで切り口の違うものに当たりましょう。この方法で、好奇心のありかがわかってきます。
自由な「妄想」こそが読書の醍醐味である
慣れるに従って、「楽に読めるレベル」は上がります。それはとりもなおさず、本を読む力が上がったということです。では、この「力」はどのような要素でできているのでしょうか。
読書で鍛えられる力というと、とかく「語彙力」がイメージされがちです。しかし個人的には、無理に語彙力を鍛えようと思う必要はないと考えます。言葉は時代によって変わるものですし、「この本のこの語彙、覚えて使おう」などとばかり考えていると、内容が入りづらくなってしまうことも。
読書という営みは、「妄想する」ことだと私は考えます。小説ならば登場人物に自らを重ね合わせたり、実用書ならば何にどう生かせるかを考えたりと、自由に発想を膨らませることが「楽しい」のです。
それは、著者の意図に思いを馳せることにもつながります。なぜ著者がこの本を書いたのか、どういう意味でこの表現を選んだのか。その想像は、相手を思いやり、理解する力を培います。
つまり読書に親しむと、読解力とコミュニケーション力が同時に上がるのです。これは読書のゴールである「アウトプット力」の基盤となるでしょう。
本への書き込みは「漢字禁止」で素早く
本を「汚く読む」ことも大事な心得です。読んでいて何かを感じるたび、どんどん書き込みをしましょう。それも殴り書きで、とにかくスピーディに。漢字は使わずひらがなのみ、文や語句にするのもNGです。書く作業が増えると、読書の流れが中断されてスピードも集中力も落ちるからです。
私の書き込みもいたってシンプルです。「これ」「あれ」「いい」「ダメ」などのほか、丸や二重丸で囲んだり、傍線を引いたり。どんなときに書き込むかにも、明確な基準はありません。あえていうなら、感情が動いたときです。
「この表現は気が利いている」「面白い小見出しだ」「文末の締め方がいい」「これは最悪」などなど。その思いを詳しく書かずに「いい」や「二重丸」に留めることで、二度目に読んだときにも、「そうだ、ここに引っかかったのだ」という記憶がまざまざとよみがえってきます。
このように、私の読み方は感覚にフォーカスしたものです。さらに言えば、読書とは究極的には「読み手の覚える感覚」なのです。ちなみに、書き手としてよく思うのは、「文章を読ませる」よりも、読者の頭や心に「余韻を残したい」ということです。
「よかったな」にせよ「モヤモヤする」にせよ、何らかの感情や感覚を喚起することが大事だと思っています。それに成功したとき、読み手は「もう一度読んでみよう」「誰かに話そう」と思う――反復やアウトプットへと促されるのです。
アウトプットは人と共有しよう
読書初心者の場合、思わず「アウトプットしたい」と思えるような本との出合いはなかなか訪れないかもしれません。それでも何かを書き出す・話すことにトライしてみましょう。そのために読み直すことで、その本にも、読書という行為にも親しむことができます。
アウトプットの最も簡単な方法は、読書日記です。ただし、自分一人で振り返るだけではおそらく三日坊主になります。ブログやSNS、コミュニティサイト「読書メーター」など、人と共有するしくみをつくりましょう。
「いいね」やコメントをもらうことが、継続の動機になるのです。反対意見や「ダメだし」も受けることもありますが、それもアウトプット力を高める糧になるでしょう。
星の数で評価できるさいともありますが、評価をつけると自分の好みを把握するのに役立つでしょう。感想の文字数は、気負わずに100文字程度から始め、慣れれば300字程度にすれば続きやすいでしょう。
ある程度溜まってきたら、自分のレビューを読み返してみましょう。良い反応を得られる書き方や題材の選び方、文章表現のコツなどが見えてきます。こうして文章力・表現力に磨きをかけていけば、会社の資料作成やプレゼンの技術も確実に上がるに違いありません。
BBCやCNNなど海外の最新情報に触れる
最後にニュースやネット情報についてもお話しておきましょう。コロナ騒ぎで様々なデマや誤報が飛び交う昨今、情報の真偽を見極めるコツは何か、という質問を良く受けます。
しかし現在の環境においては、真偽よりも「情報の速さ」を追求するのが得策です。というのも、日本には何らかの統制があるのか、非常に情報が遅いのです。そこでおすすめなのは、海外の報道をたどり、翻訳ソフトで読むことです。
例えば「BCG接種の新型コロナへの有効性」という説。私はこの話を、日本で報道される数か月前から知っていました。英国BBCのサイトで、インド等での感染率の低さを指摘する報道を観て、そこからインドの新聞や、ケープタウン大学のサイトへと飛んで知ったのです。
お勧めなのは、まずBBCや、米国CNNの情報を当たること。両者とも信頼性は極めて高く、かつ世界各地に拠点があります。世界中のニュースに一歩でも早くたどり着くツールとして大いに活用できます。
一方、日本の新聞やニュースを見る場合は、一紙だけに偏らないほうがベター。保守とリベラル双方の新聞に目を通すと、今の「中立」がどのあたりか、自分の見解はどの立ち位置かが見えてきます。世の趨勢と自分の思考の双方を把握することは、アウトプットの精度をより高めるでしょう。
(取材・構成:林加愛)
尾藤克之(コラムニスト・著述家)
(『THE21オンライン』2020年07月25日 公開)
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