経済
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アイスランド火山の噴火時以上にコロナで欧州の航空便は減少

(欧州航空航法安全機構「航空輸送統計」)

第一生命経済研究所 主席エコノミスト / 田中 理
週刊金融財政事情 2020年9月28日号

 新型コロナウイルスの感染拡大は世界の人の流れを一変させた。各国は感染リスクの高い国からの渡航者の入国を禁止・制限。入国時や滞在中の健康状態を検査し、入国後は一定期間の隔離や公共交通機関の利用自粛などを求めているほか、自国民にも海外渡航の禁止・自粛要請をしている。日本でも旅行や出張で海外に行く人が激減し、観光地や街中で外国人観光客の姿を見ることも少なくなった。国際線の運航便数は激減し、航空機の位置情報をリアルタイムで表示するウェブサイトを見ると、感染拡大前までひっきりなしに飛んでいた航空機が今はまばらだ。

 欧州では過去にも航空機の運航が全面的に停止したことがあった。アイスランドの火山エイヤフィヤトラヨークトルが噴火した2010年4月だ。上空の大気に吹き上げられた大量の火山灰が周辺地域に拡散し、欧州のほぼ全域で飛行機の運航が停止された。影響がとりわけ深刻だったのは、4月15日から22日の8日間(図表1)。欧州域内で10万以上の航空便が欠航となり、1,000万人以上の乗客が足止めされた。その間の運航便数は平時の約半分にとどまり、影響が最も大きかった18日は20%程度まで減少した。航空産業や観光産業が深刻な打撃を受け、生鮮食品の出荷や自動車生産などにも影響が出た。英国のシンクタンク(オックスフォード・エコノミクス)は、世界の国内総生産(GDP)が約50億米ドル(約5,300億円)失われたと試算する。

 コロナ危機では、当時を上回る規模の運航停止が半年以上も続いている(図表2)。欧州内の運航便数は、今年4月に平時の10%前後まで落ち込んだ後、6月中旬以降に欧州域内と安全な域外国からの渡航制限を段階的に解除したことを受け、持ち直し傾向にある。それでも9月初旬の段階で平時の半分程度にしか戻っていない。10年の噴火時は火山灰の影響がなくなれば就航を再開できたのに対し、今回は感染が収束したからといって航空旅客需要が危機前の水準に戻る見込みは立たず、鉄道輸送などの代替需要が盛り上がることも期待できない。今年前半の世界各国のGDPは歴史的な落ち込みを記録しており、影響の大きさ・長さとも桁外れとなっている。

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(提供:きんざいOnlineより)