2020年の税制改正は、大きな制度変更にもかかわらず、結果として多くの会社員の税負担は変わりません。そして、さまざまな制限や影響を受けるのが、年収の高いとされる会社員です。所得控除を活用した節税方法とその効果を検証してみましょう。

目次
2020年税制改正の背景とポイント
税制の改正で影響を受ける人、受けない人
控除額を増やすことで、税負担を下げるという対策
子どもの年金保険料を支払うことで、税負担はどう変わる?
他にも、所得控除を活用するこんな方法も
まとめ:少しでも手取り額を増やすための工夫を

2020年税制改正の背景とポイント

節税対策
(画像=opolja/stock.adobe.com)

所得税は、その年の1月1日から12月31日の1年間で得た収入に対して、一定の計算式のもと確定します。2020年分からの改正点として注目されるのは、「基礎控除の引上げ」と「給与所得控除の引下げ」の2点といえるでしょう。

基礎控除の引上げ

基礎控除とは、給与所得者、フリーランス、パートなどすべての納税者が一律に差し引くことのできる所得控除です。これまで一律38万円でしたが、10万円引上げられて48万円となります。ただし、所得金額2,400万円を超えた場合から段階的に下がり、2,500万円超の場合には基礎控除の適用はなくなります。

▽個人の合計所得金額と基礎控除額

個人の合計所得金額基礎控除額
2019年まで2020年より
2,400万円以下38万円48万円
2,400万円超2,450万円以下32万円
2,450万円超2,500万円以下16万円
2,500万円超0円

給与所得控除の引下げ

給与所得控除とは、会社員や公務員などの給与所得者が、収入に応じて差し引くことのできる金額です。本来であれば、スーツ代や業務に必要な物品を購入した場合には、必要経費として領収証などの証明できるものを添付したうえで申告するものです。ですが効率的に企業で源泉徴収できるよう、収入により一定の算式で決められています。おおむね10万円の引下げですが、年収850万円を超えると一律195万円となります。

▽収入金額別に見る給与所得控除額

2017年~2019年分2020年分以降
給与等の収入金額給与所得控除額
180万円以下収入金額×40%
65万円に満たない場合には
65万円
収入金額×40%-10万円
55万円に満たない場合には
55万円
180万円超 360万円以下収入金額×30%+18万円収入金額×30%+8万円
360万円超 660万円以下収入金額×20%+54万円収入金額×20%+44万円
660万円超 850万円以下収入金額×10%+120万円収入金額×10%+110万円
850万円超1000万円以下195万円(上限)
1000万円超220万円(上限)

この改正によって年収850万円超の人にとって税金の負担が増えたことから、「所得金額調整控除」が新設されました。

▽所得金額調整控除
(給与等の収入金額[1,000万円以下]-850万円)×10% (上限15万円)

所得金額調整控除の対象者は、「①特別障害者である人」「②23歳未満の扶養親族がいる人」「③特別障害者の同一生計配偶者または扶養親族がいる人」のいずれかに該当する人です。

ここで、実際に2019年の税制と2020年の税制でどのくらい税金が変わるのか、比較してみましょう。

▽【2019年まで】:年収1,000万円 45歳独身の場合
*給与所得:1,000万円 - 給与所得控除220万円 = 780万円
*所得控除計:165万円
・社会保険料控除(厚生年金、健康保険、介護保険): 約127万円
・基礎控除:38万円 
*(課税)所得金額:780万円-165万円=615万円
*税率:20%
*所得税額:615万円×20%-42万7500円=80万2500円

▽【2020年より】:年収1,000万円 45歳独身の場合
*給与所得:1,000万円 - 給与所得控除195万円 = 805万円
*所得控除計:175万円
・社会保険料控除(厚生年金、健康保険、介護保険):約127万円
・基礎控除:48万円 
*(課税)所得金額:805万円-175万円=630万円
*税率:20%
*所得税額:630万円×20%-42万7500円=83万2500円

比べると、同じ年収1000万円の場合、改正による税負担は3万円のアップとなっています。

税制の改正で影響を受ける人、受けない人

多くの給与所得者にとって、基礎控除の引上げと給与所得控除の引下げが10万円であることから、結果として税額に影響はありません。しかしながら、年収850万円を超える給与所所得者にとっては、収入が上がるほど税負担が大きくなる「痛い」改正となったことは事実です。

これは、2018年に合計所得金額が1,000万円を超える場合には、配偶者控除が受けられなったことに続く、更なる負担増です。働き方の多様性を踏まえ、働き方改革を後押しするための見直しですが、負担増に対する諦めや嘆きの声を多く耳にします。

控除額を増やすことで、税負担を下げるという対策

税金が社会に果たす役割を考えると、払うことを否定する訳ではありません。しかし、可能な限り税負担を抑え、手取り額を増やしたいものです。

そこで、わかりにくい税金に関わる単語やしくみについておさらいしておきましょう。

所得には、個人事業主などの事業所得や不動産収入がある方の不動産所得、配当所得や譲渡所得など10種類ありますが、ここではほかに所得のない「会社員(給与所得者)」に限定して解説します。

▽給与所得者の税金試算の流れ

収入 - 給与所得控除 = 給与所得
1000万円 - 195万円 = 805万円

・収入=年収:1年間に事業主が給与として納税者に支払った金額
・給与所得:収入から給与所得控除額を差し引いた金額

給与所得 - 所得控除 = 課税所得金額

・所得控除:以下のような控除を含む

社会保険料控除
小規模企業共済当掛金控除
生命保険控除
地震保険料控除
寄付金控除
配偶者控除(配偶者特別控除)
扶養控除
基礎控除
雑損控除 など

課税所得金額 × 税率 = 税額

所得税額 - 税額控除 = 所得税額(納税額)

・税額控除:以下の控除を含む

住宅借入当特別控除(住宅ローン減税)
配当控除
外国税額控除
政党等(認定NPO法人等)寄付金特別控除

収入から算出される給与所得控除額は、自分自身でコントロールすることができません。そして、税額は課税所得金額で決まると考えると、数ある「所得控除」を活用して所得金額を抑えることに効果がありそうです。

なお、節税なんて面倒くさいことをするよりも、税金を多く払ってでも収入を増やせばよい、という考え方もあります。節税は、あくまでも手元にできるだけ多くの資金を残す手段の1つです。

子どもの年金保険料を支払うことで、税負担はどう変わる?

大学生などの20歳を過ぎた子どもがいる場合の所得控除活用は、納税者にとっても、子どもにとっても有効です。

20歳になると国民年金に加入する必要があります。会社員であれば、勤務先で厚生年金に加入することになります。一方で、学生は国民年金保険料猶予を申し出ることで「学生納付特例制度」を利用することが可能です。将来の年金を受取るための受給資格期間には含まれますが、年金額には反映されません。満額受け取るためには、10年以内に保険料を納付する必要があります。

そこで納税者である親が代わって、国民年金保険料(2020年度保険料:月あたり16,540円)を支払うことで全額を所得控除として申請することが可能です。

▽年収1000万円 45歳 家族:妻(会社員)、長男21歳大学生の場合
*給与所得:1,000万円 - 給与所得控除195万円-所得金額調整控除15万円 = 790万円
*所得控除計:258万円
・社会保険料控除(厚生年金、健康保険、介護保険): 約127万円+(国民年金保険料)約20万円
・基礎控除:48万円、扶養控除(特定扶養親族)63万円
*(課税)所得金額:790万円-258万円=532万円
*税率:20%
*所得税額:532万円×20%-42万7500円=63万6500円

前述した年収1,000万円、独身者の例と比べると、子どもの国民年金保険料約20万円が節税効果になっていることがわかります。そのほか、19歳から22歳までの子どもがいる場合の「特定扶養控除」や「所得金額調整控除」を利用できることで、大きな節税効果となっています。また国民年金保険料を納付することで、子どもが就職後に追納の必要なく、将来の年金額にも反映できるというメリットもあります。

他にも、所得控除を活用するこんな方法も

所得控除を活用することで可能な節税対策をあげてみましょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)で積立額(拠出額)全額を「小規模企業共済等掛金控除」

節税と同時に将来への資産形成が可能になります。すでに勤務先で企業型確定拠出制度を実施している場合や制度の有無により、口座開設の可否や上限額が異なりますので、確認が必要です。

政党もしくは政治資金団体、公益社団法人や認定NPO法人への寄付により「寄付金控除」

①寄付金控除(所得控除)の適用もしくは、②寄付金特別控除(税額控除)の適用を受けるか、どちらかを選択することができます。税額を減らすことは可能ですが、手元資金は減ります。

ふるさと納税

すでに活用している人は多いかもしれません。応援したい自治体を選び、地域の特産品などの返礼品を受取ることができます。
たとえば、10,000円を寄付する場合、2,000円が自己負担、8,000円が所得控除対象となります。また、所得税の還付を受けるためには、確定申告が必要です。またはワンストップ特例制度など簡単に申請できる方法もあり、この場合は住民税の控除対象となります。

医療費控除(セルフメディケーション税制)

従来の医療費控除の特例として、特定の医薬品購入や健康増進取組み医薬品(対象商品は店頭のマーク等で確認)などの購入費用について控除の対象です。同一生計であれば世帯で合算できますので、レシートを破棄しないようにしましょう。また、医療費控除も確定申告が必要です。

まとめ:少しでも手取り額を増やすための工夫を

累進課税制度を採用する日本の税制は、年収の高い人ほど大きな税負担になります。社会情勢や経済状況の厳しいなか、財源確保のための税制改正は、年収1,000万円前後の方たちへの影響が最も大きくなっています。一生懸命働いても額面どおりに手取り額が増えない現実は厳しいものです。本記事の内容を参考に、適切な節税対策を考え、自分自身にあった方法で、少しでも手取り額を増やしていきましょう。(提供:JPRIME

著者:大竹麻佐子


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